連載「lit!」第102回:ビリー・アイリッシュ、デュア・リパ、トミー・リッチマン……音楽シーンを騒がせる真の注目作
現在TikTokで700万フォロワーを獲得している米ワシントン州出身の21歳、ベンソン・ブーンは米国のオーディション番組『アメリカン・アイドル』で一躍有名になった。審査員であるケイティ・ペリーに激賞されるほどだったにもかかわらず、音楽制作に力を入れるために番組を降板。自作曲をネットにアップロードして注目を浴びるうちに、Imagine Dragonsのダン・レイノルズに見出され、彼のレーベルであるナイト・ストリート・レコードと契約した。最新アルバム『Fireworks & Rollerblades』はスタジアムでの鳴りを意識したようなロックサウンドに、激情を吐き出すように声を張り上げたボーカル、そして大袈裟なほど劇的な展開がティーンの支持を集めている。サウンドがロック寄りなのがここ数年のポップシーンの大きなトレンドとも合致している。中でも特大ヒットなのがこの「Beautiful Things」だ。ロサンゼルスに引っ越してきたばかりの眠れない9月29日の夜にピアノで書いた曲なのだという(※1)。彼の音楽性は「親密で日記的なポップ」と称されるが、まさにこの「日記」的な素直さが共感を呼んでいるのかもしれない。
先日の『コーチェラ』で衝撃的なステージを披露し、人気が急上昇したミズーリ州出身の1998年生まれの26歳、チャペル・ローン。一度見たら忘れられない強烈なキャンピーな装いは、ドラァグクイーンにインスピレーションを受けたものだという。ローンは昨年リリースのデビューアルバム『The Rise and Fall of a Midwest Princess』が批評的評価をじわじわと集めていた新人だが、実はわずか17歳の時点でアトランティック・レコードと契約し、2017年にはEPまでリリースしていた。しかし、2020年にロサンゼルスでゲイクラブを訪れたことがきっかけでできたシングル「Pink Pony Club」がヒットしたものの、期待されていた数字を達成することができなかったためレーベルを解雇されてしまう。そして後にアイランド・レコードに移籍して繰り出されたのが上述したデビューアルバムで、それから先日の『コーチェラ』でさらに火がついたというわけだ。そんな中でリリースされたシングル「Good Luck, Babe!」は穏やかでどこかゴージャスなシンセポップだ。女性のクィアネスを赤裸々に解放する点はビリー・アイリッシュとも共通するが、初期のローンもラナ・デル・レイのフォロワーだったことも大きな共通点だ(最初期のローンには「Die Young」というラナを明らかに意識した曲がある)。ラナが蒔いた種が、ラナとはまた少し違ったかたちであちこちで芽吹き始めているのだ。
※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/134706/2
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