AJICO、鮮烈なサウンドで鳴らす“愛と警告” 『ラヴの元型』が生身の人間性に問いかけるもの

AJICO、鮮烈なサウンドで鳴らす愛と警告

UAが投げかける問題意識 ここでしか味わえないベンジーの魅力も

 このようにサウンド面で前進を見せているAJICOだが、かたや、歌に込めたメッセージ性も着目したいところが多い。

 前作から際立っているのは、現代社会への警告である。「ラヴの元型」では〈君の現在地 ググってる場合じゃない〉といったフレーズや、アルゴリズム、AIといった現代的なワードとともに、魔術師、陰謀論など、人間の不安を表す言葉も歌われている。あまりに高度化したこの世の中で、人々がその過剰な情報の渦に取り込まれ、行き先を見失ってしまった心理が描かれているのだ。

 同曲のメッセージを具現化したと思われるのが、本作のCDの初回限定盤のジャケットのアートワークだ。複数の電源タップに幾多のACケーブルがこんがらがるように突き刺さっているイメージは、滑稽なようでありながら、明らかに限界に達した状態を示しており、いつ惨事が訪れてもおかしくない危険性を体現しているのではないだろうか。

 これは歌詞を書いたUAが今抱えているテーマ性のひとつに違いない。2000年代より都心から離れた生活を送りはじめ、沖縄を経て、現在はカナダの島で家族とともに生活を送っている彼女。その思考は個人の視点を超え、時に地球規模にまで及ぶことがあり、たとえば「地平線 Ma」では〈もう右も左も関係ない〉という歌い出しに顕著なように、人間は社会的、政治的な立場を超えてこの世界をどうにかしていかなければいけないというメッセージを発していた。こうした側面は、第2期のAJICOで顕著になった傾向である。

 さらにもうひとつ、UAはそうした中での愛、あるいは愛情といったものの大切さを歌っている。今作で言えばそれは「ラヴの元型」と「言葉が主役にならない」に表れていて、どちらからも彼女の真摯な感情が伝わってくる。こうした歌はソロでのUAの楽曲にも表現されており、それがAJICOにも派生するように楽曲となっている印象を受ける。

UA - アイヲ (Official Video)

 かたやベンジーもここ何年もの間、浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLSやSHERBETSで、愛情についての歌やこの世界が抱える問題についてどう生きていくかを描いた曲を書き、歌っている。

SHERBETS 『愛が起きてる』MUSIC VIDEO(Short Ver.)

 ふたりはAJICOというバンドのメンバー同士として、こうしたお互いの感覚に共鳴しているとは思う。ただ、先ほどの音楽性の話ともつながるが、AJICOの中心はUAに置かれるケースが多く、それは歌のメッセージ性についても言えること。ベンジーは「あったかいね」やネコとの戯れを歌う「キティ」、前作なら「L.L.M.S.D.」のように、スウィートだったりお茶目だったりする歌で、自身のバンドとは立ち位置を変えて表現する役に回っている。こんなふうに一歩引いたポジションの彼を見る場面はあまりないので、そうした視点からAJICOを楽しむのも興味深いはずだ。

 「ラヴの元型」というタイトル、そして楽曲からは、愛がレア、未完成な状態であることを想起させる。生身、むき出し、そこで表出される愛情、人間らしさ。EPのリリース直後である3月中旬からスタートした全国ツアーでは、そんなAJICOの姿が堪能できることを期待する。

◾️リリース情報
AJICO EP『ラヴの元型』
2024年3月13日(水)発売
【通常盤】(CDのみ)
VICL-65935/価格¥2,200(税別)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-65935.html
【初回限定盤】(CD+DVD)
VIZL-2298/価格¥5,400(税別)
https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VIZL-2298.html

配信:https://jvcmusic.lnk.to/Lovenogenkei

<CD収録曲>
1. ラヴの元型
2. あったかいね
3. 言葉が主役にならない
4. 微生物
5. キティ
6. 8分前の太陽光線
<DVD収録曲>
1. 深緑
2. 美しいこと
3. すてきなあたしの夢
4. フリーダム
5. L.L.M.S.D.
6. Black Jenny
7. 接続
8. 惑星のベンチ
9. 金の泥
10. 悲しみジョニー
11. 地平線 Ma
12. 情熱
13. ペピン
14. 庭
15. アントニオの唄
16. カゲロウソング
17. 波動
18. 水色

◾️ツアー情報
『アジコの元型』
3月30日(土)東京 日比谷野外大音楽堂 OPEN/17:00 START/18:00
4月6日(土)金沢 エイトホール OPEN/17:15 START/18:00
4月7日(日)長野 茅野市民館マルチホール OPEN/17:15 START/18:00
4月11日(木)鹿児島 CAPARVO ホール OPEN/18:15 START/19:00
4月13日(土)福岡 DRUM LOGOS OPEN /17:15 START/18:00
4月14日(日)熊本 B.9 V1 OPEN/17:15 START/18:00
4月20日(土)大阪 Zepp Namba OPEN/17:00 START/18:00
4月21日(日) 名古屋 Zepp Nagoya OPEN/17:00 START/18:00
4月24日(水)東京 Zepp Shinjuku OPEN/18:00 START/19:00
チケット:7,700円(税込/ドリンク代別)

AJICO Victor Website

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