伊東健人が放つ異彩さ 2nd EPを機に振り返る、声優デビュー前からの音楽活動と幅広い楽曲
その「真夜中のラブ」が収められた1st EP『華灯』のリリースから約1年の時を経て放たれるのが、今回の2nd EP『咲音』だ。昨年から今年にかけて配信リリースされていた「戯言」「サッドマンズランド」「My Factor」の3曲に伊東自らが詞曲に携わった2曲などを加えた全6曲入り。前作に引き続き、大づかみに言えばAORテイストに軸足を置いたエッジーなサウンドメイクがベースになっており、収録曲の方向性としては前作以上にアグレッシブな印象を与える作品に仕上がっている。
穏やかなインストナンバー「Sign」に導かれ、本作は「My Factor」で華やかに幕を開ける。これはテレビアニメ『月が導く異世界道中 第二幕』（TOKYO MXほか）第1クールのエンディングテーマとして制作されたもので、四つ打ちビートときらびやかなシンセサウンドが鮮烈に響くディスコポップナンバー。中でもサビの〈こじつけたい〉というフレーズなどは、そのリズム感や響き、ワードチョイスの意外性などから往年のディスコ歌謡を彷彿とさせる中毒性が感じられる。その情熱的な歌詞とは対照的に、伊東のボーカルがあくまで平熱を保っている好コントラストな表現も聴きどころだ。
続く「戯言」は、ギターサウンド中心のミディアムポップロック。一聴すると爽やかなポップソングだが、低音の処理に切れ味があり意外にヘヴィなサウンドになっているところがポイントだ。歌メロ的には伊東の最大の武器とも言える地声とファルセットのダイナミックな行き来を大々的にフィーチャーしたサビメロが特徴的で、その音程跳躍も含めてメロディライン全体が実に朗々としている。ボーカル的にはパートごとの倍音コントロールが絶妙であり、あふれるエモーションをどうにか抑え込んでいるかのような歌表現とも相まって、彼のボーカリストとしての技術力の高さを存分に味わえる1曲だ。
キタニタツヤの手がけた「サッドマンズランド」は、ハイテンションなスラップベースから始まるスリリングなマイナーキーのダンスロックチューン。デビュー曲「真夜中のラブ」で提示した情報量過多な路線を拡張する1曲で、“ほかの声優アーティストでは味わえない、伊東健人ならではの音楽世界”を確立しうる可能性をもっとも強く感じさせる方向性の楽曲と言っていいだろう。一人称で語るヴァースと心の声のヴァースで明確にボーカル表現を（エフェクトも含めて）変えており、「戯言」とはまた違った意味で多彩な歌声を堪能することができる。声優アーティストらしからぬ音楽性ではありつつも、声優ならではの巧みな声表現が十二分に発揮されている楽曲でもあるというわけだ。しかもサビでは地声とファルセットのコンビネーションが用いられており、実に隙がない。
伊東自身が作詞を手がけた「BiT」は、サウンド的にはテクノとロックの融合といった塩梅だが、歌詞やボーカルスタイルはヒップホップのムードに近いという、ある種のミスクチャー感覚を味わえる1曲だ。ソロワークでは比較的味つけの薄いフラットで等身大なボーカル表現を多用する傾向にある伊東だが、ここでは若干ワイルドな風味を加えた“悪健人”ボーカルを楽しむことができる。四字熟語を多用したリズミカルな作詞術にも注目だ。
ラストナンバー「Follow」は、作詞作曲を伊東が単独で手がけたファン待望の1曲だ。今作で唯一と言っていい穏やかなアコースティックバラードで、肩の力が抜けた柔らかなボーカル表現が用いられている。サビ後半のVImからII7に展開する和音進行などに邦楽ロック好きのルーツをそこはかとなく感じ取れるところも面白いポイントだ。ハードで情報量の多いEPの締めとして、心穏やかに聴けるナチュラルテイストのこの1曲が占める役割は決して小さくない。
伊東はこの充実作を携え、4月14日に待望の初ワンマンライブ『Kent Ito 1st LIVE 〜咲音〜』を東京・豊洲PITにて開催する。見どころの多い公演となることは間違いないため、くれぐれもお見逃しなく。
■リリース情報
2nd EP『咲音』
リリース日：3月27日（水）
・商品形態：初回限定盤（CD+Blu-ray）AZZS-150／4500円（税込）
・通常盤（CD only）AZCS-1125／2800円（税込）
＜収録内容＞
[CD]
M1.Sign
M2.My Factor
M3.戯言
M4.サッドマンズランド
M5.BiT
M6.Follow
[Blu-ray]
「My Factor」-Music Video-
「My Factor」-Making Video-
「咲音」-Special Documentary-
■公演情報
『Kent Ito 1st LIVE ～咲音～』
公演日：2024年4月14日（日）
開場：17:00／開演：18:00
会場：東京・豊洲PIT
チケット：全席指定 8,000円（ドリンク代別）
企画・制作：Astro Voice
