伊東健人が放つ異彩さ 2nd EPを機に振り返る、声優デビュー前からの音楽活動と幅広い楽曲

伊東健人が放つ異彩さ

 『ヒプノシスマイク −Division Rap Battle−』(TOKYO MXほか)の観音坂独歩役や『【推しの子】』(TOKYO MXほか)の雨宮吾郎/ゴロー役などで知られる声優アーティスト・伊東健人が、3月27日に2nd EP『咲音』(読み:さいん)をリリースする。キタニタツヤによる提供曲「サッドマンズランド」や自身初となるアニメタイアップ曲「My Factor」などの既発曲を含む全6曲入りで、伊東にとっての新たな音楽的挑戦がふんだんに盛り込まれた意欲作に仕上がっている。本作のリリースを機に、改めて彼のこれまでの音楽活動を振り返りつつ、新作の魅力に迫ってみたい。

 伊東は2022年に川谷絵音(indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイ、ichikoro、礼賛)プロデュースによる楽曲「真夜中のラブ」でソロアーティストとしてデビューを果たしているが、それ以前からかなり充実した音楽活動を展開してきている。ソロデビューからさかのぼること5年、中島ヨシキとの音楽ユニット・UMakeとして最初の音源作品『節歌集~first~』をリリースしたのが2017年8月のことだ。これは2人がパーソナリティを務めるラジオ番組から自然発生的に誕生したユニットで、作詞を中島、作曲を伊東が担当する形で精力的に活動。2023年までにアルバム3作、シングル5作、ライブ映像作品3作をリリースしている。

 また、キャラクターソングのカテゴリにおける伊東の活躍も目覚ましいものがある。とくによく知られているのは『アイドルマスター SideM』(TOKYO MXほか)の硲道夫役、および前述した『ヒプノシスマイク』の独歩役だろう。いずれも音楽を主軸としたメディアミックスコンテンツであり、伊東は作品の主要キャラクターの1人として音源リリースやライブパフォーマンスを頻繁に行ってきた。その中で、2019年にはヒプノシスマイクのメンバーとして『第13回声優アワード』で歌唱賞を受賞もしている。もちろんそれ以外の作品でも多数のキャラソンに携わっており、ソロアーティストデビュー以前から彼の歌声に触れる機会はかなり多かったと言える。

magic number / バーチャル・シンガーver.(初音ミク)

 もっとも、近年の声優にとってそれはさほど珍しいことではない。伊東が異彩を放っているのは、声優デビュー以前から音楽活動にかなり力を入れていた点だ。高校時代のコピーバンド活動に始まり、大学時代には軽音楽部でのバンド活動のかたわら“21世紀P”と名乗ってボカロPとしても活躍。つまりアマチュア時代から歌唱や楽器演奏はもちろん、作詞作曲やDTMにも精通していたということにほかならない。専任ミュージシャンならまだしも、声優としては極めてユニークな経歴の持ち主であると言っていいだろう。バンドや楽器演奏、作曲などの経験を持つ声優は決して珍しくはないが、“元ボカロPの声優”というのはあまり聞いたことがない。なお余談だが、伊東は声優デビュー後の2021年にゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』にボカロ曲「magic number」を提供している。21世紀P名義ではなく伊東健人名義ではあったが、久々のボカロPとしての活動となり界隈を賑わせた。

 そんな彼が声優としてデビューしたのは2011年のこと。ほどなくして始動した『アイドルマスター SideM』や後年の『ヒプノシスマイク』といったプロジェクトが大きな反響を呼ぶ中、純粋なアニメ声優としても2018年に初主演作として臨んだ『ヲタクに恋は難しい』(フジテレビ系)がヒットするなど、芝居面でも音楽面でも充実した声優活動を繰り広げていた。そうした中、デビュー10周年イヤーとして迎えた2022年に伊東は満を持してソロアーティストとしてのスタートを切ることとなる。

伊東健人「真夜中のラブ」Music Video

 デビュー曲「真夜中のラブ」は、冒頭でも述べたとおり川谷絵音がプロデュースを手がけたもの。いかにも川谷らしい複雑なリズムアクションとジャジーなコードワーク、情報詰め込み型のメロディラインおよび歌詞、目まぐるしく展開するアレンジなどが光るダンサブルなAORナンバーで、ひと言で言えば非常にテクニカルかつマニアックな1曲であった。この難曲に対し、伊東は奇をてらうことなくストレートなボーカル表現で真っ向勝負。声優だからと芝居がかった表現に逃げることなく、等身大で飾らないまっすぐな歌声を吹き込むことで良質な大人のポップスとして昇華させている。声優アーティストのデビュー曲としては異例なほど、楽曲テイスト的にもボーカルスタイル的にも挑戦的なものであったと言っていいだろう。この1曲で伊東は「ただ普通に声優がアーティストデビューしたというだけの話ではない」という明確な意思を提示してみせた。

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