玉井健二、『ガールズバンドクライ』の隠れテーマは打倒K-POP? プロジェクトを越えた、世界で勝てるバンドの可能性

アゲハ 玉井健二『ガルクラ』にかける情熱

「K-POPのクオリティにどうやったら追いつけるか」が隠れたテーマ

【Official Music Video】トゲナシトゲアリ「サヨナラサヨナラサヨナラ」 - アニメ「ガールズバンドクライ」

ーー求めているメンバーに関してですが、楽器が弾けて演奏が上手な人はたくさんいるわけで、それに加えてバンドというものを理解して情熱を持っていることが非常に重要になってくると。

玉井:バンドをやっている人は大きく分けると二種類いて、ひとつは「音楽が好きな人」で、もうひとつは「バンドをやっていることが好きな人」。本来はバンドをやることが好きなだけで十分ですが、今回の企画は音楽自体を好きな人じゃないとおそらく務まらないんです。昔よくあった話で、バンドと最初に面談するときに「目標はなんですか?」と聞くと、「フェスに出たいです」と言うわけです。でも僕らが一緒に仕事をしたい人は「フェスを作りたい」という人。だって、「フェスに出たい」というのはメンタリティ的には「『紅白』(歌合戦)に出たい」というのと一緒ですからね。僕は「フェスを自分で作りたいんだ」というほうがバンドっぽいと思うし、そういった人たちが作る音楽が世の中を変えていく可能性が高いと思っているので、トゲナシトゲアリのメンバーにはそういった人たちであってほしかったんです。

ーーさらに、声優としても本気で向き合える人となると……。

玉井:本当にいなくて、そこに対して向かっていける人が最後のハードルになるわけです。なので、今ここにいる5人は「それを超えられるだろう」という前提で来てもらっています。

ーー本当によく見つかりましたよね。

玉井:なかなか見つからなくて、最初のスケジュールからズレまくりで。ようやく最後にボーカル(理名)が見つかって「これで行きましょう!」と言えたんですけど、それまでは生きた心地がしなかったです。

ーー実際、理名さんが最後に加わったわけですが、ボーカルとなるとバンドの顔にもなるわけで、選出もよりシビアになるわけですよね。

玉井:はい。僕がずっとこだわっていたのが、仮にアニメも『ガールズバンドクライ』というプロジェクト自体もなくて、声優もやっていなくても5人組のガールズバンド単体で、世界で勝負して勝てるボーカル。それに適う人しか選ばないと決めていましたが、結果、14歳のすごい才能が見つかった。もちろん技術的にはまだまだこれからで、覚えないといけないこともたくさんありますが、「素材として間違いない」と自信を持てたのが彼女でした。

ーー昨年の公開練習ライブを拝見したときも、理名さんのフロントに立つ者としての存在感から、色々な可能性が伝わってきました。

玉井:よく言っていることですが、彼女たちは最終的に1200~3000ぐらいのエレメントを達成しないといけません。でも理名も他のメンバーも、まだそのうちの5、6個しか達成できていない。にも拘わらず、その先があれだけ見える人というのも、なかなかいない。面白いことに、彼女には「教えていないことができる」という現象が起きるんです。公開練習ライブのときも、あそこで繰り広げていたパフォーマンスの大半はこちらが教えていないことだったんですね。彼女には「ステージに立ってバンドを背負って歌う」といった経験自体がありませんでしたが、結果できていた。それこそ才能ある人の特徴だなと。

ーーもちろん、歌っていないときの佇まいや仕草からは、「慣れていない感」も伝わってきて初々しかったです。

玉井:素人丸出しでしたね(笑)。

ーーでもマイクを手に歌い始めた瞬間、なんともいえないオーラを発する。

玉井:「感性」といえばそれまでなんですけど、素養ですよね。

ーーメンバーが決まる前から楽曲制作を進めていたそうですが、トゲナシトゲアリは葛藤やネガティブな要素、シリアスな空気を纏っている楽曲が特徴ですが、この方向性はどの時点で決まったのでしょうか。

玉井:まず『ガールズバンドクライ』のストーリーのプロットが上がって、(夕莉が演じる)河原木桃香のキャラクターが見えてくる。出身地や年齢、パーソナリティなどの設定を現実の世界に落とし込んだときに、「彼女くらいの年齢のギタリストがどういった人生を歩んできたのか」と自分の中でプロファイリングするんです。彼女は2000年代初頭のバンドサウンドとボカロ曲に触発されているはずで、人間が歌えないような譜割りの曲をバンドでやろうとする。今はそういったバンドもたくさんいますが、おそらくその走りに引っかかるぐらいの年齢でギターや作曲を始めた。そういった段階を踏んでいく中で、聴く音楽も変わってくる。ギターを弾き始めたときに聴く音楽はギターが軸になるでしょうし、作曲を始める頃にはクリエイター視点で音楽を聴くようになる。それぞれ、「だいたいこれくらいの年代かな」と当てはめながら、「iPhoneで出会える曲の中で反応したであろう曲はこのあたりかな」と、年代だけでかなり絞れるわけです。その中で、ひとつ特徴としてあるのが「BPMが高速である」ということと、こういった音楽遍歴を経てきた人は「マスに満遍なくウケそうで安易に聴こえるポップさを回避するだろう」ということ。そこを踏まえて、最初に「名もなき何もかも」を作ったんです。

ーー確かに「名もなき何もかも」には、玉井さんがおっしゃった要素がギュッと詰まっています。

玉井:ボカロ曲においてすごく特徴的なのが、普通のJ-POPよりもある意味で日本語を活かせている、という点。それは鉛筆や筆で日本語を覚えていない人の感覚であって、絶対に書けない漢字や言葉をスマホで検索して目にしている人の日本語感。歌詞を書いたりタイトルを決めるときに、変換して出てきた漢字を語感の響きとデザイン重視で選ぶと思うんです。僕らが大事にしたいと思ったのがその部分で、そのプロセスを経ているとなると、まず「自身が抱えている葛藤を言語化した歌詞になるだろうな」と。「ひとりで沸々と抱えている葛藤や苛立ちや絶望感がメインのテーマになるはずだ」と、作品の設定から導き出したわけです。

 オーディションのときにはすでに「名もなき何もかも」が存在していて、あの曲を演奏するという課題も作ったわけですが、その段階でも大きなふるいにかけられるわけです。まず、高い演奏力や歌唱技術が求められるわけですから。そこもこの曲を作ってからちょっと後悔したんですけどね(笑)。でも、この曲で勝つことがひとつ、トゲナシトゲアリというバンドとして最高の勝ち方なんです。動画サイトやSNSによく上がる「弾いてみた」「叩いてみた」「歌ってみた」をしづらい曲なので、「あれはヤバいよ、あんなの弾けないよ」と言われる曲でみんなに知ってもらうのが、僕は大事だなと思っているんです。トゲナシトゲアリは自作自演じゃないけど、我々プロが用意した曲を「そんなことどうでもいい」ぐらいの演奏をしなくてはいけない。そうなったときに、簡単なアレンジで誰でも弾けるようなフレーズを、したり顔でプレイしても誰も感動しないだろうなと。10代から20代ぐらいの女性があのフレーズを易々と弾いてのけるほうが、初めて観た人は感動するんじゃないかと思うんです。

 もうひとつ。これはこのプロジェクトで僕だけが意識していることかもしれませんが、「K-POPの人たちのクオリティにどうやったら追いつけるか」ということが隠れたテーマとしてあって。あのクオリティを超えるにはあと10年以上かかるんじゃないかと思っていたのですが、僕らでもまだ勝てる隙間が二つあると信じているんです。そのひとつがバンドで、もうひとつがバラード。この二つで国外の人に圧倒的に支持してもらえるコンテンツやアーティストが作れることを、仮説としてずっと持っているんですが、そういった意味ではトゲナシトゲアリも成功の可能性を秘めていると思うんです。僕らが作っているあの楽曲を生で完璧に演奏して完璧なパフォーマンスを観せられたら、国外の人に負けないバンドになるはず。そうすれば今度は「トゲナシトゲアリを追い抜くのに10年かかる」と言われるようになるんじゃないかと、信じています。

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