玉井健二、『ガールズバンドクライ』の隠れテーマは打倒K-POP? プロジェクトを越えた、世界で勝てるバンドの可能性

アゲハ 玉井健二『ガルクラ』にかける情熱

 東映アニメーション×agehasprings×ユニバーサル ミュージックによるメディアミックスプロジェクト『ガールズバンドクライ』のテレビアニメが2024年4月5日より放送がスタートする。同プロジェクトから昨年デビューした5人組バンド トゲナシトゲアリのプロデュースを担当しているのが、agehaspringsの玉井健二だ。

TVアニメ『ガールズバンドクライ』本予告第1弾【2024年4月5日(金)より放送開始】

 トゲナシトゲアリは、フォーマット化されている「声優がバンドを組む」形ではなく、「バンドから始まりアニメへと発展していく」という逆の発想で企画されているため、agehaspringsが用意する高難易度の楽曲を自分のものにできるミュージシャンとしての素質があり、かつ声優としてもポテンシャルを持つメンバーが3年以上の時間をかけて集められた。

 同プロジェクトを持ちかけられた当初は難色を示していたという玉井だが、どのような志しを持って参加を決意し、現在まで楽曲を手がけてきたのか。難航を極めたオーディションの模様から楽曲コンセプトや制作背景、そしてインタビュー中に語った「K-POPの人たちのクオリティにどうやったら追いつけるか」という隠れテーマの意図とは。玉井の言葉にはプロジェクトの枠組みを越えた、音楽シーンへの課題意識と熱い情熱が秘められていた。(編集部)

「バンドっぽい曲」と「バンドの曲」の違いは“偏り”

玉井健二
玉井健二

ーー玉井さんはどのような経緯で『ガールズバンドクライ』プロジェクトに関わることになったのでしょうか。

玉井健二(以下、玉井):3年以上前のことですが、「ガールズバンドのアニメを作るんだけど、バンドはリアルでやりたい」といった話を東映アニメーションの平山理志さん(『ガールズバンドクライ』プロデューサー)からご相談いただきまして。これは色々なところで話していますが、私としてはこういったプロジェクトのお誘いはだいたい断るんですね(笑)。声優さんがバンドをやるのはフォーマットとして存在していて、すでに成功している。でも、今回はバンドを先に走らせて、そのバンドがだいぶ良い評判を得ている状態でアニメがスタートするわけですから、言うのは簡単ですが実現させるだけでも非常に労力がかかるわけです。

 ただ個人的には、日本のアニメーションの制作現場に対して、「国や文化を越えて多くの人を取り込むんだ」といった気合いを感じていて。それも気持ちだけではなくて、実際の経験も彼らには備わっている。だから客観的に見て、「このコラボレーションは面白いだろうな」と、そこに尽きるわけです。僕は音楽業界で30年以上仕事をさせてもらっていますが、やはり「本物のプロフェッショナルと仕事をしたい」というのが、単純な欲求としてあって。その「本物のプロフェッショナル」というのを、この数年はアニメーションの現場で感じることが多く、平山さんや酒井和男さん(『ガールズバンドクライ』監督)、花田十輝さん(『ガールズバンドクライ』シリーズ構成)の、プロとしての姿勢に触発されたところもあり、引き受けることにしました。

ーー音楽の現場とは違った熱量や気迫がアニメの現場から溢れ返っているというのは、興味深いです。

玉井:音楽業界は成熟しているぶん、「だいたいこんなもんだろう」といった空気をときどき感じるんですよね。例えば、アルバムのタイトルを決める際は10人ぐらいで協議するんですが、参加メンバーがポロっと言った言葉から「じゃあそれでいこうか」と決まる。なんのための会議だったんだ、と思うことがあるんですが、アニメーションの現場でそういった経験をしたことがほぼなくて。1話のタイトルを決めるときでも全員が本気で話し合って、最後の最後までバチバチに議論を戦わせる。酒井さんと平山さんでさえ「その場面はこのほうがいいんじゃない?」「いや、あのシーンはこう考えていて」「俺はそう思ってない」とか、僕の目の前で討論し始めるんですから(笑)。みんないい歳した大人なんだけど、その熱量が、本気で成功したがっているバンドっぽいなと思いました。そこが面白いし心地よくて。それに騙されていまやっているところもあります(笑)。

ーーそうだったんですね。

玉井:はい。で、まずはバンドを作らなければいけない。「バンドを作る」というと簡単に聞こえるかもしれないですが、「バンドっぽいもの」か「バンド」かでまったく違うんですね。属性を限定して特定の人にのみ通用する音楽じゃない、「広い層に届ける音楽」となるといきなりハードルのレベルが変わってくるので、まずここが大変。そこに「バンド」という枠と「ガールズバンド」という枠と「アニメの中で声優もやる」という三つの枠が加わり、その制約の中でヒットする曲をたくさん作らないといけない。現に、テレビアニメが始まる前に10曲ぐらい作って産んでおかなければいけないわけで、その曲を現実のバンドがライブで、音源のクオリティそのままに表現しないといけないし、そういったバンドをゼロの状態から実際に出現させないといけない、という二つの高いハードルがありました。

ーーこれまでの既存のコンテンツでは声優さんが楽器を練習してキャラクターや設定に近づけていく、その成長過程も含めて楽しんでいたところもありましたが、『ガールズバンドクライ』はスタートから異なります。

玉井:アニメを抜きにしても“ガールズバンド”として成功してほしいんです。歌って踊るグループであれば、1曲ずつコンセプトを決めて、「こういう楽曲が必要です」といった情報を出して各クリエイターがデモを上げてきて、それを狙いどおりに仕上げていく。でも、バンドの曲はいい意味で偏っていないといけなくて。個人的な偏りを反映した曲がいわゆるバンドの「いい曲」で、個人の思い入れと、脈々と継がれている必勝法みたいなものが両方詰まっている。その「偏っていないといけない部分」が、実は大きな課題として出てくるんです。これが「バンドっぽい曲」と「バンドの曲」の大きな違いで、「バンドっぽい曲」はバンドサウンドにすればそれらしくなりますが、本物のバンドのあの”偏り感”をどうやって出すかが悩ましい要素として一番大きいんです。その中で、今回のこのプロジェクトに於いては、「各クリエイターに情報を与えすぎない」というやり方を採りました。

【Official Music Video】トゲナシトゲアリ「名もなき何もかも」 - アニメ「ガールズバンドクライ」

 大きな設定と編成、「2000年代初頭に音楽の恩恵を受けてギターを手にし、作曲を始めた女の子が作っている曲」、以上です、と。それでバンバン曲を作ってもらい、同時に自分でも色々と用意をしながら、上がってきた曲の中で一番偏っていて今回のプロジェクトに合いそうな原曲を選んで、そこからカスタムしていく、といった手法を採っています。なので、曲を立ち上げるデモの段階からバンドでなくてはならない。例えば、1990年代後半から曲を作り始めた子と2000年代初頭に作り始めた子、2010年代に作り始めた子とでは、原体験の種類が変わってくるので、根っこがまったく違う。且つ、作り始めたときにどういった影響を受けているかもまた違うので、二段階の違いがある。そこに、決まっている設定のもとで、作中のメンバーが実際に作る曲を体現しなくてはいけない。

 こういったことをコントロールしながら進めていきつつ、一方ではメンバーを探していく。オーディションを開催しましたが、ただバンドをやるだけではなくて、声優も一所懸命やってもらわないといけないわけで、これだけ声優をやりたい人がたくさんいる世の中で、未経験ながらも相当な熱量を持って向き合ってもらわないといけないという前提があり、僕らが要求するレベルで楽器を弾けて、このプロジェクトにコミットする気持ちがあって、楽器のプロになる気持ちがあって、声優としてもプロと戦うぐらいの気持ちでやらないといけないとなると……そんな人なかなかいないんですよね。

ーー現実的に難しいですよね。

玉井:最終的にはスタッフ全員でネット上を捜索して、良いメンバーとたまたま出会えたのでラッキーでしたが、メンバー選定と同時に曲も作る、といった作業を3年弱続けてきました。

ーー単純に何重もの労力ですよね。

玉井:それがわかっていたので最初は断ったんです(笑)。だから、僕も東映アニメーションのみなさんもユニバーサルミュージックのみなさんも、これは絶対に成功させないといけないし、「必ず色々な人が振り向いてくれる」と信じていないといけない。その点において特に、国内のみならず海外からの反応がいいのはひとつ自信にもなっていて。この熱量のまま最後まで駆け抜けないといけないと、いまは思っているところです。

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