堀江晶太・白神真志朗ら結成のPHYZ × 夢限大みゅーたいぷ座談会 音楽作家が抱く問題意識とVTuberの特異性
コンポーザーの堀江晶太が、白神真志朗らとクリエイターチーム PHYZ(フィズ)を結成した。同チームは堀江、白神のほか複数名のコンポーザーが参加し、楽曲制作などを中心に活動を展開。また、 次世代ガールズバンドプロジェクト『バンドリ!』から昨年デビューしたバーチャルバンド・夢限大みゅーたいぷの音楽制作/サウンドプロデュースも担当している。
今回、PHYZから堀江、白神、Sekimen(守谷友希)の3名、そして夢限大みゅーたいぷの仲町あられ(Vo)、千石ユノ(DJ & Mp)を招いた座談会を企画。音楽作家が抱く問題意識からPHYZ結成の経緯、VTuberシーンの特異性や夢限大みゅーたいぷで表現したいことなどをざっくばらんに語ってもらった。(編集部)
PHYZでは血の通った仕事をしたい(堀江)
ーーまずは、PHYZがどんな団体なのかを説明していただけますでしょうか。X(旧Twitter)公式アカウントのプロフィールには「クリエイター、パフォーマー集団」と書かれていますが。
堀江晶太(以下、堀江):PHYZは、平たく言うとクリエイターチームのような集団で、まだしっかりとしたルールを定めているわけではないのですが、いまは12~13人くらいのメンバーを中心に動いています。チームを始めたきっかけは、僕がコロナ禍で時間ができたときに、自分自身の音楽への向き合い方、仕事の仕方について改めて考えたことが大きくて。その時期、僕は昔からネットで音楽をするのが好きなので、その時期に一度そのシーンに戻ってみようと思って、自分の名前を伏せてネット上のいろんな音楽コミュニティに遊びに行っていたんです。そこでお互い詳しい素性を知らないまま、オンライン上で楽器セッションをして知り合ったのが、今この場にいるPHYZのメンバーの守谷(友希/Sekimen)くんで。
Sekimen:「God knows...」(TVアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇中歌)とかのアニソンをひたすら演奏していました(笑)。
堀江:そう、童心に帰って(笑)。そうやって仕事とは関係ない場所で音楽好きの人たちと交流するなかで、「音楽で食べていきたいけど、どうすればいいかわからない」という思いを持っている人が多いことに気づいたんです。僕はもともと作曲家やサウンドプロデュースの仕事は1人で動くことが多かったのですが、今後は年齢だけでなくキャリアを含めて若い人たちと一緒に動いて、自分の持っているノウハウを教えながら仕事をするスタイルを確立していきたいと感じて、ネットで仲良くなった人たちに声をかけて、育成する側であり現役の音楽家として活躍するメンバーと、ここから羽ばたいていく若手の2層構成でチームを運用することにしました。今はまだスタートアップの段階で、案件に合わせて形を変えながら動いている状態です。
ーーということは、Sekimenさんは最初、相手が堀江さんだと気づかずにセッションしていたわけですね。
Sekimen:はい。ハンドルネームも変わった名前だったので、最初は「めちゃめちゃ楽器演奏の上手いネットの変わった人」という印象でした(笑)。でも、やり取りしているうちになんとなく気付いてしまって。送ってもらった演奏データのファイル名に名前が入っていたので「これ、大丈夫ですか……」って恐る恐る聞きました(笑)。
堀江:もともと正体を明かすつもりはなかったんですけど、自分と親交のあるミュージシャンも参加してみんなでワイワイやっているなかで、だんだんボロが出てしまったんです。
白神真志朗(以下、白神):そこから、彼(Sekimen)の仲間うちで「ネットのとある場所で運が良ければ堀江晶太に会える」とウワサになったみたいで(笑)。それで集まってきた人たちの何人かが、今はPHYZのメンバーになっています。
堀江:ただ音楽や楽器が好きな人が集まる場所で知り合えたことがすごく良かったなと思っていて。この業界、いい曲を作れる人、いい演奏ができる人はいくらでもいますけど、僕は話していて気が合う人や信念に共感できることありきでチームを作りたかったので。
白神:自分はそのネット上のやり取りには参加していなかったのですが、ゆーまおがPHYZの案件でドラムを録りたいということで、僕の自宅スタジオで録音したときに、PHYZのメンバーたちと知り合って。
Sekimen 甲斐田 晴さんのミニアルバム(PHYZが全曲プロデュースした2022年作『86400秒のキセキ』)を作ったときでしたよね。
白神:晶太とは昔レーベルメイトだったことがあって、そこで数年ぶりに再会したのですが、その打ち上げのときに晶太から「よかったら参加してくれない?」と声をかけてくれたのが、自分がPHYZに参加したきっかけでした。
堀江:僕は引き続き作曲家としても活動しているので、実際にチームでの活動を始めて、若い人を育成しながら自分の現場を回していくとなると、すぐ手がいっぱいになってしまって。そこで昔から自分と近い場所にいて尊敬もしている真志朗さんにお声がけしました。僕の中では、PHYZをいわゆる作家事務所みたいな形にするイメージはなくて、「アライアンス」や「組合」的なものを理想にしていて。
ーーというのは?
堀江:僕は音楽業界で十数年、作家業をやらせていただくなかで、無機質に「こういう楽曲をお願いします」とオーダーをいただくのではなく、まず楽曲を作る前にしっかりと話し合いをして、お互いコミュニケーションを取る中でアイデアが生まれていく作り方ができているのですが、そういう環境は一部のクリエイターやアーティスト兼作家に集中している感覚があって、若手の作家はプロデューサーと顔も合わせないまま、ある種の流れ作業的に制作を行うのが一般的なスタイルになっているんですね。そのアンバランスさに対して自分は疑問を持っていて、「楽曲を作る側」と「作ってほしい側」が同じ目線で話し合うのが本来の仕事の形だと思うし、若手の頃こそ逆に作品に対してじっくり向き合う情熱が武器になると思うんです。PHYZでは、そういう制作体制を大きな目標にしていて。
白神:「発注元」と「作家」の両方がじっくり話し合っていいものを作りたいけどそれが叶わない状況というのは、多くの場合、仲介する作家事務所が、仕事の効率化を考えるとそんな時間のかかることはやってられない、というケースが多くて。実際、時間とお金の割合で考えるのであれば、最低限のやり取りで進めるのが会社としては最適解なんですね。なので今の晶太の話を実現するには「作家」側にバリューが必要なんです。
ーーだからこそ、堀江さんや白神さんのようにキャリアの豊富な方と、若手のクリエイターが一緒にチームとして動くことの意味が生まれるわけですね。先ほど「組合」という言葉で例えていただきましたが、PHYZがある種の「ハブ」の役割にもなるといいますか。
堀江:そうですね。PHYZでは血の通った仕事をできればと思っていますし、夢限大みゅーたいぷに関してもそうで、楽曲ごとにモチーフとなるメンバーとクリエイターがじっくり話し合ったうえで制作を進める、という形を今は実践しています。ゆくゆくはそれが音楽業界の制作現場のスタンダードになってほしい思いがありますね。
Sekimen:PHYZでは共作という形を取ることも多いのですが、メンバーの層が厚くて各々が得意な分野を持っているので、1人で制作すると偏ったものになりがちな場合も、共作によっていい形でまとまるというのが、チームであることのメリットだと感じていて。そういった座組みに関しても、堀江さんや白神さんといった経験のある方が判断してくれますし、どの案件でも制作に参加したみんなの意見が反映されて、自分の誇れる部分が楽曲に入っていることを感じます。
白神:大衆性という意味で言うと、個人の美学を崩すことによって楽曲自体の強度が上がることがままあるんですね。今回の夢限大みゅーたいぷの新曲「ビッグマウス」も我々で共作したのですが、プロデューサーと話し合うなかで、大衆性の話になったんですね。『バンドリ!』の従来のファン層にも届けること、VTuberという新しいシーンに参入すること、それとミュージシャンとして本当に良いと思える楽曲を発信することについて話し合うなかで、僕は『バンドリ!』について詳しくはないし、ネットカルチャーをリアルタイムで享受してきた人間でもないので、今作における正しい大衆性は獲得できないのではないかと思って、そういう分野が得意でもっと大きな意味での大衆性も持っている守谷くんに入ってもらいました。今回の楽曲も3人を中心に制作することで美学が分散して強度が上がった感覚がありました。あとNorくんがアレンジで入ってくれたことで、僕がよく作るジャンル的な意味合いでのポップや、晶太の得意なかっこいいロックだけでなく、エレクトロ方面の強化もされて。
堀江:NorくんはPHYZのメンバーではないのですが、彼とは普段から仲良くしているので、同じ意識をもって制作することができました。彼も一流のクリエイターなので、本来はもっとちゃんと依頼するべきなんでしょうけど、「俺らでアレンジまでしちゃったんだけど、もう20パーセントくらい何かない?」っていう感じのお願いの仕方ができて(笑)。
ーー今のお話を聞いていると、海外では主流になっているコライトに近しい作り方をされているんですね。
堀江:確かに海外のライティングセッションと似ているところは、結果的に感じますね。意識したわけではないのですが、PHYZの形態に合う新しい制作スタイルを追求していったら、結果的にそっちに寄っていったところがあります。