宮田'レフティ'リョウ、原盤権をNFTで販売する意義 OIKOS MUSICスタートから1年、手応えと展望を語る

宮田'レフティ'リョウに聞くOIKOS MUSIC

 プレイヤーやプロデューサーとして音楽シーンの第一線で活躍する宮田'レフティ'リョウ(Ryo 'LEFTY' Miyata)が、世界にJ-POPの魅力を再定義し発信する「Make J-POP with」プロジェクトを立ち上げる。そんな自身の音楽活動と並行してOIKOS MUSIC株式会社の代表取締役を務め、アーティストを新たな形で支援しようと取り組んでいる。同社の取り組みの一つとして、原盤権の一部をNFTである「OIKOS」として販売。購入者は原盤権を持っている楽曲がストリーミングサービスで再生されると収益が受け取れる仕組みだ。ローンチから約1年が経った今感じている手応えと、今後の展望を大いに語ってもらった。(編集部)

目指すのは“ギブアンドギブ”から“ギブアンドテイク”の関係性

OIKOS MUSIC

──はじめに、宮田さんがOIKOS MUSICに参画することになったきっかけについて教えてください。

宮田'レフティ'リョウ(以下、宮田):音楽業界で、サウンドプロデューサー、ソングライターとしての活動を長く続けてきた中で、ある時ふと、新人アーティストの開発に挑戦していきたいというマインドが生まれたタイミングがありました。その時に、もともと知り合いだった共同創業者の市村(昭宏)と小林(祐二)と、アーティストのマネタイズ機会を増やすきっかけになったり、もっとファンと密にコミュニケーションがとれたり、アーティストが自由に音楽活動できるような新しいサービスを作って、その上で新人開発をやっていくという座組みを作ったら面白いんじゃないかという議論が白熱して。たしかに孤軍奮闘してやるよりも、そういったサービスと両輪で走らせてやるほうがケミストリーが生まれると思い、そこに可能性を見出して参画を決めました。

──長きにわたって、音楽業界でプレイヤー、プロデューサーとして活躍されてきた宮田さんとしては、OIKOS MUSICのサービスのような原盤権を音楽ファンが購入する、アーティストとファンが共に権利を保有するという構想に対してどのように感じましたか?

宮田:これはもう本当にお恥ずかしい話ですけど、僕自身、権利への意識が低く、周りをみていてもミュージシャンやクリエイターの多くは、権利に対する意識が高くない人が多いと思うんですよね。レコード会社と契約している場合も、インディペンデントでやっている場合もそうです。自分の大好きな音楽を作っているだけで楽しいし、人に聴いてもらえたらもっと嬉しい、というところで満足してしまうというか。僕の経験上、この業界には、自分たちの創作活動をマネタイズすることがあまり得意ではない人も多いと思っていて。

 僕自身も、バンド活動をしていた時は、ライブをやるにもイベントの企画・演出、会場やアーティストのブッキングと開催するまでに多くのお金が必要となり、大変な思いをしたことがあります。そうした経験もあったので、OIKOS MUSICのような音楽活動に必要な資金を獲得していけるプラットフォームがあれば、自身の創作活動をマネタイズしながら健全な形で音楽を続けられるアーティストが増えていくのではないかと思いました。

──しっかりとマネタイズがなされることによって、音楽活動により専念できたり、クリエイティブの幅が広がっていく、という流れも生まれそうですね。

宮田:おっしゃるとおりですね。

──音源の権利をNFT化して販売するという構想は、なかなか理解されにくい、もしくは、理解されるまでに長い時間がかかるのではないかと想像したのですが、どのような点に勝機を見出したのでしょうか。

宮田:単刀直入に言うと、やはり理解してもらうには時間が必要ですね。OIKOS MUSICのサービスのような、原盤権や出版権など売買するプラットフォームや、音楽著作権をファンド化するようなサービスは海外ではありますけど、日本は、そもそも投資や投機に対する意識が欧米と比較するとあまり高くない。まして、音楽に投資するという考えはほとんどない状態だと思います。だからこそ、まずは啓蒙が必要だと考えています。一方で日本には、“推し活”という文化がありますし、OIKOS MUSICを起点とした新たな現象が起きたり、ヒット曲を生み出すことができれば、僕たちの構想も少しずつ理解されていくのではないかと思っています。

──先ほど、アーティストの音楽活動のマネタイズのお話がありましたが、一方で、OIKOS MUSICによって、リスナーの音楽体験はどのように変わっていくのでしょうか?

宮田:アーティストへの応援のあり方がもっと多様化していくと思います。応援の気持ちをCDを買って表現することも一つの選択肢だと思いますし、OIKOSの場合、NFTによってファンとしての証明が明確になったり、その楽曲が生み出した収益の一部がリスナーにも還元される、いいかえればアーティストと同じ目線で一緒にサクセスを目指すことができますし、そのプロセスが、新しい形のエンターテインメントになると思っています。

──ローンチから約1年が経ちましたが、実際にアーティストからはどのようなリアクションがありましたか?

宮田:やはり、まだまだOIKOSは、アーティストにとって得体の知れないものであることは間違いなくて。OIKOSは、分かりやすく言うと、クラウドファンディングやファンクラブ的な側面を持っています。少し前から、OIKOS保有者に対する収益分配もスタートしているのですが、そこにリスナー、アーティスト含め、どれだけの人が価値を見出しているかというと、実際のところはまだまだです。原盤の権利を保有するという本来の価値を伝えきれていないのは、歯がゆい部分ではあります。

──そうした中でも、今後のブレイクスルーに繋がっていきそうなポジティブな兆しや予感などがあれば教えてください。

宮田:それでいうと、あるアーティストのミュージックビデオが海外で回り始めたりして、少しずつですが、OIKOS MUSIC発のヒットの兆しが生まれています。OIKOS保有者に収益分配されるまでにはタイムラグがあるのですが、アーティストにとってもリスナーにとっても、このプラットフォームの真価を実感してもらえるようなケースは、今後着実に増えていくと思っています。

──この1年間を振り返って、リスナーからはどのようなリアクションがありましたか?

宮田:OIKOSを購入してくださるリスナーの方々も、着実に増えている実感はあります。先程もお伝えしたように、リスナーの方にとってOIKOSは、そのアーティストを応援している一つの証であり、もっと応援したいと思う原動力、さらにいえば、アーティストとの絆が可視化されたものとして捉えてくれているのだと思います。

──現状は、アーティストを応援したいというピュアな想いからOIKOSを購入する方が多いかもしれませんが、今後、このプラットフォーム上で大きな収益配分を受けられるケースが増えていったら、もしかしたら、OIKOSを投資商品として価値を見出す人も増えていくかもしれませんね。

宮田:おっしゃるとおりで、それが我々が次に目指すフェーズだと思っています。現状、各アーティストのOIKOSを購入してくださっている方々は、無償の愛を注いでくれているのだと思うんですよね。もちろん、ファンクラブ的な側面、つまりOIKOSを保有することで得られる特典などはありますが、現状は“ギブアンドテイク”というよりも“ギブアンドギブ”の関係に近いです。このプラットフォームを運営する以上、OIKOS保有者に収益を還元する、つまり“ギブアンドテイク”の関係性をつくっていくところまで実現していかなければいけません。一方で、おっしゃるように、今後、投資を主な目的としてOIKOSを購入する人も出てくるかもしれませんが、そのように全く異なる属性のユーザーが共存することも、プラットフォームとしては歓迎すべきことであると思っています。

──目的は違えど、アーティストにお金が入るという意味では同じということですよね。OIKOSの構想は、企業が発行する株に近いと感じたのですが、プラットフォーム上でのOIKOSの二次流通などは可能なのでしょうか?

宮田:まだ設計段階ではありますが、今後そうした機能も実装されていく予定です。そうすると、より株に近いようなものになっていくと思います。

──例えば、会社の株が、その会社のオーナーである証であるとしたら、OIKOS保有者は、その楽曲のオーナーであると位置付けられると思います。その楽曲のオーナーになることで、収益分配の他に得られるメリットなどがあれば教えてください。

宮田:これはアーティストによりけりなのですが、会社の株主総会のように、OIKOS保有者を集めた意見交換会のようなものをやってみても面白いのではという話をしています。すでにこのプラットフォームの中には、CLUB OIKOSという機能が内包されていて、そこでOIKOS保有者とアーティストがコミュニケーションできる仕組みがあるのですが、それをどんどん発展させていくこともできると思います。

──ファンが、よりプロデューサーに近い存在にもなりうるかもしれないということですよね。

宮田:そうですね。プラットフォームの設計については、まだまだ模索中なのですが、可能性は無限大だと思っています。

──リスナーの観点で言うと、自分が払ったお金が、そのアーティストの活動への直接的な一助になっているというイメージを持ちやすいですよね。

宮田:sumikaの片岡(健太)が、一緒にライブを観に行った時に言っていたんですけど、「ひょっとして、俺が買ったチケットの一部は、あのギターの3弦ぐらいにはなってるんじゃないか」って。なんかすごくいいな、この発想って思ったんですよね。

──ライブの見方も変わるし、もしかしたら、新曲の聴き方も変わるかもしれませんね。「このエフェクトの一部には、私が払ったお金が活用されているのでは?」という楽しみ方もできそうです。

宮田:そういうふうに思ってくれたら嬉しいですね。やはり、リスナーの方たちからのサポートは、そのアーティストの血肉となっていくものなので。

 お金の話ってどうしてもタブー視されがちじゃないですか。クラウドファンディングが出てきたばかりの頃も、「結局、お金目当てかよ」みたいな意見も少なからずあって。このプラットフォームを運営する僕ら自身も、そうしたえも言われぬ気持ち悪さみたいなものと常に戦いながら、自問自答しながらではあるんですけど。でもやっぱり、お金の話をタブー視するのはちょっと違うっていうか。

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