羽生結弦、人々を惹きつける表現力 ドキュメンタリーから見えた努力し続ける姿
遡るは2014年、ソチオリンピック。登場するだけで会場の空気をものにする、柔らかくも気迫の溢れる表情。
「さあ、楽しもう」。大舞台でそう呟いてから氷上を滑り出すと、見ているこちらも呼吸をすることを忘れる迫真の演技に釘付けとなった。そして、演技が終わる頃には心揺さぶられ、目が潤んだ感覚を今でも覚えている。
その大会でフィギュアスケート日本男子初の金メダルを獲得した、羽生結弦の演技のことである。
なぜ、彼の演技はここまで人を惹きつけるのか。先日放送されたNNNドキュメント'23『「職業 羽生結弦」の矜持』(日本テレビ系)を踏まえて考えたい。
このソチオリンピックから4年後、平昌オリンピックでは23歳で連覇を果たした羽生結弦。
そんな彼は2022年7月、27歳で競技生活にピリオドを打ち、プロスケーターに転向。2023年2月にはフィギュアスケーターとして初めて東京ドームでの単独公演『Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome supported by 雪肌精』を成功させ、常に進化を続けている。
番組で紹介された同公演のダイジェスト映像から、彼の表現力を裏付ける2つのことを感じた。
1つは、楽曲への理解度の高さ。競技プログラムで使用されるような楽曲では、その雄大さをスケートリンクを大きく使い気持ち良さげな表情で演技。指先まで神経を通わせた繊細な表現が美しい。それでいて、トリプルアクセルなどの高難度の技をしっかりと抑えるのが羽生だ。
一方、J-POP楽曲を使用した際には、その歌詞の世界観を表現するかのような表情が目を引く。番組の中ではAdo「阿修羅ちゃん」に合わせてパフォーマンスする、赤いシャツに青いネクタイ姿の羽生が取り上げられたのだが「本当に先ほどまでと同じ人なのだろうか」と思うくらいに凛々しい表情に驚いた。反骨精神あふれる歌詞を口ずさみながら、キリッとした表情で細かいステップを素早く踏む姿が新鮮に感じられたのだ。