仲宗根泉(HY)、カバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』で継承したヒット曲の素晴らしさを語る
HYの仲宗根泉(Vo/Key)が、キャリア初となるカバーアルバムをリリースした。仲宗根自身が大切に聴き、そしていつまでも色褪せることのない名曲たちを自分の声で歌い繋ぎ、あらためて今新たな息を吹き込んで素晴らしさを継承する――。その想いを持って、今作カバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』は作り上げられた。
仲宗根が大きな影響を受けたという男性ボーカルの作品を選曲。尾崎豊「I LOVE YOU」、槇原敬之「もう恋なんてしない」、小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」をはじめ、同じ沖縄県出身のかりゆし58やMONGOL800まで、ボーナストラックを含め11の楽曲を通して、24年のキャリアのなかで生まれた新鮮な響きと音楽人としての新たな気づきとはなんだったのか。仲宗根にじっくりと語ってもらった。(編集部)
昔のヒット曲をカバーして、その素晴らしさをあらためて届けたかった
――今回、キャリア初のカバーアルバムをリリースしようと思ったのはどうしてだったんですか?
仲宗根泉(以下、仲宗根):日本には昔から素敵な歌がたくさんあって、私はそれらを子供の頃から聴き、歌いながら育ってきたんです。でも、今ふと周りを見渡してみれば、その頃とは音楽の形、聴かれ方が少し違うように感じるんですよね。今は新しいアーティストがどんどん出てきているし、レーベルに所属しなくてもSNSとかを使って曲が発信できる。そのうえで音楽が消費されるスピードも、ものすごく早くなっているじゃないですか。昔のように、ひとつの楽曲が数カ月もずっとチャート1位を獲るような状況は稀で、ファンでなくとも口ずさめるくらい聴き込まれているヒット曲はあまりないような気がしていて。
だからこそ、私は昔のヒット曲をカバーすることで、その素晴らしさをあらためて届けたいと思ったんです。自分の曲ではないけれど、しっかりと歌い継いでいきたいという気持ちが今回の作品を出そうというきっかけになったところがありましたね。
――本作には、いわゆるJ-POPの黄金期とも言える90年代のヒット曲をはじめ、幅広い年代の曲が収録されています。今も思い出と共に光り続ける曲たちばかりですよね。
仲宗根:そうそう。私にとってもそういった曲ばかりですからね。それを自分なりの世界観でカバーしてみたらどうなるんだろう? という興味が、気持ちの後押しをしてくれたところもありました。
――名曲たちが放つ光を絶やしたくないという思いは、アルバムに掲げられた『灯』というタイトルからも感じられますね。
仲宗根:そういう意味ももちろん込めています。“灯”って、激しく熱い“炎”に比べると儚げではあるけれど、心のなかにずっと存在し得るものだと思うんです。消えることなく長く点いているからこそ、それが支えになることもあるし。
――生きていくうえでの目印にもなりそうですよね。
仲宗根:そうそう。「この曲があるから乗り越えられました」とかね。そういう意味を持ったものとして、みなさんの心のなかに寄り添えるような作品になったらいいなと思って、このタイトルをつけました。
――カバーをするにあたって、仲宗根さんが大事にしたのはどんな部分でしょうか?
仲宗根:原曲が持っている個性と私自身の個性をどう織り交ぜていくか、という部分でしたね。自分のオリジナル曲であれば、メロディを変えても歌詞を変えても、何をやってもいいわけですけど、カバーとなるとそうはいかない。原曲のよさにはしっかりと寄り添っていきたいんだけど、でもそのなかで私なりの要素も混ぜていきたい気持ちもやっぱりあって。その足し算、引き算が難しかったかもしれないですね。
――上手いバランスを見つけるため、繊細に考えながら作っていった感じだったんですね。
仲宗根:はい。でもね、そうやって頭でいろいろ考えたうえで、いざレコーディングに臨むと、突然まったく違った感覚になった曲もいくつかあって。たとえば、J-POP寄りの歌い方をしようと決めていたにもかかわらず、レコーディングでは自然とR&Bっぽい歌い方になっている自分に気づいたりとか。逆にR&Bっぽく歌ってみようと思っていたのに、気づけばめちゃくちゃ民謡っぽくなっていたり。そういった意味では、マイクの前に立つまでどんな歌い方になるのかが自分でも想像できなかったりしたんです。ちょっと不思議な体験でしたね。
――それは、どうしてなんでしょうね?
仲宗根:たぶん、私がカバーとして楽曲に命を吹き込むにあたって、原曲を作った方、原曲を歌った方の魂が私のなかにも宿っていくからなのかなって思いました。原曲に携わった方々の意図通りに私が歌えているのかどうかはわからないですけど、そういう重さを感じながらレコーディングすることができたんです。だからなのか、小さい頃からずっと好きで、これまで何回もカラオケで歌ってきた「I LOVE YOU」(尾崎豊)なんかは、これまでイメージしていたものとはまったく違う――切なくて苦しくてどうしようもない一夜を過ごす男女の姿が浮かんできて。その瞬間、涙が止まらなくなってしまったんです。これまでの自分は「泣きながら歌うなんてこと、実際にあるのかな?」と思っていたところがあるんですよ。涙するくらい切ない気持ちがあったとしても、それは歌う前にちゃんと整理するものだと思っていたから。でも、今回「I LOVE YOU」を歌った時はもうダメでした。突然、わーっと涙が止まらなくなってしまって。だから泣きながら歌ったテイクが使われているんですよね。
――ある意味、ご自身ではコントロールできない状況だったわけですか。
仲宗根:泣きながら歌うとピッチが合わなくなってきたりもするので、そこはある程度のラインまで自分なりに持っていけたんですけど、感情の部分では本当にそういう感じでしたね。あの感覚は初めてだったので、自分でもびっくりしました。
似たようなことは「TRUE LOVE」(藤井フミヤ)でもあって。この曲は男女の恋愛を歌った曲だとずっと思っていたし、そのつもりで今回も歌おうと思っていたんです。でも、実際に歌い出したら、頭のなかに過去に不慮の事故で亡くなってしまった友人が浮かんできたんですよ。その瞬間、「あ、この曲はその友人に捧げるんだな」と思えた。本当に不思議な話なんですけど。
――だからこそ、本作はカバーを超越した作品になったのかもしれないですね。
仲宗根:そうですね。こんなこと言うと失礼になるかもしれないけど、すべての曲に対して、まるで自分が作り上げたかのような気持ちで向き合うことができたんですよ。それくらいの愛情を込めて歌うことができたと思います。
――全曲男性ボーカルの曲をセレクトしたのには、何か理由はあったんですか?
仲宗根:自分で選曲したあと、マネージャーにも同じことを聞かれました。「全部、男の人の曲だけど意図はあるの?」って。私自身はそこで指摘されるまでまったく気づいてなかったんですけど(笑)。
――自然とそういう選曲になっていたと。
仲宗根:そうなんです。ただ、よくよく考えてみると自分は女性が歌う楽曲よりも、男性の歌声、男性が歌い上げるバラードのほうが好きだったりするんですよね。それも今回、初めて気づいたことではあったかな。