Bialystocksの音楽の成り立ちを知る メロディと編曲の絶妙なバランスによる独自性

Bialystocksの絶妙なバランス

 甫木元 空(Vo/Gt)と菊池剛(Key)のBialystocksは、映画監督でもある甫木元の映画『はるねこ』をきっかけに結成されたユニットだが、ジャズのフィールドでも活躍するミュージシャンを中心としたメンバーを加えたバンド編成で、今年2023年、全国5都市6公演ツアーを成功させた。

 EP『Tide Pool』や1stアルバム『Quicksand』は、手の込んだプロダクションが耳を惹いた。ポップな曲調の中にも宅録のパーソナルな多重録音のような手触りを感じた。ポップユニットとしての魅力は、今年リリースされた一連のシングル(「頬杖」「Branches」「幸せのまわり道」)でも変わることはない。

Bialystocks - 頬杖【Music Video】
Bialystocks - Branches【Music Video】
Bialystocks - 幸せのまわり道【Official Audio】

 一方で、このユニットのバックグラウンドには、映画監督としての甫木元、ジャズピアニストでもある菊池が存在する。そして、『はるねこ』をプロデュースした故・青山真治監督をはじめ、いくつかの興味深い文脈も見え隠れする。Bialystocksの音楽は一体、どう成り立っているのかを知りたいと思い、話を伺った。(原雅明)

青山真治監督が一番気に入っていたのは編曲の部分

ーー最近どんな音楽を聴いてますか、といきなり伺ってもいいでしょうか。お二人のインタビューをいろいろ読ませてもらいましたが、そういう話が出てないと思ったので。

甫木元:僕は最近静かな音楽を聴きたくて、全く歌がないものが好きな傾向がずっと続いてたんです。でも、ブレイク・ミルズの新譜は同じテンションで聴けますね。

ーークリス・ワイズマンと作った『Jelly Road』ですね。

甫木元:はい。それを自分たちでやりたいかというとそうではなく、完全に聴き手として、ただかけていてもいい意味で自然と流れていく。最近はそういう曲が好きだなって思っています。

ーー菊池さんは?

菊池:僕は最近に関わらず7割ぐらいは(フランク・)シナトラを聴いていて、残りは雑多です。

ーーずっとシナトラですか?

菊池:ずっと聴いてますね。ここ数日はシナトラ関連ですけど、(カウント・)ベイシーばっかり聴いてます。

ーー最近のジャズとか新しいものは?

菊池:楽器演奏だったら、最近のものが基本は好きなんですけどね。(ベイシーは)急にこういうのが聴きたくなって聴いていました。

ーーBialystocksの曲は2人で作られてるんですよね?

甫木元:そうです。

ーー具体的にどうやって作ってるんですか?

甫木元:基本的には僕が弾き語りでメロディを作っています。僕が作曲としてクレジットされているものはそういうものが多く、編曲とか、流れは菊池が進めてくれてますね。

Bialystocks インタビュー写真(撮影=林将平)
甫木元 空

ーー菊池さんは実際どうされてるんですか?

菊池:決まったプロセスはないです。ひたすらわかるまで考えて作るっていうだけなんです。浮かばない時は1回自分で歌ってみたりして。甫木元の弾き語りから切り離して考えたりする感じですね。

ーーそういう時に他の音楽を参照しますか?

菊池:結構しますね。シナトラはもう染みついているので、割と新しめの曲をいっぱい聴いたりして参考にします。ビートが欲しいなと思ったら、いい感じのパターン、グルーヴがないかなと色々聴いたり、ギターの音色でこういうのがいいなと思えば直接的に取り入れたりする時もあります。

ーーアルバム『Quicksand』もその前のEP『Tide Pool』もそうでしたが、1曲3分くらいなのにもっと長いような印象があります。構成要素がたくさんあって、賑やかというわけではないんですけど、手が込んでいるように聞こえます。詰め込む意識ではないですよね?

菊池:そうですね。逆に目まぐるしくなるのが嫌だなと思ってはいるんです。ただ、本当にシンプルなものの繰り返しが一番引き立つ曲、というようなものではないことが多いので、結果として展開が増えているというのはあるかもしれないです。

ーー実は、僕は青山真治監督を昔から知っていて、彼とは映画より音楽の話ばかりしていた記憶があります。彼はいわゆるシネフィルでした。映画のことも書いてました。甫木元さんもそうだったんですか?

甫木元:全然。僕は大学に入るまで本当に金曜ロードショー的なものしか観たことがなかったんです。フランス映画やいわゆる実験映画も知らなかった。もともと詩人の鈴木志郎康さんが立ち上げた、実験映画と詩に特化した映像学科という変な学科だったんですが、青山さんが僕が大学3年の時に教えにやってくるんですけど、いきなりスピルバーグの映画を紹介したんです(笑)。

ーー彼らしいですね(笑)。

甫木元:それで、いろんな映画を観始めて、青山さんの影響ですごく一気に広がったっていう感じはありますね。

ーー映画をやりながら音楽活動もしてたんですか?

甫木元:当時は全然してなくて、自分の父親が亡くなった時に残していたホームビデオを編集して、そのエンドロールの歌と劇中の音楽をつけた映画(『終わりのない歌』)を卒業制作で作ったんですけど、その審査員を青山さんが当時やっていて観てくれた。卒業後、自分が映画(『はるねこ』)のプロデュースをするから脚本と音源を持ってこいと言われて。そこからですかね、ちゃんと作るようになったのは。

ーー青山監督も音楽を作ってましたしね。

甫木元:そうですね。僕も音楽の話しかほとんど記憶にないです(笑)。

ーー(笑)。彼はBialystocksの音楽がいいと言ってましたが、どこを気に入っていたと思いますか?

甫木元:最初の頃からライブを見てくれていて。いわゆるJ-POPとは少し違うところに良さを見つけていたというか、一番気に入っていたのは編曲の部分だと思いますね。もっと大袈裟にしようとしたらできるところをあえて引いてみたりするようなところとか。アルバムを届けに行って聴いてもらったら、「またたき」と「Over Now」は「ラジオでよく流れる曲になりそうだな」と、好き嫌いではなく、そういう話をしてましたね。

ーーそれこそ、ハリウッド映画の王道をちゃんと評価するスタンスに繋がってますね。

甫木元:スピルバーグやロバート・ゼメキスは、それはそれですごいことをやっているという。どセンターのもののいいところも抽出しながら、でも自分たちは別にカウンターカルチャーになりたいと思っているわけでもないと。あと、青山さんは映画の新しい部分を開拓しようとずっとやっていましたよね。

ーーBialystocksの音楽は、J-POPに近いところにも触れている部分がありますよね。

甫木元:はい。

ーーそれは、ある程度意識的にそうしたのか、結果的にそうなったのか、そのあたりは如何でしょう?

甫木元:僕のメロディの影響だとは思うんです。シンプルな繰り返しだけだと、本当にJ-POPになっちゃうので。そこに編曲で緩急をつけるということを菊池がやってくれています。僕の母親が合唱の先生をやっていて合唱曲を作ったりしていたんですけど、その影響が出てるのかなとは思っています。

Bialystocks インタビュー写真(撮影=林将平)
菊池剛

ーー菊池さんは編曲にあたって、どう自分たちが納得できる音にしてるんでしょうか?

菊池:それがいつも課題なんです。やっぱりJ-POPっぽいサウンドにした方が簡単に合うし、メロディと歌声と歌詞はそっちに行きたがってる感じがすごくします。

ーーJ-POPっぽくしない、というところで具体的に何をしているのでしょうか?

菊池:まずサウンドというよりは、コードとか展開ですね。そこから考えて、J-POPっぽい要素を回避するのが第一段階。逆に言えばそこを回避できれば、あとはJ-POPの本当に記号的な、よくあるアレンジみたいなものを回避すれば、一旦は大丈夫です。質感より、構成やコードをJ-POPっぽくしないようにすることを気をつけている感じです。

ーー菊池さんはもともとジャズが出自ですよね?

菊池:そうですね。ただ、小さい頃からやっていたわけではなくて、大学生の途中から目覚めたものなので、骨の髄まで染み込んでいるわけではないんです。自分の中では割と新しいものです。

ーールーツを聞かれたらジャズでもないんでしょうか?

菊池:そこがわからないです……。とりあえず自分の中ではシナトラだと思っています。でも、あれがジャズなのかと言われると際どい感じですよね。一番染み込んでいるのはシナトラが題材にしているような、いわゆるスタンダードナンバーです。

ーープレーヤーとして影響を受けた人は?

菊池:ブラッド・メルドー以降の最近の人が好きですね。

ーー例えば、メルドーの『Largo』はポップス畑のジョン・ブライオンがプロデュースして、ジャズの複雑な部分とポップな部分がせめぎ合った感じでしたが、そうしたジャズ的な部分は、Bialystocksの音楽とはまた別物として、菊池さんの中ではある感じですか?

菊池:別物ですかね。自然に手癖として入ってしまうので、なるべく排除して、最後のちょっとしたプレーでほんのり香るぐらいでいいかなと思っています。自分の中ではストレートなロックっぽいほうが新鮮に感じるのでやっていて楽しいというのはあります。ミクスチャーの音楽が当たり前になって、逆にどロック、どブルースみたいなものは聴く機会も減ってますよね。それをそのままやりたいわけではないですけど。

ーー全体のプロデュースも自分たちでやってるんですか?

甫木元:そうです。

ーー外部のプロデューサーをあえて立てない理由があるんですか?

甫木元:自分たちでできるうちは、まだいいんじゃないかなと。

菊池:頼みたいと思う人があまりいない。クインシー・ジョーンズがやってくれるって言ったらお願いしたい(笑)。

甫木元:海外だったらいっぱいいますけどね。

Bialystocks インタビュー写真(撮影=林将平)

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