Bialystocks、恵比寿LIQUIDROOMに充満したオーディエンスの期待感 一回性の時間を作り上げた記憶に残る夜

Bialystocks『Quicksand』ツアーレポ

 Bialystocksがメジャー1stアルバム『Quicksand』を携えた初の全国ツアーを開催した。東名阪3カ所の公演はすべてソールドアウト。ここでは2月18日に行われた最終公演、恵比寿LIQUIDROOMの様子をレポートする。

 甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)からなる彼らの音楽活動は、甫木元が映画監督でもあり、彼が監督をつとめた映画『はるねこ』の劇伴を生演奏することからスタートした。ライブや作品ごとにサポートメンバーを入れ替えるスタイルをとっており、彼らが生み出す音楽と映画がおのおの独立した存在でありながら、互いに影響を与える稀有な存在であるという認識も浸透してきたと言える。一方、ラジオフレンドリーな時代を象徴する楽曲を作ると同時に、オルタナティブなライブシーンでの支持も高い。それだけでも音楽性の幅の広さが窺えるが、彼らの場合、そこに映画と小説という表現の窓口があるという捉え方もまた可能だ(甫木元の監督最新作となる映画『はだかのゆめ』の原案となる私小説が月刊文芸誌『新潮』に掲載された)。90年代までのサブカルチャーの在り方が有効だった頃以来のカルチャーの交差とも、音楽とアニメの蜜月以外のクロスジャンルでの成功とも言えるだろう。この日のオーディエンスも、Bialystocksの音楽を介して、新たな空間や時間に触れる、そんな醍醐味を意識する・しないに関わらず感じていたはずだ。

 超満員のフロアに充満する期待感の中、5人のサポートメンバーとともに鳴らされた1曲目はアルバム通り西田修大(Gt)のサイケデリックかつ粒の立ったギターで始まる「朝靄」。その音像から一気に別の場所へ飛ばされるような感覚を味わっていると、2曲目にアルバムラストの「雨宿り」が演奏されたことに驚く。ビッグバンド風に拡張するアレンジからさらに壮大なエンディングに到達した。音源ではギターに似たサウンドを菊池が鍵盤で鳴らす「あくびのカーブ」は音響派寄りのアプローチを見せ、小山田和正(Dr)のプログレッシヴで手数の多いドラミング、曲中でシンセベースに移動した菊池の放つ音に時空が歪む。序盤から集中とカタルシスをもたらす演奏に割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 グッと景色も温度も変わる、後ろ乗りのネオソウル調の「またたき」。だが、サビで甫木元のボーカルと西田のギターがもつれ合って上昇する様は実にスリリング。続く「All Too Soon」では、オオノリュータローと早川咲、2名のコーラスがサスペンスフルなムードで急き立てていく。1曲終わるごとに自然発生的に拍手が起こるのは前回のワンマンである大手町三井ホールの緊張感とガラッと変わった部分だ。ライブハウスのカジュアルな雰囲気もあるのだろうが、感情を表明しようという空気が会場内で伝播していたのだと思う。甫木元のファルセットが美しい「花束」はポップな曲調に身を委ねるムードになり、続いて逆にAメロで地声の低い響きが堪能できる「光のあと」を配するのも抑揚が効いている。素朴なカントリーロックの肌触りのある初期楽曲「Emptyman」では自然にクラップが起こり、歌詞が醸すユーモアのある悲喜劇のニュアンスがライブに幅をもたらす。そして前半のハイライトは音源での朴訥としたムードからイメージを変えたアレンジで届けられた「ただで太った人生」だろう。ジャズともニューエイジとも言える西田のギターサウンドや、菊池の鍵盤と西田のギターのユニゾンなどが、違う位相に飛ばす感じ。これには驚かされた。

 映像が加わって、洒脱なナンバーにシュールさが生まれた「コーラ・バナナ・ミュージック」、「I Don’t Have a Pen」と早口ボーカルと怒涛の展開へ。コーラスの二人とチェイスしながらメロディが上昇するサビに聴いているこちら側の心拍もシンクロする。見事なエンディングの余韻に浸る間もなく、またしても大胆にライブアレンジされた「Winter」に繋がっていく。後半に向けてThe Rolling Stonesの「Sympathy For The Devil(悪魔を憐れむ歌)」ばりのブルース感もあったり、最終盤はロックアンセムのように上り詰めていく展開はまさに音楽のアトラクションのようだ。一切、爆音や同期は使われていなくても、展開でそんな体感を作れることに瞠目してしまう。また、「Winter」終わりで、多くのファンが待ちかねた「灯台」のイントロである越智俊介(Ba)のベースが鳴り、一音たりとも聴き逃したくない気持ちにスイッチが入る。甫木元のボーカルが極限まで上昇していく大サビはフロアじゅうが息を飲んで共に押し上げていくような一体感。歌いきりで終わるこの曲への拍手はそれは大きなものだったが、さらに畳み掛けるように「Over Now」のピアノのイントロが。冴えない日常を歌う内容と背景に映る謎のクリーチャーの対比がユーモラスで、自ずと前面に出る甫木元のスキルフルな歌唱もユーモアの中で聴かせたいのかもしれない、と思える演出だった。

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