鈴木蘭々、今だからこそ届けられる言葉と音楽 筒美京平や川原伸司ら様々な出会いに彩られた歌手活動

鈴木蘭々、歌手としての歩み

 芸能活動35周年を迎えた鈴木蘭々が、初のオールタイムベストアルバム『鈴木蘭々 All Time Best~Yesterday&Today~』をリリースした。

 同作にはソニー時代のシングル曲のみならず、インディーズでリリースされた配信楽曲や歌手デビュー時に業界関係者のみに配布されたプロモーションCDからの曲などレアな音源も収録。さらに、筒美京平より提供された楽曲を含む新曲も収められている。

 本インタビューでは、筒美京平やプロデューサー 川原伸司らとのエピソード、「Mother」をはじめ自身の作詞についてなど、ベストアルバムを軸に様々な出会いに彩られた歌手・鈴木蘭々のキャリアを辿る。(編集部)

筒美さんのことも「アーモンドおじさん」とか言っていました

鈴木蘭々
鈴木蘭々

ーー蘭々さんはアーティスト活動をしばらくストップしていましたが、その時計の針が再び動き始めたのは2017年です。それまでは歌いたいという気持ちは湧き上がってこなかったのでしょうか?

鈴木:全然なかったです。それどころか最近の音楽に全く興味がなくて、配信が中心になってからは“音楽を聴く”ということからも遠ざかっていたくらいです。配信で聴いて「これはいい!」と思ってダウンロードしたのは、宇多田ヒカルさんの「あなた」(2017年)くらい。この曲は何度もリピートして聴きました。

ーーご自身の昔の音源を聴いたりは?

鈴木:全然。自分の音源も持っていないというレベルです(笑)。

ーーそんな蘭々さんが音楽活動を再開しようと思ったきっかけ、理由は何だったのでしょうか?

鈴木:2017年に知り合いの構成作家から、私の「キミとボク」(1998年)という曲が大好きだというベーシスト/プロデューサー立川智也さんを紹介されて、お会いしてみると、この曲の声の処理の仕方とかレコーディングの技術、ギターのフレーズの素晴らしさとか、音楽的な細かい部分をブワーッって力説されて、私はポカンとして聞いていました。

ーーEPOさんが楽曲を提供して清水信之さんがアレンジを手がけた名曲です。

鈴木:歌詞やメロディライン、アレンジは素晴らしくて、でも立川さんはこの曲の背景や細かいところがツボだったみたいです。

ーーそこから話がどう展開していったのでしょうか?

鈴木:2018年が30周年だったのですが、その時はもう他の事業をやっていたし、歌うつもりはなかったのですが、立川さんと作家の方が「30周年はライブをやった方がいい、サポートするから」と。そこから縁が縁をよぶ感じで、どんどん昔のスタッフとまた繋がりができ、2018年の11月に30周年記念ライブ『SINGER SONG LAN LAN』を行ないました。

ーー時を同じくして、蘭々さんが作詞に参加した新曲「迷宮輪舞曲」が立川さんの1stアルバム『My Music、My Friends』に収録され、翌年久しぶりに鈴木蘭々名義で配信リリースされました。

鈴木:久々の制作の時間が楽しかったです。配信という概念がよくわかっていなかったので、システムを知るためにもいい機会でした。この曲の歌詞を書いている時、言いたいこと、音楽を通して訴えたいことが、ずっと変わっていないんだなと改めて思いました。

ーー結果的に新曲をリリースしたことが、今回のベスト盤に繋がっているのではないでしょうか。

鈴木:「迷宮輪舞曲」のMVを作って、YouTubeチャンネルを開設したり、30周年記念ライブの時には、エイベックス時代のスタッフとも再会できて、彼らが「当時大好きだったけど、リリースできなくてお蔵入りした、今でも聴いている曲がある」と教えてくれたのが、2019年に配信した「ビュリホー ビュリホー」です。そうやって少しずつ動きが活発になっていった感じがします。

ーー2000年にヒットしたAQUAの「Cartoon Heroes」のカバーですね。そこで蘭々さんのアーティストとしての完全にスイッチが入った感じですか?

鈴木:まだそこまでではなかったのですが、歌詞を書いたり、アレンジを考えたり、作るという作業が楽しくて好きみたいで、昔やりたかったことを形にしていったのが「Mother」(2020年)や「Just Do it, Do it over」(2021年)です。

ーー立て続けに配信リリースをして、2022年には古巣のソニー・ミュージックレーベルズから「キミとボク」の7インチアナログ盤を発売しました。今回の『All Time Best Yesterday & Today』は蘭々さんが選曲から参加した、デビュー曲から、配信リリースした楽曲未発表(新)曲ありと、現在地から過去と未来に通じる、上から目線かもしれませんが、“きちんと”したベストアルバムです。

鈴木:こういうチャンスは何度もないので(笑)、ひとつちゃんとしたものを作れたのは良かったです。

ーー改めてデビュー曲「泣かないぞェ」や当時の曲と向き合ってみて、どんなことを感じましたか?

鈴木:声は若いし、ボーカルがイケイケですね(笑)。歌うことに躊躇がないというか。

ーー当時はそういうディレクションだったんですか?

鈴木:結構緻密に録っていた記憶があって。自分で納得いかない表現だとすぐにストップして長考してしまって、そこから千本ノック状態だったと思います(笑)。

ーー今回収録されている「Mother」はライブレコーディングですよね?

鈴木:はい、そこがすごく変わったところです(笑)。

ーー「泣かないぞェ」や「なんで なんで ナンデ?」を聴くと、ポップで明るくて元気というイメージですが、「kiss」や「magic」を聴くと、蘭々さんの歌のベースにあるソウルフルな部分を改めて強く感じることができます。

鈴木:元々色々な歌を歌いたいタイプだったので、ジャンルレスにチャレンジしていたし、スタッフも様々な楽曲を歌わせたかったのだと思います。

ーー蘭々さんといえば不世出の大作曲家・筒美京平さんとのタッグで数々の名曲を残しています。

鈴木:若かったこともあって出会いの大きさが全然わかっていなくて、当時ダブル・オーレコードの取締役だった川原(伸司/作曲家・平井夏美)さんに向かって「こじこじだ~」とか、筒美さんのことも「アーモンドおじさん」とか言っていました。本当にごめんなさいって感じです(笑)。

ーー川原さんもそうですが、筒美さんもシンガーの「声」を重要視していました。お二人とも蘭々さんの声にクリエイティブ魂を掻き立てられていたのではないでしょうか。

鈴木:それは後年になって聞きました。京平さんが、私の20歳の誕生日の時にレコーディングスタジオに、GUCCIのオレンジのバッグをプレゼントで持ってきてくださって、「こういうのが似合う大人になりなさい」と。それを川原さんに後日伝えたら「え? 信じられない。珍しい」って。筒美さんはそもそもド新人のレコーディングに来ること自体が珍しかったそうです。

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