ONCEとして一人の表現を突き詰める新たな挑戦 杉本雄治、自身の歩みを肯定することから生まれたメッセージ

ONCEとして突き詰める新たな挑戦

「ネガティブから生まれてくる光が原点」

――M4はピアノ曲「Squall」。情景を脳裏に呼び起こす美しい曲で、個人的には、是枝裕和監督の映画に合いそうだと思ってしまいました。

ONCE:ありがとうございます。ピアノの音色を重ねていくのは、僕が一人で活動していく上での武器にしたいなと思っていたので、ざっくりとしたイメージは最初からあったんです。その中に感情、情景をどう落とし込んでいこうかなと考えた時、やっぱり僕はどこかネガティブなところからスタートする部分があって。陰キャなので(笑)。

――それは杉本さんの美点だと思いますよ!

ONCE:そうなんですよね。「もっとポジティブにならなきゃ」と思っていた時期もあったんですけど、このネガティブから生まれてくる、射してくる光というのがやっぱりあって。「前向きなメッセージを届けたい」という想いは、そこが原点にないと僕の場合は生まれないんだろうなと。聞いた人が次の日に忘れてしまうような一言を、僕は「あぁ、言わなかったらよかった」と後悔する時間がすごく長くて。夜通しそのことを考えて眠れなくなって、感情が渦巻いて、まさにスコールのように“雨”が降ってきて、その後何とか去っていく――そういうことが多々あるんです。だから、悩みや辛さ、痛みは絶対にいつか去っていくということを音で表せたらいいな、そういう感情の流れを表現したいなと思って作りました。

――M5「Amazing Grace」は前述のように、ソロ始動曲です。杉本さんの音楽への感謝の想いが伝わってきます。

ONCE:まさにそういう曲で、バンドを終えてから最初にできた楽曲です。今思い返すと、「自分の原点って何だろう?」とか、「人生の中の音楽の立ち位置とは?」と考えた時、やっぱりどんな感情の時も音楽がずっと傍にあって。僕は口下手だし気持ちを伝えるのが苦手だし、そういう中で、自分の感情を言葉よりも表現してくれたのは音楽だった。「生きるのが辛いな」と思う時期もたくさんある中で前を向かせてくれた、今も生き続けさせてくれているのは、自分を表現できる音楽というものがあったから。まさにタイトル通り、「僕にとっての恵みは音楽だな」と100%の気持ちで感じていたので、それを形にしていきました。この曲ができたことで「やっぱりちゃんとピアノを大事にしていかないと」と思ったんです。勝手に自分が抱いていた感情ではあるんですが、 「一人でやるからには今までと違うことを見せなきゃ」と最初は焦っていた部分があったんですね。

――「バンド時代とは明確な違いを示さなくては」という意識があったと。

ONCE:「早く作品を出さなきゃ」という焦りもそうで、どこか生き急いでいた部分もあったし。その中で、「ピアノじゃなくて、何か違うもので表現したほうが(バンド時代との違いが)分かりやすいしなぁ……」と思っていた時もあったんですけど、「いや、新しく一人で音楽を始めようと思ったのは、そういうことじゃないな」と気づき始めて。自分の可能性を広げる場所を探したくて今のこの“場所”を選んだわけだから、ピアノはもちろん中心にあっていいし、そうじゃなくてもいいし、ギターも弾いていいし。固執していた偏った考えを振りほどいてくれたのは、この曲だと思いますね。

――M6「Dusk」は新境地を思わせる曲でした。

ONCE:最後にできた曲ではあるんですけど、イメージとしては一番長く持っていた曲ではありました。ライブを想定して、多重録音でどんな面白いことができるかな? という中で、どんどんアンサンブルが生まれてくる楽曲になっています。今までは歌でどういうメッセージを届けるかを大事にしてきたわけなんですけど、音楽の原点に立ち返ると、「僕が好きになった音楽はそこだけじゃないな」という想いはすごくあったので。僕からの決まったメッセージを届けたいというよりも、この音、このワードを聴いてみんながどういう景色を浮かべるのか、誰を思い浮かべるのか。人それぞれの答えをこの曲の中で思い浮かべてほしいな、という想いで作りましたね。

――現代音楽風というかテクノ的というか、複雑に重なり合うリズムが高揚感をもたらします。

ONCE:時間がない中、この曲は本当にもう感情のままに音を重ねていって、トラック自体は半日ほどで作ったんですよ。それがいい作用をもたらして、この作品の中で一番ダイレクトにアウトプットできたし、考える余地もなく自分の頭の中で描いている音のイメージをそのまま出して形にできた曲なんじゃないかなと思いますね。

「この道を選んでくれた自分がいたから今がある」

――最後のM7「記憶」はメロディがしっかりした歌を持つ、R&Bナンバーです。旅立ちを歌っているように感じました。

ONCE:これは最後から2番目にできた楽曲ですね。先ほども話しましたけど、僕はネガティブな部分もありますし、過去を振り返る瞬間が結構多くて。今まではその中であまりいい感情が生まれてこなかったんです。でもこの3〜4カ月は違っていて。自分にとって、やっぱり、ここまで大きな人生の決断をしたことはなかったんですね。十数年続けてきたことに一度区切りをつけることだったり、「もう歌えないかも」という状況があったり、「それでもやっぱり自分は歌っていきたいな」と思うようになれたことだったり……。人生の中で一番と言っていいぐらいの大きな岐路だったので、その決断をした時の自分を振り返ることがすごく多かったんですよね。「やっぱり一人で作るのってすごく大変だな」と弱気になる瞬間もあったんですけど、そういう時にパッと浮かんでくるのは、過去にいた自分で。大きな決断をした時の自分が浮かんできた時に、「あぁ、こんなことで負けてられないな」と思えたし、「今この喜びを感じられているのは、あの時、この道を選んでくれた自分がいたからだな」と思うことがすごく多かったんですよね。それは今までの自分にはなかった感情で。

――過去の自分がいたからこそ今がある、と捉え直すことができているんですね。

ONCE:そこをどんどん掘り下げていくと、それは自分だけで決断したわけじゃなくて、助言をくれた仲間や、 言葉はなくても寄り添ってくれていた人たち、遠くで見てくれているファンの人たちがいて、やっぱり人との繋がりだなと。過去の自分の周りにどんどん人の顔が浮かんでくる瞬間もたくさんありましたね。弱気な自分も、「もう無理だ」と諦めそうになっていた自分もいたけど、「一人で作ろう」と決断した自分が、この先の未来の自分に光をもたらしてくれるんじゃないかなって。そう思うことで今の自分を肯定できるようになったし、過去の自分が、明日、来年、2年後、3年後の自分にどんどん繋がっていくんだろうなと思えた。そういったことを、この曲で表現したいなと思っていました。

――ライブでのパフォーマンスが楽しみです。どんなライブになりそうですか?

ONCE:ライブは音の楽しさを伝える場所でありたいし、文字だけでは伝わらない感情が今の時代には一番大切なんじゃないかなと思っていて。メッセージは曲にしっかりと込めることができたので、あとは、僕たちがこの場で一緒にいられる喜びを丁寧に伝えていきたいなと思っています。シンプルに、歌とピアノとギターで伝えるシーンも作りたいですし、今のありのままの自分の答え、想いがちゃんと伝わるライブにできたらいいなと思っていますね。

――会場に来られるファンの方には、どういうことを期待してほしいですか?

ONCE:おそらく、そこには間違いなく何も変わらない杉本がいると思うので(笑)、そこは安心して来てほしいなと思います。たぶん、他のライブでは感じたことのないようなサウンドの組み立て方、音の鳴らし方が生まれてくると思っているので、驚きつつ楽しんでもらえたらなと思いますね。

――最後に、今後の展望を伺えますか?

ONCE:ツアーに向けて今回のアルバムを作ってきて、「一人でどこまでできるのか」という、今の自分の可能性を探る作品ではありました。その先はやっぱり、人とつくることによって生まれる衝動とか、人としか作れないものも間違いなくあると感じたので、今回以上に柔軟に曲作りをしていきたいなと思っています。ツアーが終わった後も、自分が「好きだ」と思えるものを追求したいし、自分が「やりたいな」と思う場所でライブをしたいので、そこに向けての楽曲をまた作っていきたいと思っています。

ONCE『ONLY LIVE ONCE』ジャケット写真
『ONLY LIVE ONCE』

■リリース情報
アルバム『ONLY LIVE ONCE』
2023年9月13日(水)リリース
配信:https://A-Sketch-Inc.lnk.to/ONCE_OLO

<収録曲>
1. Crossroad
2. Stay With Me
3. 愛とか恋とか
4. Squall
5. Amazing Grace
6. Dusk
7. 記憶

※ライブ会場 / 通販限定盤CD
¥3,000(税込)ライブ会場のみサイン入り

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