ONCEとして一人の表現を突き詰める新たな挑戦 杉本雄治、自身の歩みを肯定することから生まれたメッセージ

ONCEとして突き詰める新たな挑戦

 2023年2月に地元・神戸でラストライブを行ない、惜しまれつつ解散した3ピース・ピアノロックバンド WEAVER。そのピアノ&ボーカルを担っていた杉本雄治が、早くもソロプロジェクト ONCE(ワンス)を起動し、1sttアルバム『ONLY LIVE ONCE』を9月13日にリリースした。R&Bからクラシックまでジャンルを横断しながら、自由に心象風景を落とし込んだ多彩なサウンド。その筆致はグラフィティアートのようでもあり、時に透明度の高い水彩画のようでもあり、またある時は幾度も塗り直して深みを増した油絵のようでもある。

 9月14日に地元・神戸からスタートする初ワンマンツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』でパフォーマンスすることを想定した楽曲群は、いわゆるベッドルームミュージックとして杉本が自室で一人きりで生み出し、全ての歌と演奏を一人きりで完結させたという。ONCEというプロジェクトが目指すものとは? 楽曲の制作秘話、現在の心境について尋ねた。(大前多恵)

ONCEを掲げてソロプロジェクトに至った経緯

――WEAVERのラストライブが行なわれたのが2月。想像よりも早いソロプロジェクトの活動に驚きながら、作品の素晴らしさに感動しています。まずは、ONCE始動の経緯から聞かせていただけますか?

ONCE:「ONCEをやりますよ」という発表は5月に、結構早い段階でお知らせしていたんですね。(WEAVERを)解散してから「自分の人生と向き合う時間をもう少し作ってもいいのかな?」と思う自分も正直いました。でも、1週間、2週間と経つうちに、「やっぱり自分の音楽を作り続けたい」という焦りや、「表現したい」という気持ちが出てきて。これはWEAVERとしてのインタビューでも以前話していたかもしれないですけど、コロナに罹って(2021年8月)、「この先歌っていけるのかな?」とすごく不安になった時期に「自分は歌を歌いたい」という気持ちがより強くなっていったことが、これだけ早くソロプロジェクトを動かそうと思ったきっかけではありました。「ずっと声を聴き続けたい」とか、「お前の音楽やっぱりいいから続けろよ」と言ってくれたりする、ずっと応援してくれていたファンのみんなが本当にたくさんいたのも、より僕の背中を押してくれたと思います。

――ONCEという名前については、いつ頃からアイデアがあったのですか?

ONCE:2022年にWEAVERが解散することを発表して、翌年2月にラストライブをするまでの1年間の中で、「バンドを辞めた後も音楽は続けたいな」という、ふんわりとしたイメージはあったんです。でも具体的なことまでは考えていなくて、どちらかというと裏方に回りたい、クリエイティブの部分で挑戦したいという想いが強かったんですね。だから最初はプロジェクト名も全く考えていなかったんです。けど、“1回きりの人生”であることが、今の自分が一番大事にしている部分なので、「ソロプロジェクトをするのであればこのワードしかない」という想いでつけました。

――ONCEと杉本雄治、その間にはどんな線引きがあるのでしょうか? 

ONCE:新しいものを作り続けていくには、今まで杉本雄治として背負ってきた音楽をリセットする……というわけではないんですけど、いい意味でも悪い意味でも、杉本雄治として活動を続けていくと、今までやってきた音楽のイメージがずっとついてくると思うので。それを一度振りほどいて、新しい名前をつけることによって、先入観なく自分の新しい音楽を受け取ってもらう場所が欲しいな、と思ったんです。杉本雄治としての活動は、肩の力を抜いて今までの音楽をできる場所として置いておいて、ONCEという場所では新たな音楽に挑戦していく。そういうふうに使い分けられたら、とは思っています。

――「Amazing Grace」は7月にデジタルリリースされましたが、アルバムを制作する動きはいつ頃から始まっていたのですか?

ONCE:「プロジェクトを動かすのであればアルバムを作ろう」という案は最初からありましたね。「ライブもしたいね」とはスタッフの皆さんと4月ぐらいから話していました。

――そして、二度目のコロナ感染というハプニングもあって制作が遅れたようで、心配していました。体調はもう大丈夫なんですか? 

ONCE:はい、もう落ち着きました。これは解散してからの僕の想いに繋がるところではあるんですけど、 僕のこれからの音楽に期待してくれている人が少なからずいてくれたので、その人たちに対して「杉本、頑張ってるじゃん!」と思ってもらいたいし、そういう姿勢をできるだけ早く見せたかったんですね。舞台に上がってパフォーマンスをしたり、音楽を提供したり、今までやってこなかったことにもいろいろ幅を広げてチャレンジしていたので、なかなか自分自身の作品と向き合う時間がなくて。ギリギリになってしまったのは、その影響もあります。

――アルバムの全体像に関するビジョンは最初からあったのでしょうか?

ONCE:そこはありましたね。まずは一人でどれだけのことができるんだろう? というのを試したかったし、新しい課題に対してチャレンジする作品にしたかった。ツアーとも繋がってくることですけど、ステージにも一人で立って、自分が作った曲を一人でどこまで表現できるのかを試せるような、そんな作品にしたいなとは思っていましたね。

“核=ピアノ”に今まで抑えていた表現を混ぜていく実験

――M1「Crossroad」はR&Bの要素を感じるインストゥルメンタル。どのようにして生まれてきた曲なのですか?

ONCE:「まずはインストを作りたいな」という想いは最初の段階からありました。僕の一番の武器は楽器でいろいろなハーモニーを作るところなので、インストではそれをしっかり表現できると思っていて。先ほども言ったように、この作品とツアーがすごく密接にリンクしていて、「一人でステージに立ってどういうふうに表現しているんだろう?」というのをイメージして、「まさにツアーの1曲目になる曲だな」と思いながら作りました。今まで応援してくれていた人がたくさん来てくれると思うので、 そういう人たちが一度別れてそれぞれの道に出て、また交わっていくような……冒頭に雑踏のような環境音が入っているんですけど、どんどん音が重なっていって音楽に辿り着いていく――そういうことを表現できたらなと思ってました。

――多彩な音が鳴っていますが、すべて杉本さんがお一人で?

ONCE:はい、もちろんです! ライブでは多重録音をどんどん使って演奏したいと思っているので、自分がその場で演奏しては録音して……というのを繰り返して構築していこうかなと。

――あのエモーショナルなギターもご自身で弾かれているのですか?

ONCE:はい、僕が弾いてます。

――驚きです。でも思い返せば、ピアノ&ボーカルに転向する前はギター&ボーカルだったんですよね。

ONCE:そうなんです、実はギター弾けたんですよ(笑)。

――“杉本さんと言えばピアノ”という印象が長年ありましたが、ONCEとして始動して、ピアノとの向き合い方や意識が変わった部分はありますか?

ONCE:やっぱり自分はピアノだな、という想いは変わらず持っていますね。後でまたお話ししますが、M4「Squall」はピアノだけで作っていますし。このアルバムは「自分の核って何だろう?」と改めて見つめ直した中で、「あ、やっぱりピアノだな」と気づけた作品でもあります。そこにプラスして、今まで抑えていた表現の仕方をどう混ぜていくか。そういう実験の作品だったんじゃないかなと思います。

――M2「Stay With Me」は、声そのものの温かさが伝わる曲で。

ONCE:この曲は早くからイメージがあって、この作品の中でもライブの情景を一番に思い浮かべながら作りました。冒頭では初めてボコーダーを使っています。曲の話とはズレてしまうかもしれないですけど、最近、SNSとの向き合い方をすごく考えるようになってきていて。以前はTwitter(現 X)って日常を呟くツールだったと思うんですけど、ここ最近は悪いことが炎上して盛り上がって、負の感情が溢れるような場所になってしまっていて……。もちろんSNSのいい面もあるんですけど、その中に自分の発言をどう落とし込んでいったらいいんだろう? という迷いや葛藤がここ1〜2年は特に多かったんです。

――使い方が非常に難しいですよね。

ONCE:会えない時間の中で、やっぱりどこか間違って伝わってしまう部分があるなと。それがSNSでは顕著に表れていた気がして、発信も控えていたんです。一番分かり合えるのはやっぱりライブで、お互いの顔を見た瞬間、 迷いだったりモヤモヤした部分だったり、そんなことがどうでもよくなる場所なんじゃないかなって、より強く思うようになったんですよね。ツアーが始まってライブハウスで会った時、「最初にこういう言葉を伝えたら、みんなが笑顔になってくれるだろうな」とイメージしながら作った曲です。

――M3「愛とか恋とか」はリード曲ですが、恋愛ソングかと思いきやメッセージソングで、タイトルとのギャップに驚きました。

ONCE:そこは意表を突けたらいいなと思っていました。

――いつ頃書かれたのですか?

ONCE:書いたのは6月ぐらいですかね。「こういうことを言いたい」という想いは、もうずっとこの1〜2年は持っていました。曲の一番のテーマとして、人はそれぞれで絶対に一つにはなれないし、でもお互いを分かり合う、認め合う感情は大事だよね、というのは間違いなく言いたいなと。ただ、「みんな一緒じゃないから、それぞれをちゃんと理解して生きていかないといけないんだよ」と言うこと自体、やっぱり押しつけになっていく気がしていて。だからこの曲では、ある意味無責任なメッセージではあると思うんですけど、「結局は分かり合えないんだから、自分の気持ちを大事にしよう」ってことを言いたいなと思っていますね。例えば、〈LもGもBもTもQも〉が入っているのもそうなんですけど、SNSで話題になっていることに対して思うことがあったので、ソロプロジェクトで自分を表現する中で伝えたいメッセージ、テーマとして書いた歌詞です。

――「みんな、それぞれに違っていて分かり合えない」という前提に立って、その上で認め合おうというスタンスは杉本さんらしいなと。〈笑い合って過ごし/増やした皺の数が/僕らだけの幸せの数〉という表現が素晴らしかったです。SNS上の「いいね!」の数に象徴されるものと対比されている、と感じました。

ONCE:ありがとうございます。今はやっぱりその数字ですべてを判断してしまうし、「誰かが言うからこうしよう」という日本人特有の集団意識なのか……でも、みんな違った人生を背負って生きているんだからそれを尊重して、それぞれの人生を生きていいんだよ、と言ってあげられる曲にはなってほしいなと思っていましたね。〈あなたらしく生き抜いて〉という部分は他の言い方もできたんですけど、「“頑張って生きて”と言うのも違うしな」と思って。先ほど言ったように、ある意味の無責任さというか、「なんとか自分で変えるしかないんだよ」というメッセージは残したいなと思っていました。

――それは、その人の力を信じるということでもありますよね。

ONCE:たしかにそうですね。サウンドで言うと、ライブを想像した時、一人だとどうしても弾き語りっぽくなってしまうので、そこを打破するような楽曲を作りたくて。 一人きりのライブでも熱量を出せるようなリズム構築というのは、最初からイメージとしてありました。今までやってこなかったことへのチャレンジもたくさん入れている曲です。

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