WEAVERが全国ツアーで向き合った“音楽性の変化” 二部構成の「創意工夫」を読む

WEAVERが向き合った“音楽性の変化”

 2009年にメジャーデビューを果たした3ピースのピアノロックバンド・WEAVER。WEAVERといえば純度の高いピアノサウンドをまず最初に思い浮かべる人もいるかもしれないが、半年間のロンドン留学後初めてリリースしたアルバム『Night Rainbow』(2016年2月)を境にバンドはサウンドを一新。ここのところは海外のトレンドも積極的に取り入れたダンスミュージック路線が続いており、今年に入ってからリリースされたEP『S/S』『A/W』もまさにそのような内容だった。 “WEAVER=ピアノロック”という一元的な枠組みにはもはや捉われることもなく、3人は今も新たな音像構築に臨んでいる最中だ。

 そんな彼らがこの秋全国ツアー『A/W TOUR~You and I will find Another World~』を開催。MCで早々に案内があったように、今回のツアーは、前半はピアノロック、そして後半はエレクトロ、という二部構成ともいえる内容だった。なぜ今、このようなライブを行うことに決めたのだろうか。その理由のひとつは、ツアーの初日・Zepp DiverCity公演を境にバンドが9年目へと突入したことであろう。杉本雄治(Pf & Vo)曰く、「日本一のピアノバンドでありたい」という想いに変わりはないが「自由に、いろいろな音楽を楽しめたら」という想いから現在のエレクトロ路線に至ったWEAVER。そういうバンドの道のりをブロック分けしながら明示し、両者の共通点や相違点をオーディエンスとともに分かちあった今回のツアーは、オーディエンスとともにより自由に音楽を楽しむための、そうしてお互い気持ちの良い状態で10年目のアニバーサリーを迎えるための土壌作りの場だったように思う。

(撮影=浜野カズシ)

 10月21日。まさしくデビュー記念日だったその日のライブは、デビュー曲「白朝夢」からスタート。2曲目は同年リリースの「トキドキセカイ」。そして3曲目は、ギターバンドだった頃のWEAVERがピアノを取り入れ始めた時期に生まれた曲だという「66番目の汽車に乗って」だった。前半:ピアノロックパートの中でも序盤に当たる冒頭3曲は、WEAVERにとって原点といえる曲が並ぶ。そんな中で、例えば、ドラムロールの後に数秒間のブレイクを入れる、アウトロで加速してその勢いのまま曲を終える、河邉徹(Dr & Cho)が立ち上がりながら衝動的にシンバルを叩くなど、音源とは異なるアレンジも多数。また、「つよがりバンビ」では杉本と奥野翔太(Ba & Cho)がソロ回し中に「『あ』『い』をあつめて」の一節を織り込む場面もあり、音源を熱心に聴き込んでいた人ほど新たな発見に一喜一憂できる、宝探し的な楽しさのある展開になっていた。

 この日3人はしきりに「みんなが幸せになれる曲を作りたい」「そうしてもっと一緒に音楽を作っていきたい」という話をしていたが、その“みんな”の中には、自分たち自身はもちろんのこと、これまでのWEAVERが築き上げたピアノロックサウンド、そしてその音楽を慕ってきたファンの存在も含まれているのだろう。バンド→オーディエンス(手拍子)の順に同じリズムを鳴らす掛け合いで音楽を介したコミュニケーションをとるなど、全体的に朗らかなムードながらも、この前半戦からは、ピアノロックを絶えず研ぎ澄ますバンドの芯の強さが伝わってきた。

 そして「ここからはエレクトロなサウンドでぶち上がっていきたいと思います!」と杉本が宣言。レーザー光線が上空でクロスするなか、「Another World」から後半:エレクトロパートのスタートだ。ここからは奥野がベースに加えてシンセサイザーも演奏。河邉は生音のみならず、時にはサンプリングパッドを叩いて電子音を鳴らす。杉本のキーボードの上には一回り小さなシンセサイザーが設置されており、つまり彼の手元には鍵盤が二段重ねで並んでいる状態。曲によって二種の音色を弾き分けるのはもちろんのこと、それらを二刀流で弾いている場面もある。

 ここからが怒涛の展開。「心の中まで(Jazztronik Remix)」は『A/W』収録の音源同様、Aメロ~サビで同じコードをループさせることによりじわじわと高揚感を生み、その和音を転調させながら「さよならと言わないで」のきらびやかな響きへと変貌させる。アウトロに入るとさらに転調し、奥野と河邉による力強いコーラスを機に「KOKO」へ。杉本がハンドマイクに持ち替え前方に躍り出るなど、ステージ上にも動きが生まれた同曲を終えてもビートは途切れることなく、3人によるセッションがスタート。一つのリズムを一斉に鳴らす展開を経て、同様のリズムがイントロで鳴る「クローン」に繋げるも、間奏で転調&テンポダウン。そのまま今度は「Shake! Shake!」へと突入だ。VJとして本ツアーに参加していた林響太朗によるリアルタイムでの映像演出が視覚的な彩りを与え、場内がナイトクラブ的な雰囲気になっていくなか、バンドは「心の中まで (Jazztronik Remix)」から「S.O.S.」までの計6曲をノンストップで演奏。80’sポップやEDM、ジャズ、ファンクなどを一繋ぎにしてみせたのだ。

 2階席から見る限り、フロアのオーディエンスの動きはまだ固いが、今回が初の試みであることを考えればそれもさほど大きな問題ではないだろう。また着眼点を変えながら曲と曲とに共通点を見出し、繋ぎ合わせていく手法自体は真新しいものだが、メロディもコードもビートも奏でることのできるピアノという楽器と向き合ってきた彼らだからこそのセンスがそこで発揮されていたのもまた事実。全体の流れをスムーズにするためか、曲によっては2番をまるごとカットするなど編集も潔く、今回の挑戦はWEAVERと相性が良いように思えた。

(撮影=浜野カズシ)

 本編のラストを飾ったのは、ピアノロック的なサウンドとエレクトロサウンドを融合させた『A/W』収録曲「だから僕は僕を手放す」だった。前後半で趣を変え、振り切ったパフォーマンスを行うことによって、彼らが現在目指すひとつの理想の形を示した今回のツアーは、音楽ジャンルを書き並べるだけでは語れない、“WEAVERがどのようなバンドなのか”という部分を深く伝えるためのライブだったように思う。新たな領域に挑む上での試行錯誤、そしてバンドのポテンシャルを活かしながらの創意工夫を果敢に繰り返しながら、みんなが幸せになれる方法を模索するこのバンドが次に創る景色とは。進化の軌跡を描きながら、その冒険は続いていく。

(メイン写真撮影=ハギワラヒカル)

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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