シンガーソングライター やまもとはるとの音楽に滲み出る揺れる心 小山田壮平との出会いを経て生まれた「からっぽのプール」

SSWやまもとはるとの魅力

 常に諦観のようなものを漂わせているが、しかしそれだけではないと思わせるこの歌声は何だろうか。歌とアコースティックギターから成る繊細な音世界、そして歌詞で描かれているのは、自分はちっぽけな存在だという自己認識や他者を思い焦がれる気持ち、君の全てを知ることはできないといううっすらとした絶望や、その先で希望を強く求める気持ち。きっと誰しも経験のある“大人って、思っていたより幼い”と自覚するあの時代=23歳の揺れる心そのもののような音楽に興味を持たずにはいられなかった。

 福岡県出身、2000年生まれのシンガーソングライター、やまもとはると。2022年1月に初の楽曲「追う風」をリリース。現在東京のライブハウスを中心に活動している彼は、大学生時代に友人の自宅にあったギターを手に取ったことをきっかけに、弾き語りを始めた。

追う風(5/1 public space四次元)

「同じゼミの友だちの家に遊びに行ったら、ギターがたくさんあったんですよ。いろいろな曲を弾いてもらったり、“ここを押さえればこういう音が鳴るんだよ”と教えてもらったりしているうちに″なんか楽しいかも”と思って。それから(当時住んでいた)福岡の春日にある中古リサイクルショップで、6,000円くらいのヤマハのアコースティックギターを買いました。学生時代は、朝起きたらすぐにギターを弾いて、飽きるまで歌ってから学校に行って……という感じでした」

 シンプルなコードを鳴らしたりアルペジオを爪弾いたりする程度に留めているギターも、そして歌もかなり素朴な印象だ。この曇りのなさこそが、やまもとの魅力だろう。曇りがないとは“声色や音色が透き通っている”という意味でもあるが、ここで言いたいのはそれだけではない。自分自身に容赦なく目を向けていること、つまり、心の奥底を見つめながら歌わなければきっと意味がないのだとすでに理解している点が彼のすごさだと感じた。弾き語り歴が決して長くないにも関わらず、だ。

 やまもとの音楽的背景や人となりを探るため、まずはギターに出会う前にハマったことを聞いてみると、「靴磨きと魚を捌くことですかね。父と母の誕生祝いに鯛のお造りを作ったりしてました」と意外な回答が返ってきた。時間を忘れて一つの物事に没頭することが好きなのだそう。影響を受けたアーティストについて尋ねたときに、具体的な曲名やリリース年とともに熱を込めて語る姿も印象的で、凝り性な一面が垣間見えた。なお、やまもとから最初に名前が挙がったアーティストは氷室京介と小田和正。父親がきっかけで聴くようになったという氷室は、自分でもファンクラブに入るほどハマった。氷室のライブ映像を観て「歌う職業っていいな」「カッコイイな」と思ったのが、ミュージシャンになりたいと思うようになったきっかけだそうだ。小田和正の音楽性や歌声については「聴いていてすごく気持ちいいし、迫力もある」と語る。特に『自己ベスト』と『自己ベスト-2』は繰り返し聴いた。

 また、スピッツとandymoriは、元々歌詞に耳を傾けるタイプではなかったというやまもとの価値観を覆した存在だという。

「正直“歌詞が心に響く”という感覚が最初は理解できなかったんですよ。だけど、スピッツの『放浪カモメはどこまでも』にある〈上昇し続けることはできなくても また やり直せるさ〉という歌詞を聴いたときに”初めて歌詞で背中を押される”感覚がありました。スピッツがきっかけで“自分も、曲を書くからには歌詞を書く意味を探し出さないと”と思うようになりましたね。andymoriの『路上のフォークシンガー』にある〈何も心配いらないぜ 俺より汚いやつは/きっとこの世の中には いないと思うから〉という歌詞には衝撃を受けました。“こんなに素直に書いていいんだ”と思った記憶があります」

スピッツ / 放浪カモメはどこまでも
路上のフォークシンガー

 現在はアコースティックギターの弾き語りスタイルでライブをしており、曲作りもアコギを弾きながら行っている。

「コードを弾きながら歌っていると、メロディがちょっと先を走っていくんですよ。そのメロディに合うようなコードを探して、はめていくと、またメロディが先に走っていくからコードを探して……ということを繰り返しながら曲を作っています」

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