私立恵比寿中学 真山りか、安本彩花、小久保柚乃……グループのパフォーマンスを支える表情豊かな歌唱力

安本彩花の存在感の強さが伝わる曲「君のままで」

 “ボーカリスト”としての才能を語るうえでは、もちろん安本彩花も欠かせない。ファンはもちろんのこと、エビ中のことをそれほど深くは知らないリスナーが聴いても、おそらくその歌声に鳥肌が立ったであろうYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』での「なないろ」の歌唱は鮮烈だった。安本の歌声のよさはもとより、“歌うこと”への喜びにあふれていて、歌い手だけではなく、聴き手も含めて全員が持つ“感情”というものは、その歌声をさらに後押ししたり、飛躍させたりすることがあるのだと気づかされた。

私立恵比寿中学 - なないろ / THE FIRST TAKE

 また、安本の存在感の強さが伝わる曲として「君のままで」(2017年)も忘れてはならない。安本のソロパートでのボーカルが曲の展開に沿ってどんどん弾みをつけていき、ライブなどでは素直に“かっこいい”と聴き惚れてしまう同曲。ただ、エビ中のディレクターなどを務めるセトボーイこと瀬戸シノは書籍『Quick Japan vol.131』(2017年/太田出版)のなかで「曲のとおり、メンバーにも自分たちは自分たちでいいんだよって素直に受け止めて理解しながら進めていってもらいたいっていうのがあって」とし、「レコーディング中、安本さんが気持ちの感覚として振り切れない印象があった」と苦戦していたことを明かしていた。だが、「途中から吹っ切れて、めちゃくちゃいいテイクが録れたんです」「自分の想いに気づいたのか、自分の魅せ方に気づいたのか、そんな瞬間があった曲でした」とレコーディングを通して安本のレベルがアップしたことを明かしていた。

【ライブ】君のままで Live at エビ中 夏のファミリー遠足 略してファミえん in 山中湖2018

目覚ましいスピードで成長する小久保柚乃

 歌唱面でもうひとり、期待を込めて小久保柚乃をピックアップしたい。2021年にエビ中へ転入した小久保。2022年にリリースされた7thアルバム『私立恵比寿中学』で筆者がインタビューした際、小久保は「(自分が転入する前の)6人体制のエビ中はアーティスト性もある印象がすごく強かったので、レコーディングなどでも『自分たちで大丈夫かな』という不安はありました」と戸惑いを抱えていたという(※1)。

 しかし、一緒にインタビューに応えてくれた星名は「柚乃は決してダンスや歌が最初からうまかったわけではない」「だけどエビ中っぽさがあるというか、昔の私たちを見ているような感じなんです」と話し、そのコメント通り、まだまだ荒削りながらも可能性を大いに感じさせる歌を聴かせてくれる。以降も目覚ましいスピードで成長を遂げていて、歌への信頼を少しずつ獲得。ボーカルの完成度が極めて高いエビ中のなかでのびしろはピカイチ。彼女の歌がどこまで成長していくのか、楽しみでならない。

 グループ結成当初は、歌、ダンスともに“不安定なところ”がひとつの売りだった。しかし、今やアイドルシーンでも屈指のパフォーマンス力を誇る。特に、彼女たちのボーカルは観る者の心を震わせるほど感動的である。歌唱面の軸だった柏木ひなたが2022年をもって転校したが、現体制でもユニゾンの美しさなどは健在だ。そして、もちろん今後も個々の歌唱力はさらなる発展を遂げていくことになるだろう。

※1:https://www.lmaga.jp/news/2022/04/426323/

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