私立恵比寿中学、メジャーデビュー10周年に寄せて パフォーマンスを向上させることで前に進んできたグループの歩み
「エビ中」の愛称で親しまれているアイドルグループ、私立恵比寿中学が5月でメジャーデビュー10周年を迎えた。「永遠に中学生」をテーマに掲げて2009年にインディーズから出発した彼女たちは、さまざまな瞬間に立ち会いながら成長を遂げてきた。筆者は、ももいろクローバー(現・ももいろクローバーZ)の妹分というきっかけから、初期の頃からエビ中に注目してきた。
はじめは、ヤンチャでにぎやかな女の子たちという印象だった。筆者が雑誌『BOUQUET』(2015年/ロックスエンタテインメント)でエビ中にインタビューをおこなった際、当時メンバーだった松野莉奈は「私たちってめちゃくちゃうるさいんですよ(笑)。この前、台湾でライブをしたときも、バスの添乗員さんが挨拶をしただけで、“イェーイ!”“フーッ!”とか騒いじゃって、そんなのエビ中だけだよ」と振り返り、星名美怜も「いつまでも大人になれない。ほかのアイドルグループとお会いすると、年齢が近いのに“どうして、みんなそんなに大人っぽいんだろう”と驚くんです。“何が違うんだろう”って。きっと根が子どもなんでしょうね」と自分たちのことを語っていた。
グループがスタートしたときはサブカルチャー路線を進み、一転して清純派や王道性を打ち出しかけたかと思えば、再びサブカルアイドルへ戻ったりするなど、方向性は良くも悪くもユルくて曖昧だった。ただ、そうやって落ち着きなく動き続ける様子に思春期性が感じられ、それこそがエビ中のおもしろさと言えた。
しかし時間を重ねるごとに、グループは厚みを持っていった。ヤンチャが売りだった「永遠に中学生」たちは、いつの頃からか、いつでもどんなときでも私たちの感情を大きく揺さぶるグループへと変貌を遂げていった。
〈感情電車に乗っかって 駆け出してよどんどん行っちゃって〉――。これはエビ中の代表曲のひとつ「感情電車」(2017年)の一節だ。
2017年2月8日、松野が急逝。グループはこれまで何度もメンバーが入れ替わってきたが、松野との別れはあまりにも突然でつらいものだった。正直なところ、メンバーもファンも立ち直れないのではないかとあのときは思った。そんななか、エビ中は松野への想いを楽曲に込めて前へ進んだ。この曲はこう締めくくられる。〈感情電車は特快で 今もう もう どこにも止まれないよ〉と。
筆者が2021年3月、柏木ひなた、真山りかへ取材をおこなった際、「立ち止まること」へのメッセージが含まれた楽曲「イエローライト」について聞いたとき「私たちは立ち止まることが怖いんです」と口を揃えていた。コロナの影響が強かった時期でもあり、柏木は「私は休みが2日でも続くと心配になるタイプ。だから物事がストップしたとき、ふと冷静になって『あれは良くなかったかも』とマイナス思考になってしまう」、真山も「これからどうなっちゃうんだろう、と不安になる」と素直な気持ちを吐露してくれた。だからこそ「何があっても動き続けたい」(※1)と話していた。
松野が亡くなったとき、動き出すのは辛かったはずだ。どう動き出せば良いか分からなかったのではないか。それでもグループは同年4月から再スタートを切った。そして彼女たちは〈どこにも止まれないよ〉と歌ったのだ。彼女たちはこのとき「何があっても立ち止まりたくない」と心に誓ったのではないだろうか。
安本彩花が2019年10月に休養を発表し、翌年3月に復帰したものの、同年10月から病気治療のために再び休養に入った。そのときもメンバーは立ち止まらず、彼女が帰ってくる場所を守り続けた。いや、現状維持ではなくもっと大きな場所へと作り変えた。その前後からグループはメンバー全員の歌唱力がアップし、ダンスの表現力も目覚ましく進化した。かつてはユルさを売りにし、メインストリームから外れた方向性へ進もうとしていたこともあったエビ中。しかし、本格的なパフォーマンスを見せるようになっていた。
椎名林檎トリビュートアルバム『アダムとイヴの林檎』(2018年)への参加はそのあらわれだった。エビ中は、錚々たる参加アーティストに引けをとらないパフォーマンスで「自由へ道連れ」をカバーした。柏木、星名のボーカル力は特に圧巻。全体的にも、エビ中の色をしっかりと感じさせるものだった。これまで、田村歩美(たむらぱん)、尾崎世界観(クリープハイプ)、WK1(鈴木慶一+曽我部恵一)、加藤慎一(フジファブリック)ら、日本の音楽シーンをリードする面々から楽曲を提供されてきた彼女たち。幅広い楽曲に挑戦し続けてきたその積み重ねが生かされたのではないか。