楠木ともり『PRESENCE』『ABSENCE』対談 前編:中村未来(Cö shu Nie)、ハルカ(ハルカトミユキ)と語る制作の背景
自分を信じて強く生きようとしている核の部分は、すごく近しいものがある
ーーでは、「BONE ASH」がどのような流れでできていったのかを聞いていきたいのですが。
楠木:私から、「存在」と「不在」というアルバムのテーマをお話したんですけど、細かくこうしてくださいというお願いはしなかったんです。そしたら逆に質問をしてくださって。
中村:Cö shu Nieに依頼してくださったのだから、どの曲を聴いて、どういう表現がしたいと思ったのか、というところを聞きたいと思ったし、ともりさんの生い立ちというか、どういう人物像なのかなっていうところも聞いてみたかったんです。
ーー提供する相手のことを知ったほうが、曲は書きやすいのですか?
中村:曲を提供することがそんなに多くはないので、これが正解とかではないんですけど、自己表現としてアーティスト活動をやっている方なので、ともりさんというものを映したような楽曲を書きたいなっていう意気込みと気合いがあったんです。
楠木:そこで私も生い立ちを話しました。学生時代どういう子供だったとか、家族構成とか、あまり普段は話さないところまで、結構さらけ出した感じはありました。自分が思っていたよりも素直に、深い部分を話してしまったなって思ったので。
ーーそこで、楠木さんのことを理解しつつ、書くことも浮かんできたんですね。
中村:いや、そんな短時間で人は理解できるようなものではないです。深みのある女の子だとは思いました。でも、大きなテーマで書くとしたらこれだな! みたいなものは湧いてきました。
楠木:話している時点で、目的地はできていた感じだったんですね! すごい!
ーー話しながら、共通点というか、共感するところも見つけられたのですか?
中村:生い立ちとかは全然違う感じではあったんですけど、その中で自分を信じて強く生きようとしている核の部分は、すごく近しいものがあるなと思ったんです。負けず嫌いな感じというか、「は~?」みたいな(笑)。
楠木:そうですね……(笑)。
中村:「は? 何なん!」っていう感じはすごく近いなと。そこからの「BONE ASH」です(笑)。
ーー負けず嫌いで立ち向かっていく感じは、共感していたのかなと、曲から感じました。
中村:そうなんですよ。自分が普段から曲で使っているようなワードが、この曲でもきっちりとハマったので、それは面白い現象だなって思いましたね。
楠木:嬉しい。
ーー作業としては、作曲から始めていったのですか?
中村:そうですね。今回はピアノで作曲しました。声を聴いてもらうことが大前提だと思ったので、歌いやすいメロディのサビを意識して曲を書いていき、そこから歌詞にいきました。歌詞は書きたいテーマがしっかりと決まっていたので、曲の構成を決めてからはそこに合わせて歌詞を整えていくような感じでした。
ーー出だしの〈体を包む 灰を吹け〉が、やはり印象的ですよね。
中村:ここは最初に書いたフレーズで、ともりさんって、全部に着火するというより、自分を燃やしてやっているようなイメージがあるんです。自分を燃やす炎によって出た灰を、ふっと吹いて「何もなかったよ」みたいな顔で立っている、みたいな。
楠木:すごい……。たった8文字で、そこまで映像として見えてくるというのが、未来さんの言葉選びの素晴らしさだと感じるし、こういうところが好きです! って思いました(笑)。自分だったらもうちょっと説明しそうだけど、これで十分じゃないですか。“包む”で、自分から出たものであることがわかるし、“吹く”ではなく“吹け”というのも、自分を鼓舞するような感覚がある。一文字でバランスが変わってしまうような言葉を最初に書いたんだ! っていうのは驚きでした。
ーーしかも、そこから始まりますからね。
楠木:仮歌は未来さんが歌ってくださっているんですけど、鳥肌が立ちました。このままリリースしないかなって思っちゃいました(笑)。
中村:ともりさんのために書いたからダメです(笑)。
楠木:最初に息を吸う音から始まることに生命力を感じたんです。なのでレコーディングでは、この息を吸う音にもこだわりたいと、すごく思いました。
中村:実際にそこは、レコーディングでもすごくこだわったよね。
ーーちなみに歌詞は、そんなに行き詰まることなく書けたのですか?
中村:結構すんなりでした。人物像のイメージができていたのと、〈ノートはきっちりととる派〉とかは、実際に聞いた話を、おちゃめなフレーズとして入れたくなったりして。
楠木:このAメロの3行、大好きです。学生時代の話をしたんですけど、自分では隠しがちなところを最初にぶつけてくる感じがあるんですよね。
中村:確かに! これを自分で書くのは難しいかもね。
楠木:自分で「優等生です」みたいなことは言えないので(笑)。
中村:やれることはやってきましたけど? って感じだもんね(笑)。
楠木:そうやって人に歌詞を書いていただくことで、しっかりと輪郭ができていく感じもありました。そういう言葉をメロディに乗せたことで、歌うとさらにニュアンスも乗る感じがしたんです。だからレコーディングで歌ってみて気づくことも多くて。家でこういうニュアンスにしようと考えて行ったのに、実際歌ってみたらガラッと変わることは多かったです。
中村:レコーディングは、めっちゃ楽しかったよね!
楠木:楽しかったです! 未来さんにディレクションしていただいたんですけど、実際に歌ってディレクションをしてくださって。未来さんが別の部屋でマイクで歌ったものが私のヘッドフォンから聴こえてくるので、冷静さを欠かないようにするのに必死でした(笑)。でも、実際それがわかりやすかったというか。普段は言葉で伝えていただくことが多いんですけど、齟齬が生まれることもあるんです。言葉+歌があることで、細かいところまでわかりやすくなるんですよね。実際それで歌ってみると、自分でも新たな気づきがあったりするので、贅沢だなって思っていました。
中村:すごく理解が早くて、こういうふうにしたいなぁと思って、歌ったら伝わるものかな? と思って歌ってみたら、すぐに自分の表現にされるから、そのスピード感が本当に楽しくて。
ーー真似をするというわけではなく、そこから自分の表現にしてしまうんですね。
楠木:いや、真似なんてできないんですよ! 美しくて! 細かくトレースなんてできないので、こういう意図があって、ここで力を緩めるんだなとか、震えたほうがいいんだなとか。息の吸い方もそうですけど、実際に聴いた上で、自分として歌うというやり方をしていました。
ーー楠木さんのボーカルはいかがでしたか?
中村:もう流石というか。声も素敵だし、歌ったときに「え? このための曲やん!」って感じになったんですよ。ね?
楠木:がっちりとハマった感じがあって、感動しました。
中村:私もすごく感動した。温かみもあるし、透明感もあるし、力強さもある。それにすごく感情が乗っていて、いい歌だな~ってしみじみ思いました。
楠木:ああ、嬉しい……。
ーーボーカルの構築も楽曲の印象も、Cö shu Nieさんのサウンドに近い感じではありますよね。
中村:それは最初からそうしたくて。せっかくファンと言ってくださったのだから、マジでゴリゴリにしてやる! って(笑)。
楠木:歌っている間も幸せでした。Cö shu Nieさんの音楽とか空気感とか言葉に包まれているような気持ちで歌わせてもらったので。ただひとつ不安だったのが、Cö shu Nieさんの世界観として完成されていたので、カラオケっぽくならないかな? というか、その空気に飲まれすぎてしまうのではないかと思ったんです。でも、未来さんが私の声にハマるように作ってくださったので、Cö shu Nieさんの世界観がありつつ、ちゃんと楠木ともりとしての軸がある感じに仕上がっていて、すごい! と思いました。そして歌えば歌うほど、聴けば聴くほど、歌詞が自分に馴染んできたんですよね。次のツアーで歌うときは、こうしてみようとかいうアイデアがどんどん出てくるんです。そのくらい皮膚みたいに自分にしっかり馴染んでいく感じがあります。だから今からライブがすごく楽しみです。
中村:良かった。それとこの曲、めちゃくちゃ変拍子にするかとか迷ったりもしたんですよ。
楠木:じゃあ次は、ガッチガチの変拍子の曲をお願いします!