楠木ともり、鈴木みのり、東山奈央……梅雨時にこそ聴いてほしい女性声優の歌声

 今月も女性声優による新譜がリリースされている。その中から、気分の落ちがちな梅雨を楽しませてくれるような特に聴きごたえのある3作品を紹介したい。

 雨をテーマにしたEP『遣らずの雨』を6月1日にリリースしたのは楠木ともり。アンビエントやポストロックの音色を取り入れながら、全体を通して雨の景色を彷彿とさせる叙情的な作品を作り上げた。

 「雨が…」という楠木の呟きと、土砂降りをイメージしたというギターフレーズが今作のアルバムのテーマを実直に表現する「遣らずの雨」の冒頭。タイトルは「帰ろうとする人を引き留めるかのように降ってくる雨」という意味であるが、歌詞に〈還る〉とあることからもわかるように、本来の意味よりも深刻なものをイメージしているという(※1)。流麗なピアノやサビでのギターリフは引き留めようとする切羽詰まった焦りを感じさせ、サビ前では〈君の笑顔で誰かが救われるのに 君の笑顔は誰も守らないのか〉と悲しみややるせなさを表す。ヴァースでの静かな歌声も相まってどこか神聖な、独白のようなニュアンスが幻想的だ。「山荷葉」は、その音使いや、「歌う」よりも「呟く」という言葉が似合う歌唱が「遣らずの雨」にも通じる楽曲。音に溶けるような残響を残す楠木のボーカルは〈祈りごと あなたに秘めて いつの日か〉と、1曲目と同様、静かに他者の存在を浮かび上がらせる。孤独感が漂いながらも他者への気持ちが練り込まれた2曲だ。

楠木ともり「遣らずの雨」Music Video -Full ver.-
楠木ともり「山荷葉」Lyric Video

 シンセの音に乗せてポップなメロディをなぞる、起承転結の「転」にあたるような存在感のある「もうひとくち」に続き、ローファイなギターの音色と雨音を思わせるエフェクトのイントロが心地よい「alive」は、インストゥルメントだけで成立しそうな楽曲でもある。本人も「歌がメインという雰囲気があまりなかったところがすごくライブっぽいと思った」と、デビュー後初のワンマンライブの景色を描いたそうだ(※2)。楽曲を生かすシンプルで短い歌詞と、インスト曲としての魅力も持ちながら歌との齟齬を起こさない穏やかなサウンド。そんな温かい光を思わせる楽曲で梅雨時に似合うEPは終結する。

 同じく6月1日にリリースされた、アニメ『勇者、辞めます』(TOKYO MXほか)のオープニングテーマである鈴木みのりのニューシングル表題曲『BROKEN IDENTITY』は、力強い歌声と疾走感が特徴のロックチューン。アニメソングとしては決して珍しくない曲調だが、これまでに、鈴木のキュートでよく通る歌声でこういった曲調を聴くことはなかった。〈生きて生きて 生き尽くせ 光を未来へ〉という高らかな歌い始めはインパクトがあり、曲調の意外さも相まって聴き手を驚かせることだろう。自身のアーティスト像は脇に置いて、完全に作品に寄り添うことに振り切ったというが、高音を得意とする彼女の歌声には説得力がある(※3)。

鈴木みのり - BROKEN IDENTITY(Official Video)

 カップリングの2曲では、それぞれ異なる女性像を描き出す。すりぃ作詞曲の「リップ」は惑わすような誘うような歌い回しで大人な雰囲気を、80年代アイドルを思わせる懐かしさのある「ときめきの時空と林檎」は落ち着いた雰囲気を持たせつつも今作の中では一番キュートな声色を聴かせている。彼女にとってはチャレンジとなった表題曲と、異なる女性像を歌い上げたカップリングを含む本作は聴きごたえ抜群だ。

鈴木みのり - リップ(Lyric Video)

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