ゆいにしお、会社員経験があるからこそ描ける“社会人女子の夏” 同世代の共感集める音楽が生まれるまで
私の歌はシスターフッドかもしれない
ーーこれまでベタなことをしてこなかった主人公が「今年の夏こそは、王道の夏を過ごしたい」と色々と妄想していたら〈海らしい海を見てたら 磯の香り漂ってきたよね〉という歌詞に着地する。あの間奏は現実から妄想した世界へトリップしてる様を表しているのかなと思いました。ゆいにしお:間奏後から主人公の心持ちが変わるんですよね。フォトショ(Adobe Photoshop)で加工した海の写真を見たりガイドブックを見たり、脳内で夏の体験を無理やりしていたら、実際に心が追いついてきて、ラストサビでは転調して思いっきり弾ける。そう考えたら、トリップしてるのかもしれないですね。
ーーアレンジをお願いする上で、何かオーダーは出されましたか?
ゆいにしお:ブルーノ・マーズの「Treasure」をリファレンスに出していて。爽やかな感じでお願いしようかと思っていたんですけど、音源を聴いたマネージャーが「これは令和の『サマーヌード』だ!」と言い出して。そこからJ-POP寄りのムードになっていきました。
ーー続いて3曲目「アイスコーヒー」は、友達と喋っていたことが楽曲のヒントになったとか。
ゆいにしお:25、6歳になると、恋愛に対して冷静になる人が多いと思うんです。例えば、それまで彼氏と長く付き合ってきた人も、結婚を見据えて「将来この人とは難しいかな」と別れを考える。マッチングアプリで知り合って、ある程度は付き合ってきたけど、全然しっくりこないとか。私の友達もマッチングアプリでいろいろ出会ったけど、全然発展しなくて「食事に行って、連絡もしてるけど特にそこからどうともならない」と不満を漏らしていたんですね。で、占い師に相談したら「そいつとは本当にどうともならないよ」って言われたらしくて。
ーーこの先続けたとしても、どうにもなりませんよって。
ゆいにしお:20代中盤になると、どうにもならない恋愛がどんどん積み重なっていく。傷つかない恋愛は楽だけど、それで大事な20代中盤をダラダラと過ごしてしまっていいのだろうか? みたいな葛藤もやっぱりあって。そこに対して「傷を負ってでも、思いっきり恋愛をしてはどうだろう?」と苦言を呈した曲ですね。
ーー自分がリスクを背負って行動しないと、逃すチャンスはいっぱいあるんだなと思いますよね。
ゆいにしお:自ら傷つきに行かないと成功しない場面は多いですよね。
ーー結婚してる人を羨ましいと思うけど、でもその人たちはパートナーのことを一生愛し抜くとか、仮に傷つくことがあっても絶対その人から逃げないっていう覚悟を持ってるから、結婚してるわけで。
ゆいにしお:めちゃくちゃ分かります。
ーーそういう意味でも、我を忘れて夢中になれるものっていいですよね。
ゆいにしお:そうなんですよ。私の場合は音楽を必死にやっているけど「それ以外にハマってることってありますか?」って聞かれるとちょっと困るというか。無理やり始めて見てもハマれないしな、と思っちゃうんですよね。
ーー〈泣いてみたかったよ〉というフレーズがありますけど、泣けるぐらい何かに夢中になったらすごく素敵ですよね。
ゆいにしお:今、失恋したとしても泣き暮らすとか、ご飯が喉を通らないことは多分ないなって思うんですよね。逆に、そうなってみたいなって思ったりして。「アイスコーヒー」はそういう曲ですね!
ーー今作は夏をテーマに、等身大のリアルな心情や風景を描いた1枚ですが、どんな人に届いてほしいですか?
ゆいにしお:一番は、自分と同じ20代中盤の働く女性に届いてほしいです。でも、これから社会人になる学生さんとか、逆にその時期を過ぎちゃったけど「確かに社会人3、4年目ってこういう気持ちで働いてたな」という人にも届いたら嬉しい。いや、生きることに励むすべての方達に届いてほしい。
ーーライナーノーツの最後に「仕事をしてたらあっという間に終わっていく夏のように、あっという間に終わる3曲のサマーチューン。ビールをグビっと飲み干し聴いてください」と書かれていますけど、どこでどう飲むかも大事ですよね。
ゆいにしお:仕事帰りの帰路で歩きながら飲む缶ビールなのか、休日の明るいうちからなのか、いつ飲むかによっても変わる気がしますね。
ーー個人的には、「今年も夏休みが取れずに、理想の夏を満喫できなかったな」と思いながら、仕事終わりに家の近所のファミマでファミチキとビールを買って、帰り道で飲みながら『ワークライフアイランド』を聴いている方がいたら素敵だなって。
ゆいにしお:あー、まさに! シチュエーション的にはそれが一番ですね!
ーー前作のインタビューで「ゆいにしおの音楽は女食住」という例えをさせてもらいましたけど、今作を聴いて改めて言い得て妙だと思いましたね。
ゆいにしお:そうなんですよ! その言葉が心に染み込んでいて「女食住」を思い出しながら、最近は曲を作ったりしてます。すごく素敵な言葉をいただいたなって。
ーー今後はどんな「女食住」を見せてくれるのか楽しみですよ。
ゆいにしお:これまで、女子会の話から曲を作るヒントを拾っていて。今もそれは変わってないんですけど、みんな年齢を重ねてくので、話す内容がだんだん変わっているんですよね。劇的に変わることはなくても、グラデーションで変わっていくので、そのグラデーションを常に見逃さないようにしたいと思います。ちなみに最近は、友達がオンラインのホストにハマり始めたのが心配で。そこにリアコ(リアルに恋をしている人)しそうなので、友達のちょっとした動きを見逃さないようにしたいなと思います(笑)。
ーー動向をチェックしつつ、それを曲に昇華していくと。
ゆいにしお:ふふ、そうですね。最後に「We Are Girls Forever!」の補足をしてもいいですか? 今一番お手本にしてるギャルというか女性がジェーン・スーさんなんです。彼女の『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』というエッセイがありまして。ある時にジェーン・スーさんは、どんなに年齢やキャリアを重ねても、か弱い部分とか整合性が取れていない、いわゆる“女子”の魂が残り続けてることに気づいてしまって。その女子を出すのは、仲間内だったら出していいと。むしろ出すことは楽しいっていう考えを書いているんですね。例えば、刺青はプールとか温泉では出さないけど、仲間内では半袖とかタンクトップになって見せてもいいんじゃないか、と。「We Are Girls Forever!」を作っている時は、そのエッセイを読んでなかったんですけど、後から読んで「言ってることはほぼ同じだな」と嬉しくなりました。
ーー男性って何歳になっても、下ネタとかくだらないことでテンションが上がってしまう男の子の心を秘めているものなんですけど。女性が秘めている女の子の部分ってなんですか?
ゆいにしお:急に結束する瞬間が生まれるのは、女の子感かなと思いますかね。
ーー言われてみれば、学生時代にその光景を見たことありますよ。ある女の子が振られて悲しんでいたら、周りの女子がスクラムを組んで、相手の男を囲みながら「お前、なに●●ちゃんを振ってくれてんだよ!」みたいな。
ゆいにしお:ハハハ、そうですよね。今までバラバラだったけど、一つの出来事があって急に肩を組み始めるのは女の子感かも(笑)。あと、入学試験のタイミングって女子高生が痴漢されやすいんですよ。その時期になると、私の世代とかもっと大人の女性たちが、女子高生を守るために仁王立ちで囲む。そういう連帯感、勝手にシスターフッドの気持ちが芽生えるのは女の子感なのかなと思いました。
ーーゆいにしおさんの曲もそれですよね。「女の子だから綺麗にしよう」という歌詞があったとしたら、それは対男性のためだけじゃなくて、女性が女性であることの喜びを歌っている印象があります。つまり女性の味方であると。
ゆいにしお:ですね! 男性のために可愛くするのも、テンションが上がる行為の一つではあるんですけど、そのためだけにやってるとしんどくなる瞬間がある。「だったら自分のためにやった方がよくない」みたい気持ちがありますね。私の歌はシスターフッドかもしれないです。
■リリース情報
Major 1st Single『ワークライフアイランド』
発売中
¥4,950(税別)
<収録内容>
CD
1.We Are Girls Forever!
2.SUMMER TUNE
3.アイスコーヒー
Blu-ray
『ゆいにしお Major 1st Full Album『tasty city』Release Oneman Tour “tasty sound”』2022年11月25日 at 渋谷WWWワンマンライブ映像
■ライブ情報
ゆいにしおpresents summer 2man tour『DAILY ISLAND』
2023年7月27日(木)池下CLUB UPSET w/ Qnel
2023年7月28日(金)心斎橋Pangea w/ mekakushe
2023年8月2日(水) 渋谷Spotify O-nest w/ Lucie,Too
■関連リンク
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