星街すいせい、音楽の力で刷新する“VTuber”への先入観 「THE FIRST TAKE」出演で一歩近づいた理想の未来

星街すいせい、刷新する“VTuber”のイメージ

負の感情は音楽にぶつける

星街すいせい 2nd Album『SPECTER』クロスフェード

ーー幼少期から音楽をどっぷり聴いて育ってきたんですか?

星街:どうなんだろう。多分、一般の人と同じくらいの触れ具合だったと思いますけどね。両親が音楽好きだったので、車の中で流れている曲を聴いて好きになったりとか。歌に関しても同じですよね。歌手になりたいと思うきっかけが何かあったかというと、決してそういうわけではなく。幼稚園で童謡を歌ったりとか、テレビから流れる曲を真似して歌うとか、小中学校の合唱コンクールで歌うとか、そういうことの延長線上に今もいる気持ちなんです。なので、星街すいせいとして歌うようになったのもすごく自然な流れだったと思います。

ーーでは音楽的なルーツはどうですか? 今の星街さんは多彩な音楽性を持っていると思うので、これまでにどんな音楽を好んで聴いてきたのかにすごく興味があるんですけど。

星街:ルーツかー。お父さんがビートルズ(The Beatles)好きで、お母さんはMaroon 5とかを聴いていたので、その影響で小さい頃は洋楽を主に聴いていましたね。邦楽では宇多田ヒカルさんが多かったかな。で、小学生から中学生にかけてニコニコ動画にハマり、ボーカロイドをたくさん聴くようになった期間を経ての今、っていう感じですかね(笑)。

ーーネットミュージックがご自身の1つ軸になっているのは間違いないですね。

星街:はい。ネットミュージックは自分から好きになったものでしたからね。それはやっぱり自分にとってのルーツかもしれないです。

ーーでは、この5年の活動の中で転機になった出来事はありましたか?

星街:「NEXT COLOR PLANET」(2020年3月発表)を出したときかな。私はホロライブに入る前、<イノナカミュージック>というレーベルに所属していたんですけど、その間にはいろんな事情からオリジナル曲を制作することができなくて。自分自身の気持ちがかなり落ち込んでいたんですよね。その後、ホロライブに移籍して、1年ぶりに「NEXT COLOR PLANET」をようやく出すことができたとき、すごくたくさんの方に喜んでもらえたんです。それによって「音楽で頑張れるかも!」という気持ちになることができたので、けっこう自分にとっては大きなポイントだったかもしれないです。あともうひとつ。「GHOST」(2021年4月発表)を出せたことも自分としては大きかったと思います。

ーー星街さんの新たな魅力を感じさせてくれた楽曲でしたよね。

星街:そうですね。それまではけっこうキラキラした曲を出すことが多かったんですけど、ちょっとダークな曲を作りたいなと思ったんですよ。それ以前に「天球、彗星は夜を跨いで」(2019年3月発表)という曲があったんですけど、比較的そこに近い雰囲気の曲をもう一度やってみたいなと。私は一応、アイドルを名乗っているので(笑)、曲調的にロックな「GHOST」のような曲はどんな反応なのかなと思ったら、それもけっこう評判が良かったんですよね。自分はキラキラした曲ももちろん好きなんですけど、感情を思いきりぶつけた呪いみたいな歌も得意なところがあるので、それをオリジナル曲として出せたのも転機だったと思います。

ーー後ほど伺いますけど、今回リリースされたニューアルバムは、その方向性をあらためて突き詰めた印象もありますよね。

星街:そうですね。2ndアルバムでは主にそういう曲を詰め込んでみました(笑)。

ーーコアでエッジィなアーティスト性を音楽で表現できるようになったことで、VTuberの活動がよりいいバランスでできるようになったのかもしれないですね。

星街:昔は「アーティストだね」って言われても、「一応アイドルです」みたいに返していたんですけど、「もうどっちでもええか」みたいな感じにはなってきてますね(笑)。アーティストとして見たとしても割と自分は特異点ではあると思うし、VTuberとしてもおもしろい立ち位置なのかなとは思います。表現に関しても、おっしゃったようにバランスが取れてきた印象も確かにありますね。今回のアルバムでは活動を通して感じたイヤな気持ちやうっぷん、怒りみたいな感情が詰まった曲が多いんですけど、普段の配信はエンターテインメントでありたいからそういう部分はあまり出したくないんです。でも、そういう負の感情は自分の中に間違いなくあるものだから、だったらそれは音楽にぶつけようっていう。そういう棲み分けは活動の中でより明確になってきていると思いますね。

ブラスを盛り込んだ曲を星街すいせい“らしさ”に

灼熱にて純情(wii-wii-woo) / 星街すいせい(official)

ーーではニューアルバム『Specter』のお話を伺いましょう。まずは仕上がりに関して、ご自身ではどう感じていますか?

星街:「できたー! いい感じやーん!」みたいな(笑)。並べて聴いたときにすごく達成感もあったし、安心もしましたね。一応、最初の段階で「こんな仕上がりになるといいな」っていうイメージを思い描いてはいて。それを元に、様々なクリエイターの方々に曲をお願いしていきました。今回、参加していただいたのは音楽性的な振り幅を持った方々なので、「この方にはこっち路線じゃない曲をお願いしたほうがいいのかな」とか、いろいろ制作期間で悩んだ瞬間はあったんですけど、どれも想像以上の仕上がりにしていただけた手ごたえはありますね。ありがたいことに1stアルバム(2021年9月リリースの『Still Still Stellar』)がすごく好評だったので、それが割とハードルを高くしていたんですけど(笑)、そこにちゃんと並び立てる2ndアルバムになったと思います。

ーー最初に思い描いていたイメージを言葉にするとどんなものになりますか?

星街:1月28日に開催する2ndライブでは生バンドを入れたいという思いがあったので、それに合わせてアルバムもバンドサウンド多めがいいなっていうのがまずありました。あとは繰り返しになるんですけど、「天球、彗星は夜を跨いで」とか「GHOST」のような曲をたくさん詰め込みたい気持ちもあって。わかりやすく言えば、1stアルバムがアイドル・星街すいせいの自己紹介的な作品になったので、今回は真反対のものにしようと。キラキラからギラギラになった感じですね(笑)。

ーーオープニングを飾る「灼熱にて純情(wii-wii-woo)」からもうギラギラです。この曲はUNISON SQUARE GARDENの田淵智也さんが作詞・作曲を、堀江晶太さんがアレンジを手掛けています。

星街:ゴリゴリな熱いロックですからね。サウンド的にめちゃくちゃインパクトがあるので、アルバムの1曲目にさせてもらいました。先行配信の段階から、聴いてくれた方はみんな盛り上がってくれてましたね(笑)。まだちょっと声出しができないですけど、いつかライブで〈wii-wii-woo〉をみんなで叫びたいです。

ーー3曲目には本作のリード曲となる「みちづれ」が。これはYOASOBIのAyaseさんが手がけられたものですね。

星街:リード曲をどなたに頼もうかですごく悩んだんですけど、ここはもうYOASOBIで一世を風靡しているAyaseさん、「もうあなたしかいない!」みたいな感じでお声がけしたらお引き受けいただけて。本当に嬉しかったですね。楽曲を聴いたときには、表題として最高の曲になったなっていう安堵感もありました。ただ、この曲はAメロがめちゃめちゃ低いし、かと思いきやサビがものすごく高いので、歌うのはかなりムズかったです(笑)。

ーーホーンをフィーチャーしたジャズテイストのサウンドは星街さんにすごく似合いますよね。

星街:この5年間で私は星街すいせいらしいサウンドをずっと模索してきたところがあって。その中でブラスを盛り込んだ曲を“らしさ”にしようかなっていう思いも実はあるんですよ。それは単純に私がエレクトロスウィングとかジャズとか、そういうサウンドが好きだからなんですけど。今回も「みちづれ」を筆頭に、いろんな曲でブラスをプワプワ鳴らしてもらっていますね(笑)。

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