星街すいせい&TAKU INOUEによるMidnight Grand Orchestra『Overture』レビュー:近未来へと誘われるリズムと音の博覧会

Midnight Grand Orchestraレビュー

 圧倒的な21世紀感をもって登場した未来派ポップな新たな才能、Midnight Grand Orchestraが、1stミニアルバム『Overture』を7月27日にリリースした。

『Overture』Cross fade Movie

 結論を先に言い切りたい。今聴くべき注目作の誕生だ。混沌とする令和という時代のポップミュージックにおいて、どんなテーマで音楽をクリエイトしていくのか? そんな疑問に対する一つの羅針盤となっている。

 音楽とは、どんなカルチャーにも溶け合える存在だ。Midnight Grand Orchestraによる『Overture』は、ミュージカルのような重厚感が混ざり合う「Never Ending Midnights」から物語の幕が開けられる。煌めきと破壊、そんなアンビバレンツかつアグレッシブなビートに乗せて夜の街へと誘う壮大なオープニングだ。

 舞台に立つのは、気鋭のVTuber・星街すいせいとサウンドプロデューサー・TAKU INOUE。2021年7月、TAKU INOUE&星街すいせい名義でリリースした「3時12分」で出逢った、次世代のエンターテインメントを担う実力派である。その後、星街すいせい「Stellar Stellar」でのタッグなどを経て、今年3月に新プロジェクト・Midnight Grand Orchestraを始動。メタバースがバズワードとなる2022年。エンターテインメントの主戦場を拡張する可能性を秘めたポップミュージックの近未来を突破する二人組ユニットだ。

 類まれなるボーカル表現を通して音楽的才能を発揮し新たなマーケットを開拓した星街すいせいと、ダンスミュージックとゲーム&アニメカルチャーを繋ぎ、J-POPシーンにも新たなる刺激をもたらしてきたTAKU INOUEによるタッグには期待しかない。

Midnight Grand Orchestra「SOS」MUSIC VIDEO

 『Overture』の2曲目であり、先行配信された「SOS」のMVにてアニメーションで描かれたSF的世界観が解き放つ情報解像度の濃さ。〈さあ僕の番だ!〉とフューチャーベースに乗せて高らかに歌う展開は、Midnight Grand Orchestraによるポップ革命への宣誓のよう。そしてドラムンベースのリズムで疾走する「Allegro」では、〈描く放物線ずっと煌めいていけるように テンポ速めて 最速で到達〉と、まさに音楽そのものを描いたポップソングを繰り広げていく。なお、先の「SOS」の歌詞に〈アレグロ背負って〉とあるが、タイトルでもある「Allegro」とは「SOS」のMVで星街すいせいが背負っていた武器から放たれるパワーのようなものなのかもしれない。続く「Rat A Tat」では、ソウルフルかつダンサブルなビートで〈音を止めないで〉と歌われている。コロナ禍で一時分断したフェスやクラブカルチャーの憂いを吹き飛ばすかのような、祈りにも近い言葉の強さを感じた。

 途中、オーケストレーションのチューニングのようなインストゥルメンタル「Tuning (interlude)」を挟み、「流星群」では淡いバラードをローファイなビート、キラキラした音像を雨のごとく鳴らしながらゆったりと聴かせてくれた。そして、ラストソングとなるのは先行配信された人気チューン「Highway」だ。本作のリズムは、名曲が持つ快楽ポイントの要素とシンクロする。たとえば、くるり「ばらの花」、山下達郎「ターナーの汽罐車」、ケツメイシ「トレイン」も、同様なリズムセンスでセンチメンタルかつメロディアスな展開を生み出していた。「Highway」は、Midnight Grand Orchestraの記念すべき1作目に収められた傑作として今後も語り継がれることになるだろう。

Midnight Grand Orchestra『Highway』Music Video

 Midnight Grand Orchestraによる1stミニアルバム『Overture』は、リズムと音の博覧会=EXPOのような作品だ。ビジュアライズされたSF的センスとダンスミュージックを掛け合わせ、TAKU INOUEと星街すいせいが幼少期に夢見た世界の現実化。令和の時代ならではの、最新ポップミュージックが繰り広げられていく。

 思えばネット発カルチャーが加速して10年。CDからストリーミングへの移行など、音楽シーンは大きな変化を迎えることとなった。そしていま注目すべきはシンガーとして才能を発揮しはじめたVTuberと従来の枠組みにとらわれない音楽世界を拡張するサウンドプロデューサーによるクリエイティブな増幅力だ。

 Midnight Grand Orchestraの次なる展開は、8月20日19時から開催される初のバーチャルライブ『Overture』。もともとテクノロジーに長けた次世代サウンドプロデューサーであるTAKU INOUE、そしてVRカルチャーの最前線にいる星街すいせいによるライブは、まさに現在進行形で進化するサイバーパンクの最新型。ある種、先人であるDaft Punkがたどり着けなかった近未来へと誘ってくれるのではないかとワクワクしてしまう。

 Midnight Grand Orchestraによるアクションは、世界の音楽シーンをチェンジするターニングポイントとなるかもしれない。2022年のポップミュージックを語る上では欠かせない事件である。

Midnight Grand Orchestra 1st LIVE『Overture』Teaser

■リリース情報
1stミニアルバム『Overture』
2022年7月27日(水)リリース
特設サイトはこちら

完全生産限定盤(hmng Ver.)
CD / Tシャツ付(illustration: hmng)
¥5,500(税込)

完全生産限定盤(にゃもふぇVer.)
CD / Tシャツ付(illustration: にゃもふぇ)
¥5,500(税込)

通常盤 CD
¥1,980(税込)

<収録楽曲>
01. Never Ending Midnights
02. SOS
03. Allegro
04. Rat A Tat
05. Tuning (Interlude)
06. 流星群
07. Highway

■関連リンク
Twitter
Instagram
YouTube
VIA/TOY’S FACTORY

■ライブ情報
Midnight Grand Orchestra 1st LIVE『Overture』
2022年8月20日(土)
OPEN 18:30 / START 19:00 (END19:45)
チケット:¥4,500(税込)
会場:Midnight Grand Orchestra Special Stage

チケット販売期間:2022年7月13日(水)19:00~9月9日(金)23:00
アーカイブ視聴期間:2022年9月9日(金)23:59まで
イベントページ

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる