陰陽座が貫いてきた覚悟と信念 瞬火、20年以上に渡り追求するヘヴィメタルの可能性

陰陽座が貫いてきた覚悟と信念

“心臓讃歌”で迎えるエンディングに込めたポジティブな思い

ーー今作はインストナンバーの「霓」から始まりますが、こうしてインストからスタートするアルバムというのも久しぶりです。

瞬火:今回は黒猫がやっと歌えるようになったということもあり、実質的な1曲目である「龍葬」という曲でまず黒猫の声を届けたかった。そこに対してのイントロダクションが必要だなと思ったので、黒猫が再び歌えるようになって陰陽座がまた一歩踏み出せたという、そこに至るまでの時間や気持ちをこの「霓」というインストに込めて、そこから「龍葬」で今まで以上の陰陽座が始まるという構成にしたかったんです。

ーーその「龍葬」といい「鳳凰の柩」といい、黒猫さんの歌声をしっかり届けようという思いが強く伝わってくる仕上がりです。

瞬火:もともとこのアルバムには陰陽座そのものを見せるという意味も含まれていますし、僕個人の中では男女ツインボーカルのバンドというポイントよりも、黒猫の歌声のほうが大きいので。それでなくても今回は、その黒猫が一度歌えなくなったけど戻ってきたというタイミングでもあるので、やはりそのアルバムの幕開けはしばらく歌えなかった黒猫がより強力になって帰ってきたということを、自然な形で表したかったんです。

ーーそういうエモーショナルな2曲があるからこそ、「大いなる闊歩」や「茨木童子」のように黒猫さんと瞬火さんのツインボーカルを活かした曲がより映えるという。

瞬火:あとは“それだけ”ではない陰陽座を見せていくってことで、言ってみればとてもスムーズな流れを作れたんじゃないかと思います。

ーーその「茨木童子」ですが、瞬火さんは「アルバムタイトルがまとうイメージを文字通り体現している」というコメントを出されていました。それもあって、この曲をリード曲に選んだのでしょうか?

瞬火:制作しているときには「先行配信をこれにしよう」という前提のもとでは作っていないので、曲をどんどん作って出揃ってみて、この『龍凰童子』というアルバムのリードトラックとしてどれか1曲と言われたときに、本当にどれが来てもいいとは思ったんです。でも楽曲のインパクト然り、黒猫のボーカルが冴え渡るっていうところも然り、そして楽曲のタイトル的にも一番しっくりきたというか。インパクトもありながら、復帰や再起を告げるに足るパンチや勢いがあり、それだけに終わらず陰陽座でしか成し得ないものがある。この曲を聴いたファンの皆さんからも、そういった声をいただいています。本当に喜んでもらえてよかったなって気持ちですし、この「茨木童子」で『龍凰童子』の15分の1を垣間見ていただくことで、否が応でも『龍凰童子』というアルバムに対する期待も大きくなるんじゃないかなと期待しています。

「茨木童子」(MV)

ーーまた、本作には忍法帖シリーズの最新作となる「月華忍法帖」も用意されています。

瞬火:忍法帖の番外編と言える、曲名に忍法帖とはついていない曲で初めて登場したとある無敵のくノ一のストーリーがあるんです。最初に登場したのは「卍(まんじ)」という(2005年4月発売のシングル『甲賀忍法帖』の)カップリング曲で、そのストーリーを僕がとても気に入っていて。どんどん展開させて膨らませていくうちに、そのストーリーをきっちりと完結させたいっていう気持ちが強くなったので、終わる一歩手前の大詰めにあたるのがこの「月華忍法帖」です。

 ストーリー的にはこの「月華忍法帖」からとある過去の忍法帖の曲に飛び、そこから戻ってきて今回のアルバムの終盤の曲「静心なく花の散るらむ」へとつながっていく。その曲で終わるのかというと、実はこのあともう一回過去の忍法帖の曲に戻ることが、楽曲の中に示唆されているんです。どの曲につながるか、言わなかったらわからない場合もあると思いますけど、つながるべき曲のリフやイントロのコードなど、ちゃんと音楽的にもつながっているので、過去のその曲のことを知っている人であれば「あれにつながるんだな」とわかる親切設計にはなっています。

 これで無敵くノ一のストーリーは完結。「月華忍法帖」と「静心なく花の散るらむ」は僕がご執心だったキャラクターの最後の戦いを描いているので、とても感慨深いものがあります。しかも、ひとつのアルバムに2つそれに関する曲を入れて完結させられた。今回はたくさん曲を入れられる余地があったのも理由ですが、いつまでもアルバムを作れるという保証はもうどこにもないと、いろんな意味で痛感させられたのも大きかったですね。

ーー個人的に本作のハイライトだと思っているのが、11分超の大作「白峯」です。

瞬火:おそらくこういった大作主義的な長尺曲というのは、ヘヴィメタルの世界にも多いですし、プログレッシブロックにまで手を伸ばせばそれの嵐なわけですけど、主にロックで10分を超えるような曲というのは、インストゥルメンタルの掛け合いとかバトルとかで、結果尺が長くなっているようなものが多いと思うんです。その楽器の、たっぷり尺を使った演奏が聴きたい人にとってはもちろんそれが良い形だと思うんですけど、陰陽座の場合は長い曲をひとつ作ってやろうなんていう気持ちで作っているわけではなく、必要なストーリーを歌った結果この長さになっているわけなんです。もちろん、イントロや間奏があったりはするんですけど、それで何分かずっと演奏が続くようなことがまずないんですよ。ずっと何かしらの歌を聴いていることになるので、フォーカスするところが外れないから、終わってみれば11分だったのかっていうだけで、途中で長いと感じることはあまりないと思います。

ーー本当におっしゃる通り、いろんな展開を持つ歌を聴き続けているという感覚ですものね。インタビューの序盤に「こういうジャンルを続けることに対する覚悟」といった話もありましたが、20周年を経たこのタイミングのアルバムに「覚悟」や「心悸(ときめき)」というタイトルの曲が存在することに、個人的には感慨深さを覚えました。

瞬火:「覚悟」という曲は文字通り、陰陽座というバンドが常に心がけていることが歌われていて。それはバンドをやる上でも言えますし、生きる上でも言えることですが、とにかく覚悟をして臨まないといけないということ。「まあなんとかなるでしょう」っていうことでは人生すら歩めませんし、ましてバンドだって20年続くことはないでしょうし。ですから、僕たちが普段から当たり前のこととして心に持っている、その覚悟についてただ歌っているというだけなんです。

 「心悸」に関しては、端的に言うと生きる喜びについての曲です。生きるといっても、なんとなくふわっとした生と死っていうことじゃなくて、少なくともフィジカルに生きていることを実感する上で、心臓が動いているかどうかがまず大前提ですよね。心臓が動いていることが生きているということであり、その心臓という器官も何事もなければ生まれてから大体80年前後生きる間、特に大したメンテナンスがなくてもずっと動き続けて、片時も止まることなく血液をポンプし続ける。質実剛健なこの器官があるから生きているんだということを意識すると、この心臓がものすごくありがたい存在であり、よく黙って動き続けてくれているなと実感するわけです。これはその心臓讃歌であり、心臓がここ(胸)にあって動いていることはなんて喜ばしいんだろうということを歌っています。

ーーこのハッピーな感じでエンディングを迎えるからこそ、本作はより強く胸に響くのかなと、今のお話を聴いて感じました。

瞬火:陰陽座には悲しい曲や恐ろしい曲、楽しい曲といろいろありますけど、やっぱりアルバムもライブもすっきりしない終わり方だけは避けたくて。もちろんそういう表現を否定しているわけではなくて、僕たちはやっぱり最後は楽しくありたい、それだけなんです。歌っていることはそこはかとなく切ないことが含まれていたとしても、できるだけ楽しく終わりたい。「心悸」に関しても、本当に心臓が動いているからうれしいわけですが、それはつまり逆を言えば止まったら悲しいわけで。止まらない保証なんかないですし、全員の心臓はいつか止まる。その、いつ止まってもおかしくないものが動いている喜びを、少なくともこれを聴いてくれる方と作った自分とで共有できている。そこはもう喜びであり楽しいことですよね。そういうポジティブな思いが、このエンディングには込められています。

ーーこれだけボリューミーで、かつ充実したアルバムを完成させると、次は楽曲をライブで披露することが求められるのかなと。ライブにおける環境も以前よりも緩和され始めていますが、陰陽座としてはどう考えていますか?

瞬火:少なくとも、このアルバムを完成させることができたという既成事実がひとつあるわけで、当然次の一歩というのはライブ活動の再開を意味する。黒猫自身もこのレコーディングを完遂できたことでひとつ手応えを得ているでしょうし、僕ももちろん同様です。とにかくライブという場に戻れる日を、自分たちも楽しみにしています。

陰陽座『龍凰童子』
陰陽座『龍凰童子』

■リリース情報
『龍凰童子』
発売:2023年1月18日(水)
価格:¥3,300(税込)
【初回限定特典】
特製スリーブケース
カラー・フォトブックレット
CDはこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICS-4092/
配信はこちら
https://king-records.lnk.to/ryuoudouzi

■ライブ情報
『陰陽座特別公演2023『捲土重来』』
4月14日(金)TOKYO DOME CITY HALL(東京)
4月20日(木)Zepp Namba(大阪)
4月26日(水)Zepp Nagoya(名古屋)

オフィシャルサイト
https://www.onmyo-za.net/index.html

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