アーティストやファンの“自由意志”が生み出す新時代 音楽業界の課題に一石投じる「FRIENDSHIP. DAO」の意欲的な取り組み
HIP LAND MUSICが展開するデジタルディストリビューションサービス・FRIENDSHIP.が、新プロジェクト「FRIENDSHIP. DAO」を10月31日よりスタートした。
FRIENDSHIP.は、様々なカルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽を世界187カ国に向けてデジタル配信、アーティストの音楽活動をサポートするサービスとして2019年にスタート。「FRIENDSHIP. DAO」では、これまで培われたFRIENDSHIP.のネットワークを拡張し、さらなる音楽シーンの発展を目指す新プロジェクトとなる。
次世代インターネットの形として、あらゆる分野で注目を集める“WEB3”。その概念のベースとなる“DAO”(分散型自律組織)の仕組みをFRIENDSHIP. に応用したのが「FRIENDSHIP. DAO」だ。同サービスでは、参加者が独自のネットーワークを構築、ブロックチェーンとNFTによって個々人の活動や実績を透明化し、自由意思のもとで相互的なやりとりを実現。アーティスト/クリエイターによるコラボはもちろん、音源制作に関わるスタジオやエンジニア、グローバルで活動するプロモーターなど、ありとあらゆる分野のスタッフも参加することで参加者は全方位に新しい人脈を開拓することが可能となる。さらに、これまでデータ化されていなかった“ファンの熱量”まで可視化できる未来も訪れるという。
リアルサウンドでは、ヒップランドミュージック執行役員・山崎和人、FRIENDSHIP. DAOの開発に携わる武田信幸(LITE)と Fracton Ventures 赤澤直樹、レコード会社や広告代理店を経て音楽マーケティングに精通する宮本浩志、WEB3リサーチャーとして活動するコムギの座談会を企画。音楽業界全般に共通する課題をはじめ、“WEB3”到来と共にレコード会社が取るべきアクション、そして「FRIENDSHIP. DAO」が切り開く新しい時代について話を聞いた。(編集部)
「FRIENDSHIP.」と「DAO」に共通するコミュニケーションのあり方
ーー「FRIENDSHIP.DAO」設立に至った経緯を教えてください。
山崎和人(以下、山崎):2020年くらいから音楽業界の間でもNFT(Non-Fungible Token/非代替性トークン)というワードをよく聞くようになったのですが、その分野に関して我々もあまり知見がなかったこともあり、まずはNFTがどのようなテクノロジーなのかを勉強するところから始めました。その時にブロックチェーンの仕組みを組織に応用したDAO(Decentralized Autonomous Organization/分散型自律組織)というシステムが海外で話題になっているという話を聞いて、その考え方が我々が運営している「FRIENDSHIP.」とも相性が良いのではないかと思い立ったことが、「FRIENDSHIP.DAO」の設立に至った最初のきっかけでした。
ーー「FRIENDSHIP.」と「DAO」にどんな類似性を見出したのですか?
山崎:「FRIENDSHIP.」はデジタルディストリビューションサービスとレーベルの中間をいくようなシステムにしたいと考えて、2019年に立ち上げました。そこから3年経った現在、どんどん主体的な動きをするアーティストが「FRIENDSHIP.」の中に増えてきたことで、当初考えていた「アーティストのバックアップを行うサービス」というよりも、参加者と我々が連動しながらプロジェクトを進めていく、コミュニティ的な動き方をする機会が増えていったんです。そういった「FRIENDSHIP.」の在り方が、「DAO」のコミュニケーションのとり方と近いものがあると思いました。
ーーなるほど。では具体的に「FRIENDSHIP.DAO」では、どのようなサービスを提供しようと考えているのですか?
山崎:音楽サブスクリプションサービスを例に挙げると、サブスク内で作者のクレジットを確認しようとすると、作詞・作曲者までは確認できますが、レコーディングエンジニアやプロデューサー、レコーディングスタジオ、アートワークの作者などを知ることはできません。CD全盛期の時代には当たり前のように確認できていた情報が、抜け落ちてしまいがちだと感じていて。以前のようにCDを買って、そこに記載されている場所やクリエイターに連絡するみたいなコミュニケーションも減っているように思うんです。「FRIENDSHIP.」からリリースされることによって、そういったクレジット情報が自動的に開示されるような仕組みを作れたら便利なのではないかと考えたんです。
ーー制作に関わった人や場所を可視化するということですね。
山崎:そうですね。まずは「FRIENDSHIP.」からリリースしている方々に「FRIENDSHIP.DAO」のコミュニティに入っていただいて、そこからクリエイターや演奏者など制作に関わった方々にもどんどん入ってもらえるような状況を確立したいと思っています。また、クリエイティブ方面に限らず、例えば国内アーティストの海外ツアーのブッキング、海外向けにプロモーションをしているスタッフにも入っていただくことで、よりグローバルな活動が円滑に行える仕組みができるのではないかと。
今も「FRIENDSHIP.」には様々なアーティストが紐づいているのですが、アーティスト同士、コミュニティの参加者同士が直接繋がれるような場所を作っていきたいと思っているんです。実際、「あのアートワークを作っている人は誰ですか?」「フィーチャリングゲストとしてあのアーティストに声をかけたい」みたいな問い合わせや、海外のエージェントからアーティストを紹介してほしいと連絡をいただくことも多くて。「FRIENDSHIP.」を介さずとも、アーティストやスタッフ同士がダイレクトに繋がれる場所を提供できれば、アーティストの活動の幅も広がっていくのではないかと思っています。
武田信幸(以下、武田):アーティスト視点で補足すると、作品をいかに広げていくか、多くの人に聴いてもらえるのかが重要で。自分達の力では狭い範囲にしか届けられなかったものを、「DAO」のコミュニティを活用することで最大化できるかもしれない、という可能性はすごく魅力的に感じます。例えば、「DAO」のコミュニティ内にいるインフルエンサーの人に「あなたのプレイリストに入れて欲しい」とお願いするとして、そこで対価が発生する際にも各国の通貨ではなく、「DAO」内で流通するトークンがあるとスムーズにことが運ぶと思っていて。逆に自分がリクエストに応じた時には、そのトークンを報酬として受け取り、それが貯まっていく。そういった現実に流通している通貨とは異なる価値や、「DAO」ならではのマネタイズ方法が今後生まれてくるのではないかと思います。
山崎:リアルなお金に代わる価値(=トークン)を整備していくことも目標ではあるのですが、もう少し先のお話にはなると考えています。武田さんがおっしゃるように、自分にはない人脈を広げられることが「DAO」最大の特徴だと思っていて、やっぱり選択肢があればあるほど、自分の思い描く作品に近づけられると思うんです。特にインディーズアーティストは、海外のプロデューサーにお願いするにしても、繋がりがないからメールを打って返事を待ち続けるみたいな状況もよくあって。「このプロデューサーはこういう作品を過去に作っている」みたいな実績を確認でき、かつスムーズに連絡を取れるコミュニティを作ることができれば、これまでにあったアーティスト/クリエイター同士の障壁を一つ二つは解消できると思っています。
赤澤直樹(以下、赤澤):これまでの仕組みでは、それがないと成立しないけど外側からは認識できていない、“見えない仕事”が多かったのかなと思っていて。そういった“見えない仕事”を、ブロックチェーンなどのテクノロジーを使ってピックアップし、それぞれの貢献の仕方を可視化することがポイントだと思っています。もちろん、なにをもって貢献とするかはスタッフやアーティストを交えて議論する必要がありますが。