アーティストやファンの“自由意志”が生み出す新時代 音楽業界の課題に一石投じる「FRIENDSHIP. DAO」の意欲的な取り組み

「FRIENDSHIP. DAO」が目指す未来

「FRIENDSHIP.DAO」で解決できる音楽業界の課題

FRIENDSHIP. DAO [INTRODUCTION]

ーー宮本さんとコムギさんは「FRIENDSHIP.DAO」について、どんな印象を持ちましたか?

宮本浩志(以下、宮本):作品制作に関わる人はもちろん、サブスクで削ぎ落とされてしまう大切な情報やプロモーションに関わる全ての要素を可視化することで、参加者間のコミュニケーションを活発化させるという狙いはすごく良いなと思います。実際、私も海外に向けたプロモーションで悩んだ経験もありますし、どうしても慣れ親しんだクリエイターの方に依頼が集中してしまうケースもありました。でも、今ご説明いただいたような参加者や海外のスタッフと直接繋がれる場所ができると、アーティスト同士がコラボレーションするチャンスも最大化されるように思います。また、こういったシステムが構築されることで、よく分からない人が間に入ってクリエイティブが阻害されることも減るんじゃないかなと。本来であればめちゃくちゃ調べなければいけないところを、可視化してくれるのが「FRIENDSHIP.DAO」の新しさだと思いましたし、シンプルに面白い取り組みだなと感じています。

コムギ:私もすごくWEB3らしい取り組みだなと思いました。クレジット問題の件は、クリプト(暗号資産)やWEB3の背景にあるブロックチェーンが一番得意としているところです。例えば、サプライチェーンでコーヒー豆の産地や生産者を記録するようなことが、産地偽装や嘘のない信頼できる情報になり付加価値につながるわけですよね。“この人がこれをやった”という証明そのものが価値になるような世界が今後広がっていくと考えると、「FRIENDSHIP.DAO」が目指している方向性にも納得がいきました。

 あと、山崎さんがおっしゃっていたように、グローバルマーケットに直接アクセスできることも重要で。WEB3は国境を越えやすいところが1つ大きな特徴になっていて、それを踏まえた上で「FRIENDSHIP.DAO」が海外を見据える動きをしていることは素晴らしいですし、DAOの正しい使い方のひとつだと思いました。日本市場だけを見ているのであれば、WEB3である理由はないのかなとも思いますし。TikTokをはじめ、昨今のグローバルにおけるエンターテインメントコンテンツは言語を超えてくることが主流になっています。そういう意味でも音楽は言語を超える可能性を持つジャンルだと思うので、今後「FRIENDSHIP.DAO」がどのように発展していくかは非常に興味深いです。

ーー現時点で「FRIENDSHIP.DAO」を発展、広めていく上で課題だと感じている部分はどんなところですか?

武田:このプロジェクトがスタートしてから中間地点のタイミングで、周りの関係者に「FRIENDSHIP.DAO」について説明する機会を設けたことがあったんです。そこでシステムを言語化して伝えること、理解してもらうことの難しさを痛感しました。「DAO」や「仮想通貨」の概念がそもそも分からなかったり、具体的な話をする前にフワッと終わってしまうことがほとんどで……そういった経験を通して当時思ったのは、このサービスをいきなり紹介しても参加してもらうにはハードルがあるということ。ただ今はプロダクトができつつある状況なので、「FRIENDSHIP.DAO」のWEBサイトや使い方のガイダンス動画を作ってみようとか、まずは音楽に関わる方であれば誰でも理解できるような、よりわかりやすい形で広めていきたいです。

山崎:出てくる用語の難しさは確かにありますね。サブスクにしても「ストリーミングとは何か」を考えながら利用している方はほとんどいないと思いますし、TikTokなども感覚的に利用している方が大多数だと思うんです。DAOも、「DAO」という言葉がついている間はあまり広まらないのではないかと思うところもあって、実際に生活の中で利便性を感じたり、自分のプラスになると体感してから初めて、積極的に人が参加するのではないかと。どうすれば、そういう状態に持っていくことができるのかを日々考えています。

赤澤:お二人がおっしゃる通り、参加者のサポートは非常に大切だと思っています。我々のように普段から利用している人間であればイメージしやすいのですが、初見の方に理解してもらうにはハードルが高い。僕らとしては、ユーザーが直接関わる部分は丁寧にお伝えすべきだと思う一方で、知らなくてもよい情報、例えば技術的な部分などの話はなるべく意識させないような工夫が必要だと思っています。できる限りユーザーに“難しい”という感覚を持たせない。それは今だけに限らず、ずっと付き合っていかなければならない課題だと思いますね。

コムギ:WEB3に対する課題がたくさんある中で、「FRIENDSHIP.DAO」というものを立ち上げて、実際に運用していること自体に意味があると思うんです。今後のWEB3において、技術以外の部分で必須になってくる能力の一つとしてコミュニティの運営スキルが挙げられます。これからアーティストとファンがより直接的に繋がる機会が増えたとき、そのコミュニティ内でやりとりを収める、モデレーター的なスキルが重要になっていきます。すでにそれを実践しているみなさんには、大きな先行者優位があるなと。WEB3の特徴は、作り手と受け手の境界線が溶け合い、外なのか内なのかわからない状態が出来上がるところにあって。先ほど挙がった課題もユーザビリティや技術的な課題はもちろんありますが、DAOは突き詰めればコミュニティをどう回していくか、ということなんですよね。どう運営したらよくなるのかを意識して、結果が出ないからと潰すのではなく、根気強く経験を重ねていくことが大事なのかなと思います。

宮本:音楽的な側面で言うと、業界の鎖国体質は課題の一つとしてあるかなと思います。日本は音楽業界内で全てが完結してしまう、他業界との連携が薄いことで、音楽と相性の良い新しいテクノロジーがあったとしても、あまり知られていないみたいな状況もある。あと、デジタル偏重になりすぎてしまうところもあって。WEB2、3と技術は色々ありますが、「To be~」ではなく、方法論で考えがちというか。UX視点で考えた時にどのテクノロジーを使うのが最適なのか、その選び方は改めて考える必要があるのかなと。

 あと、『オタク経済圏創世記 GAFAの次は2.5次元コミュニティが世界の主役になる件』を刊行した中山淳雄さんが、キャラクターと貨幣の類似性、流通量の重要性について言及されているのですが、その観点でいうと日本の音楽は海外で流通しにくい側面があると感じていて。海外でのバイラルヒットも、それは動画プラットフォームのコンテンツやアニメを通して人と人の間で流通したからこそ、そのような現象が生まれるわけで。この流通を行うこと自体はWEB2の得意分野ですが、WEB3は流通を生み出したり、流通された後のフォローが得意だったりするので、「FRIENDSHIP.DAO」で流通の幅を広げる動きがあった結果、WEB2における流通量も増えるという流れにチャンスがあるのではないかと思いますね。

山崎:少し違った角度にはなるのですが、日本からグローバルヒットが出にくいのは、言語の壁という部分が大きいと感じていて。それは、歌詞の話ではなく、こういったテクノロジー分野の話題にしても海外から情報が入ってくるまでに遅れがあると感じていて。日本人の保守的な体質も関係していると思いますが、最新の情報が100あったとしても、そこから抜粋されたいくつかの記事が翻訳されて入ってきて、それをもって我々のようなレーベルやアーティストが動き出すパターンが多い。そのタイムラグが、海外と日本の差になっているのではないかと感じます。

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