Survive Said The Prophet、苦難と向き合う過程が新たな物語へ コロナ禍での“ネガティブな感情表現の変化”も明かす

サバプロ、ネガティブな感情表現の変化

 Survive Said The Prophetが、6枚目のフルアルバム『Hateful Failures』を完成させた。前作『Inside Your Head』を2020年1月にリリースした直後、全世界がコロナ禍に突入。それ以降はツアーの中止やメンバーの脱退まで経験し、ロックバンドとして苦汁をなめるような日々を過ごしたこともあっただろう。そうした出来事は『Hateful Failures』の歌詞に確かに落とし込まれているが、持ち前のスケール感とキャッチーなメロディがサウンドを彩っており、様々なタームを経ながらもバンドが前進する意志を強く感じられる作品になっている。前作以降の2年半、そして『Hateful Failures』制作における想いの移ろいについて、Yosh(Vo)、Tatsuya(Gt)、Ivan(Gt)、Show(Dr)に語ってもらった。(編集部)

Hateful Failures | Official Trailer / Survive Said The Prophet

もがき続けたコロナ禍で“新たなきっかけ”を手にするまで

ーーSurvive Said The Prophet(以下、サバプロ)にとって決定打となるようなアルバムだった前作『Inside Your Head』を発表した矢先、世の中の状況がガラッと変わってしまい、バンドにも大きな変化を及ぼしたと思います。

Show:それまでかなりライブの本数をやっていたから、苦しいとかつらいとかももちろんあるんですけど、もっと言えばそういうことを考えられないくらい、麻痺していたような。時間が急に空いたことによって、いい部分でも悪い部分でも考える機会が増えたことによる結果が今、こういう形になっていると思うんです。

Tatsuya:10年近くずっと走り続けていたので、それまではみんな冷静に考える暇が本当になかった。だから、急にブレーキがかかると時間がこんなに余るんだというくらいスケジュールが空いてしまって。ツアー(『Inside Your Head Tour』)も前半3本ぐらいしかできなくて、そのアルバムの存在すら自分たちの中で消えてしまうんじゃないかというぐらい、人前に出せていなかった。そこから疑心暗鬼になってメンバーがギスギスすることもあったけど、そこから出てきたひとつの答えみたいなものにすがって、手繰り寄せることをしていましたね、そのときは。

Yosh:まあ忙しいときっていい意味でも悪い意味でも、達成感を求めるためにそうなってるだけであって、その達成感をクリアして満足してしまうというトラップにハマっていたのかなと、今振り返ると思っていて。僕はコロナの期間を三部作の作品みたいに捉えていて、第一部は2人が言ったように何がどうなっているのかわからなかった時間であり、そのあとにヘヴィな課題が生じる。それを第二部でみんなで話し合い、第三部でそこからコンティニューしようという道を選ぶ。全部通った上で言えるのは、それがなかったら、今こうして僕ら4人で向き合えなかったなとすごく思っています。以前はサクセスのためにいろいろ目を瞑ることだったり、聞かないふりをしたりすることもたくさんあったと思うんです。だけどそうじゃなくて、「向き合ってコンティニューするからには、もっとドープなところに行こうぜ」っていうタイミングだったのかなと。

ーー忙しいと、見て見ぬふりをしてしまいがちになることは多いかもしれませんし。

Tatsuya:うちらはそういうことが、余計に多かったと思うんです。

Show:その分、痺れて動けなかった時間もあった。麻痺して身動きが取れず、そのまま固まっちゃってるという。何か行動したいけど歯車が合わなさすぎて、誰も行動を起こそうと言えない時期は、最初の頃すごくありました。

Ivan:そういう意味では、自分らにとって何が大事かということを考え直すきっかけになった時期でしたね。

ーーそこを経ての2021年は結成10周年の節目にあたり、リテイクベストアルバム『To Redefine / To Be Defined 』のリリースに加え、久しぶりにライブツアーも実現しました。

Yosh:先ほど言った三部作の真ん中になりますが、一番つらい時期でしたね。言える力もあるんだけど言ったことによって傷つくこともあれば、言わないことによって傷つくこともあるっていう。

Tatsuya:メンバーの脱退もありましたし、この4人ですらきちんと会話していない時期もあったくらい、メンバーの中でも固まり切っていなかったタイミングだったと思います。うまく歩幅が揃っていないし、どこに向かっているのかもわからない、もがいている最中。一番泥沼にハマっていた時期という印象もありますけど、一歩踏み出せるきっかけはそこで手にして、その次につながっていく感じもあったのかな。

ーーそして2022年に入ると、2月にシングル『Papersky|Win / Lose』が発売。僕はこのシングルを聴いたときに、バンドとしてひとつステップアップした印象を受けたんです。この時期はYoshさんが言うところの三部作の第三部に入ったタイミングだったんでしょうか?

Yosh

Yosh:このときは二部の終わりかけぐらい?

Tatsuya:三部に向けて一歩目を踏み出した瞬間かな。

Ivan:けど、固まり始めた感はあったけどね。

Tatsuya:「こっちの方向でみんないいよね?」と確認できたタイミングかな。

Ivan:バンドの状態もそうだし、コロナも重なった上で、ちょっと先が見えてきたところにいた気がするよね。

Yosh:まあ、「できる」って信じられたかな。できるか、できないか、50%50%だったところから51%でもいいから「やる」っていう方に向いた瞬間ではあるかもしれないですね。

Show:ただ、消化しきれていない部分も多かったから、そういう意味で変化を感じ取ってもらえたのかもしれない。そこから今回のアルバムに続いていって、変化の途中の作品もアルバムに入ったことで、初めて成立するものになった気がします。

Ivan:ポジティブに感じていただけたなら、たぶん僕らは間違っていなかったのかな。

ーーシングルでの手応えが次のステップへつないでくれたと。

Yosh:そうですね。間違いなく止まるわけじゃないんだと認識できたことは、僕らにとって大きいステップであり、素晴らしいチェックポイントになったと思います。

Survive Said The Prophet - Papersky -

“Hateful”を掲げて表現したかったもの

ーーそこから今回のアルバム『Hateful Failures』へと続いていくわけですが、まずここで何を表現しよう、何を伝えようと考えましたか?

Yosh:「憎しみの過ち(=Hateful Failures)」が伝えたいテーマなんですけど、「過ち」っていう言葉が結構キーだったりするので、それを自分が理解をして、どう行動的に変えていくのかっていう変化が伝わったらいいのかなとは思いました。憎しみなんてこの世の中から消えることがないじゃないですか。僕的にはそれが伝わったらこのアルバムは大成功ですし、この2年間で溜まっていたものを全部出せたと思っています。

ーーその感覚ってリスナーに共感を求めるものなんでしょうか? それとも、何かを突き動かす衝動のようなもの?

Yosh:それは面白い質問ですね。オーディエンスが僕らをどう見ているのか。それって見ていてただ満足するのか、何か答えを探しているのか、生活の一部にしたいのかっていう、人それぞれの見方で答えは変わってくると思うんです。だけど、『Hateful Failures』の中でひとつはっきりと言えるのは、そこに誘導されたくないっていうこと。そういう意味ではコロナ以降の生活の中で正しかったこと、間違っていたことがここにすべて表現されているはずだと思っています。

ーーにしても「Hateful」はかなり強いワードですよね。

Yosh:はい。だけど「Hate」ではなく「Hateful」にすることによって、「憎しみのような」っていう意味になるんですよ。『Course Of Action』を作ったときからメンバーとの会話によく出てくるんですけど、憎しみには愛も含まれているということにちょっと触れてみたくて。だから、憎しみの反対って愛じゃなくて“無”なんですよね。オーディエンスがそこをどう見ているかによって、このストーリーは聞こえ方と歩み方が変わってくる。憎しみがない人間なんてただの嘘つきですし、共感できない人はいないと思っています。

Ivan

ーーだからこそ、「Hateful」や「Failures」といった強い言葉が並ぶタイトルを最初に知ったとき、どんな内容になるのかワクワクしていましたし、アートワークもまったく想像できなくて。実際、個人的にはこのタイトルと音からはかなり予想外の仕上がりでした。

Ivan:最初に「Hate」のシンボルをいろいろ調べたんですけど、「Hate」という気持ちを代表するものが見つからなくて。試行錯誤する中で割れているハートにたどり着いて、まずはそこからジャケット制作をスタートさせたんです。今回は割れているハートを起点に、1曲に対して1つずつアイコンを当てていく感じでした。そもそも「Hate」ってとても強いワードなので、そこともバランスを取る形で着地できたんじゃないかな。

Show:(ジャケット写真を見ながら)「Hate」から生まれた分岐のようにも感じるよね。例えば最初の行動の根源が「Hate」だったとして、そこからいろんなシチュエーションに変わっていくっていう表現。

Ivan:それこそ最初は全部割れたハートのマークにしようっていう話だったんですけど、曲を聴いていくとアルバム全部が「Hate」じゃなくて。「Hateful Failures Pt.1」から始まったそのストーリーが、最後には「Prayer」という未来に到達するわけで、そこで全部ハートにするとまた違うところにたどり着いちゃうんじゃないかなと思ったんです。

Tatsuya:何から「Hate」が始まるかというのもあるけど、だからこそいろんな見方、いろんな感じ方があるわけで、これが僕らが今できる表現の仕方なのかなと、アルバムを聴いて思うようになりました。

ーーだから、すべての要素が聴き手のイマジネーションをかき立てる、アートとして多面性の強い作品だと思いました。それこそ、一度聴き終えたあとに再び1曲目に戻ると、アルバムの印象が変わってくるのも不思議で。

Yosh:それ、ありますよね。アメリカでレコーディングを終えて、僕だけ後から帰国したんですけど、ひとりでアルバムを通して聴いたときに、最初は「Prayer」まで聴いて何か物足りなくて。それで、アルバムの頭のキーボードを追加したんです。それを追加したことで、リピートしたときに新しいストーリーが見えてきて。その感覚をほかの人にも感じてもらえたのは、正直嬉しいですね。

Tatsuya:それが加わったことでループするんだって気づいたし。

Yosh:しかもキーが違うのに、戻ると気持ちいいんだよね。

Mary | Official Music Video / Survive Said The Prophet

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