ここに彼の全てが詰まっているーー3rdアルバム『CHARLIE』の12曲で知る、等身大のチャーリー・プース
折り返し地点である7曲目「Loser」で、サウンドと歌詞のムードが変わる。より一層ディープでセクシーなベースラインとスウィートな歌唱の組み合わせは80年代のソウルを思わせつつ、サウンドの絞り込みからは現代的な響きも感じられる。歌詞はタイトル通り「僕は負け犬だ」という自己嫌悪や自責の念に駆られる内省的なものにシフトしている。次の「When You’re Sad I’m Sad」は本作唯一のピアノの弾き語り曲で、より一層深く内面に潜り込む。ピアノとボーカルという実力が剥き出しにならざるを得ない曲でも、長いファルセットを響かせる等、他の曲と並べて聴いても全く遜色ない出来となっている。続く「Marks On My Neck」では、一転して強めのキックとアップテンポな曲調で勢いを取り戻していく。前曲とペアになるタイトルの「Tears On My Piano」での「ピアノに僕の涙を託したよ」というラインは、その印象的なメロディも相まってよく耳に残るし、彼がいかに音楽に自分の思いを込めたかが伝わってくる。
そして本作は11曲目「I Don’t Think That I Like Her」でいよいよクライマックスを迎える。この曲は「ヴァース→コーラス→ヴァース」の繰り返しという非常に素直で典型的なポップソングの構成であるが、歌詞は捻くれている。「嫌い」でも「好きじゃない」でもなく「好きではないと思う」という感情の機微を、ライブで大合唱の巻き起こりそうなロックテイストの美しいメロディで、しかも最後に転調するというとびきり素直な構成で歌われてしまうと、率直に胸に刺さる。捻くれた素直さという、その曖昧さにチャーリーの「リアルさ」が滲み出ているのだ。
しかしこの曲で大団円を迎えるのではなく、最後にミドルテンポのスウィートなR&B路線の「No More Drama」でアルバムを締めくくってしまう点で、さらにもう一捻り効いている。この曲で提示される「僕の人生にはもうドラマは要らない」というフックは、これほどまでに自らをさらけ出したチャーリーが辿り着いた現時点での結論だ。そして、それでさえ強がりと受け取れなくもないところに本作の凄みがあるのではないか。
「Light Switch」のMVでは、ダイエットや髪形を整えることで見た目を良くして恋人を取り戻そうと奮闘するストーリーが描かれている。その動画コメント欄で、チャーリーはこんなメッセージを書いていた。
「片思いの相手を振り向かせるために自分自身を変えようと努力することがあるけど、本来は人生を変えるのは他の誰かじゃなくて自分だけのためじゃなきゃならないってことをユーモラスに描きたかったんだ(※筆者訳)」
ここに彼の魅力が詰まっている。素直でユーモアを大事にする姿勢は、今回のアルバムやTikTokでのファンとの交流にも通底しているものだ。何よりもまず音楽家としての技術を磨き、心を整え、自分を見つめ直し、ようやく獲得した「自分自身の声」で表現された作品に彼は自らの名を冠した。ユーモラスで親しみがあり、とても素直でちょっぴり情けなくもある彼の新章の幕開けとして、『CHARLIE』はそのディスコグラフィに刻まれることになるだろう。
■リリース情報
チャーリー・プース『CHARLIE』
2022年10月7日(金)リリース
2,860円(税込)
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<トラックリスト>
1.That’s Hilarious / ザッツ・ヒラリアス
2. Charlie Be Quiet ! / チャーリー・ビー・クワイエット!
3. Light Switch / ライト・スイッチ
4. There’s A First Time For Everything / ゼアズ・ア・ファースト・タイム・フォー・エヴリシング
5. Smells Like Me / スメルズ・ライク・ミー
6. Left and Right feat. Jung Kook of BTS / レフト・アンド・ライト(フィーチャリング・ジョングク・オブ・BTS)
7. Loser / ルーザー
8. When You’re Sad I'm Sad / ウェン・ユーアー・サッド・アイム・サッド
9. Marks On My Neck / マークス・オン・マイ・ネック
10. Tears On My Piano / ティアーズ・オン・マイ・ピアノ
11. I Don’t Think That I Like Her / アイ・ドント・シンク・ザット・アイ・ライク・ハー
12. No More Drama / ノー・モア・ドラマ
13. Light Switch (Acoustic) / ライト・スイッチ(アコースティック)※日本盤CDボーナストラック