チャーリー・プース、連続リリースで新たなモードに突入 繊細さや深みが引き立てる魅力
2018年5月にリリースした2ndアルバム『ヴォイスノーツ』が、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、オーストラリア、そして日本をはじめとするアジア各国でも大ヒット。グラミー賞にもノミネートされるなど、世界のポップシーンを象徴するアーティストの一人となったチャーリー・プースが、今年8月に発表された「アイ・ウォーンド・マイセルフ」を皮切りに、次々と新曲をドロップしている。坊主頭の新ビジュアルも話題を集めたが、特筆すべきはやはり、これらの新曲から感じられる彼の新たなモードだ。
新曲を紹介する前に、まずは『ヴォイスノーツ』以降の動きを簡単に振り返っておこう。1stアルバム『ナイン・トラック・マインド』(2016年)から約2年ぶりのインターバルを経て届けられた『ヴォイスノーツ』は、70年代〜80年代〜90年代のソウル、R&B、ファンクなどを現代的なポップスに昇華した作品だった。ケラーニをフィーチャーしたR&Bナンバー「ダン・フォー・ミー」ではWham!へのリスペクトを濃密に感じさせ、ブルー・アイド・ソウル直系のポップチューン「スロウ・イット・ダウン」では、ダリル・ホール&ジョン・オーツの「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」を引用。また「イフ・ユー・リーヴ・ミー・ナウ」ではBoyz Ⅱ Menをフィーチャー、そして、「チェンジ」では、アメリカの代表的なシンガーソングライターであるジェイムス・テイラーとの共演が実現するなど、ルーツミュージックに根差したコラボレーションも話題に。アルバム『ヴォイスノーツ』によってチャーリーは、アーティストとしてのスタイルを確立したと言っていいだろう。
昨年11月には、初の単独来日公演も実現。エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)、幕張メッセイベントホール、追加公演の東京国際フォーラム ホールAでの公演がすべて即日ソールドアウトとなり、その人気ぶりを見せつけた。筆者も東京国際フォーラムで初めて彼のステージを観たが、演出に頼らず、シンプルに楽曲の良さを引き出すバンドサウンド、そして、セクシーかつダイナミックなボーカルはまさに圧巻。スマートフォンで写真を撮りまくる若いオーディエンスを魅了すると同時に、大人の音楽ファンを唸らせる深みも感じさせる、素晴らしいステージだった。
その後、数カ月のインターバルを取ったチャーリー・プースは、アルバム『ヴォイスノーツ』以降の新たなフェーズに突入しつつある。その最初のアクションが、8月からスタートした連続リリースというわけだ。
まず8月22日に発表された「アイ・ウォーンド・マイセルフ」は、ディープにしてしなやかなグルーヴを生み出すベースライン、そして、〈I warned myself That I shouldn't play with fire(自分を戒める/火遊びはだめだって)〉というフレーズから始まる。楽曲全体を通し、軸になっているのはベースとボーカル、そして、多重録音によるコーラス。リズムトラックの音数は最小限に抑えられ、あくまでも彼自身の声を前面に押し出すプロダクションが採用されている。ソウルミュージック、R&Bのエッセンスを濃密に含みながら、感情の発露をギリギリのところで抑え、洗練されたポップソングに導くセンスも抜群だ。率直にして大胆な歌詞も印象的。“僕”の心をもてあそんだ“君”には、ツアーで海外に行っている彼(恋人)がいて……というくだりには、つい色々な想像をかきたてられてしまう。