チャーリー・プース、ポップシーンでの葛藤と目覚ましい躍進 BTS JUNG KOOKとのコラボでも放つ無邪気さ
チャーリー・プースが、言わずとしれたBTSのメンバーとして知られるJUNG KOOKとタッグを組んだ新曲「Left and Right (feat. Jung Kook of BTS)」を6月24日にリリースした。すでにYouTube上で数千万回の再生回数を記録するほどの大きな話題となっている。もちろん、その熱狂の中心にいるのは今や世界的なポップアイコンとなったJUNG KOOKだろうが、もしかしたら、一部のポップリスナーはもう一つの名前にどこか親しみを感じたかもしれない。
本稿の主役である、1991年生まれ、アメリカ出身のチャーリー・プースは2009年からYouTubeを拠点に音楽活動を始め、アデル「Someone Like You」などのカバー楽曲を通してその人気を高めていった。やがて、作曲家/プロデューサーとしても、一人のアーティストとしても活動の幅を広げるようになっていったチャーリーだが、とある楽曲によって彼の人生は大きな変化を迎えることになる。
2015年、楽曲のプロデュースやソングライティングだけではなく、チャーリー自らゲストボーカルとしても参加したウィズ・カリファ「See You Again (feat. Charlie Puth)」がリリースされると、同楽曲は全米チャートで12度に渡る1位を達成し、当時のYouTube上におけるMV再生回数の記録を更新。日本を含む世界各国のチャートにも名を連ね、自身のキャリアどころかその年のポップシーンを代表するほどの世界的な大ヒット曲となったのである。この出来事によって一躍、世界的なポップアーティストの仲間入りを果たした彼は、以降もセレーナ・ゴメスと共演した「We Don't Talk Anymore (feat. Selena Gomez)」(2016年)や「Attention」(2017年)といった自身名義によるヒット曲を生み出し、プロデューサー/作曲家としてもLittle MixやMaroon 5といったトップアーティストの楽曲を手掛けるなど、その勢いを失うことなく、着実にキャリアを築いていったのだった。
しかし、そんな「成功したポップアーティスト」として認知される一方で、彼自身は人知れずキャリア最大の困難を迎えていた。2019年、彼は『Nine Track Mind』(2016年)、『Voicenotes』(2018年)に続く3作目のアルバムに向けて楽曲制作に取り組み、実際に複数のシングルをリリースするなど、新たなフェーズに向けての準備を進めていた。だが、ある時、それらの楽曲について、自分がクールな人間であることを演じていて、自分らしくないように感じ、もはや全く好きになれなくなってしまった彼は、なんとアルバム制作をまるごと白紙に戻してしまったのである。さらに、その直後に世界的なパンデミックが訪れたことにより、アーティストとしての先行きが全く不透明なものとなってしまったのだ(※1)。
だが、多くのアーティストがパンデミックという未曾有の事態を通して変化を迎えたように、彼もまたこの期間を「リセット」と前向きに捉え、改めて自らと向き合う時間としたのである。また、チャーリーには心強い味方がいた。実は以前から彼のファンだったという、伝説的ポップミュージシャンのエルトン・ジョンである。両者はパンデミックの時期にコラボレーション楽曲「After All」(エルトン・ジョン『The Lockdown Sessions』収録)を制作しているが、その制作に際して、エルトンはチャーリーに対して「君が2019年に発表した音楽は酷いものだ。君ならもっと上手くできるはずだ」と率直に語ったのである。内心では感じていたものの、初めて他者から、それも偉大なる先輩から指摘を受けたことで、チャーリーはさらに自らの判断に対する自信を深めることができたのだ(※2)。
この「リセット」が正しかったことは、2021年における彼の躍進が証明しているだろう。なんと言っても、ザ・キッド・ラロイとジャスティン・ビーバーによる、世界的大ヒットを記録した「STAY」にプロデューサー/ソングライティングで関わっているのだから。同楽曲にはカシミア・キャットやブレイク・スラトキンといった他のプロデューサーも関わっているが、あの印象的なイントロのメロディがチャーリーによるものだと知れば、彼の功績を否定することはできないだろう。