EXILE MAKIDAI連載「EXILE MUSIC HISTORY」第7回 T.Kuraが明かす、日本語R&Bの進化
TAKAHIROは完璧に再現することにこだわっていた
MAKIDAI:EXILE第二章の始まりである「EVOLUTION」はどうでした?
T.Kura:TAKAHIROが入った時だね。レコーディングの罠にハマってた。
MAKIDAI:「千本ノックみたいだった」と言っていたような(笑)。
T.Kura:今は笑い話にしているかもしれませんが、あの時は汗水垂らして頑張ってくれてましたよ。それまでそんな曲歌ったことないですから、しょうがないですよね。言われていることを理解するだけでも大変。それを文句ひとつ言わずにやるから「偉いな、こいつ」と。武道をやっていたからか、それが当たり前だと思ってやる。だから若いのに人間が出来てるなと感じました。
MAKIDAI:第二章のスタートということでプレッシャーもあったと思うんです。EXILEは結成から20周年を迎えたわけですけれど、ボーカル陣が過酷なトレーニングを乗り越えてくれたからこそ、今があるのだと思います。
T.Kura:第一章の楽曲をTAKAHIROが歌い直した3枚のベスト盤『EXILE CATCHY BEST』、『EXILE ENTERTAINMENT BEST』、『EXILE BALLAD BEST』も印象深いですね。みんなが知ってる曲を自分の声で録り直すなんて、普通の人なら耐えられない(笑)。アトランタのスタジオに2人が来てレコーディングしたんですけど、グループを継続するためにメンバーがチェンジすると、曲の魅力もまた生まれ変わることに気づきました。
特に覚えているのは「STAY」の歌い直し。SHUNちゃんが即興で歌っている早いパッセージがどうしてもできなくて、TAKAHIROが「SHUNさん、どうやってやってるんですか?」と電話して聞いてました(笑)。
MAKIDAI:あれは直伝スタイルだったんですね(笑)。
T.Kura:SHUNちゃんは「偶然できちゃった」と答えてましたが、あのテイクを録った時のことは僕も覚えていて、「今のよかった!」と言ったら「え、今のでいいんですか?」と彼自身も驚いていました。TAKAHIROはそれを再現しなきゃいけないけど、偶然できたものだからアドバイスしようがない。頑張ってましたけどね。別に同じことをやる必要もないのですが、コンセプトが「歌い直し」だからなのか、TAKAHIROは完璧に再現することにこだわってました。
MAKIDAI:相当に努力したんですね。そういえば当時、TAKAHIROが「Kuraさんにバス釣りに釣れて行ってもらった」と嬉しそうに話してました。すごく信頼関係があるんだなと感じたのを覚えています。
T.Kura:そうそう、彼も僕も釣りが好きでね。彼は上手くて、センスがあるので釣っちゃうんですよ(笑)。
EXILEのライブは遊園地みたいな感じ
T.Kura:アトランタに行ってから、ストリートで踊る人とか、普通のおばちゃんのちょっとした仕草でビートを感じる瞬間があったんです。黒人アーティストのライブに行っても、その人の生活の延長がライブになっている感じで、歌詞も日常を感じられるものでした。それはすごくかっこいいんだけれど、一方で表現に含まれる要素が少ないとも感じました。EXILEのライブを実際に観て感じたのは、特別な儀式になっているというか、非日常が感じられたことなんです。これにファンはハマるんだろうな、と思いました。ちょうどTAKAHIROが入った時に観ましたね。
MAKIDAI:2007年の「EXILE LIVE TOUR 2007 EXILE EVOLUTION」ですかね。
T.Kura:そうだと思います。柔らかいところがあって、盛り上げるところもある、激しいステージと演出もある。一回のライブの中に、違う要素がたくさん詰め込まれているんですよ。言ってみれば遊園地みたいな感じで、どこにフォーカスを当てても違う楽しみがあるんです。
MAKIDAI:嬉しいです。HIROさんはライブに臨むにあたって常々「どの席にいても楽しめるように」「手を振るだけでも、バイブスがしっかり飛ばすことが大事」と言っていました。
T.Kura:HIRO君は同い年ですが、ステージ演出とかMVも含めて「映像の人」だと思うんです。それが素晴らしいので、曲についても「それを実現するために必要なもの」という考えなんだと思います。だから、僕からすると「ステージにハマる楽曲を作れたら、EXILEは長く大事にしてくれる」という信頼があるんです。
それと、レコード大賞の時に「I Wish For You」のパフォーマンスをステージ横で観る機会があって、「こんなに全力で踊っているんだ」と驚きましたね(笑)。あれだけ一生懸命に踊って、やっとステージであの存在感を出せるんだなと。音楽も同じで、ハミ出すくらいの勢いでやって、ようやく人に伝わるんですよね。
MAKIDAI:J SOUL BROTHERS時代、はち切れるほどに踊っても映像で観ると伝わらなかったり、もっとエネルギーがほしいと感じることがあったんです。それで、とにかく全力で踊るようになっていったんですよね。
名曲「I Wish For You」誕生秘話
MAKIDAI:「I Wish For You」は本当に好きな曲で、いまだに車で聴きます。ツアーでも元気になる何かがある気がするんですよ。あの曲を作った時のことは覚えていますか?
T.Kura:もともと「次はキャッチーな曲がほしい」というオファーだったはずです。僕がキャッチーだなと思うものは、日本の感覚とズレているから不安でした。そこで、まず3日くらいポップな4~8小節1ループのコード進行だけずっと考えてましたね。やっといけそうなのが出来て、ドラムとかを入れてみたら「自分史上1番キャッチーな気がする」という予感がしてきた。さらにシンセも追加して、ATSUSHIとTAKAHIROの歌やダンサーのみんなをイメージしてました。
あとThe Dreamというアトランタのアーティストがいて、彼らの曲の合いの手に「HEY、OH!」というのがあったんですよ。ノーティ・バイ・ネイチャーが元祖ですけど、それをまたやっていて。恐ろしくキャッチーに聴こえたので「これ、みんなにやってもらおう」と決めました。さらに一緒に作ったmichicoが神懸かってて「こんな感じでどうかな」と歌ってくれたらあのサビが生まれたんですよ。思わず「めちゃくちゃよくね?」と。
MAKIDAI:当時、メンバーと曲の視聴会みたいなのをやっていて。「Kuraさんからヤバいの来ました」みたいな。イントロのサビ始まりでみんなピンと来てましたね。しかもスタジアムで披露だったので、EXILE史上一番多くの人の前で初披露だったんです。「HEY、OH!」もKuraさんの思惑通りに盛り上がりました。
T.Kura:ですよね。あとで映像見て「やってる!」と思いましたもん。
MAKIDAI:歌詞のメッセージも素敵ですし、音もキラキラしつつダンスもしっかりできて、色々な要素が詰まってたなと。
T.Kura:あとは、あれを作ったのはEDMが流行る前だったんですよ。サビの前のBセクションを、今だったらビルドアップ(音を下から上に上げていく・ドロップ前に施すEDMの手法)で演出するんですけど、そういう手法がなかったので、曲として展開させてサビにいっている。だから今聴くと「当時はこう考えてたんだな」と思いますね。
EDMの影響って大きくて、あれを経るとBセクションは1度違う世界に飛ばして戻ってくるみたいな印象にしなきゃいけない感じになったんです。ダンスミュージックは特に。だから「I Wish For You」を聴くと、同次元の世界でサビまで行っているなと。それが逆に今聴くと新鮮に聴こえます。
MAKIDAI:本当に名曲だと思います! では最後に、今後やりたいことなどがありましたら教えてください。
T.Kura:音楽を始めた時から、とにかく現役で「長く続けたい」と思ってたんです。売れた途端にすぐいなくなってしまう人も結構見てきましたから、大ヒット曲がなくても良いから、中ヒットとか小ヒットでコツコツ続けていきたいなと。音楽は自分にとって、体や精神に効く「良いこと」なんですよ。若い人と一緒に仕事すると刺激になって、勉強にもなりますからね。迷惑にならない程度に若い人とも繋がっていって、「いいね」と言ってもられるような音楽を作っていきたいですね。
MAKIDAI:もしも音楽がなかったら、僕らはライブと同じ運動量をこなすことはできないだろうなと思います。音楽なしのただの運動では、あれだけ長時間全力で突っ走ることは不可能です(笑)。でも、音楽の力があると、不思議なことにパワーが湧いてきて、最後までパフォーマンスすることができます。それはやっぱり、Kuraさんたちが楽曲に魂を入れてくれているからなんだと思います。本当にいつもありがとうございます。これからも素敵な楽曲を楽しみにしています。