大森靖子の音楽はよりスリリングな方向へ 『超自由字架ツアー 2022』の即興性に表れた貪欲な姿勢
大衆性と前衛性が即興とともにせめぎ合う。大森靖子は、自身の音楽をよりスリリングな方向へと変化させていた。
そう痛感させられたのが、2022年7月18日に東京キネマ倶楽部で初日公演を迎えた『大森靖子 超自由字架ツアー 2022』だった。大森靖子、sugarbeans、山之口理香子の3人が即興でライブを展開し、公式サイトにも「セットリストも1つと同じ公演はありません」と明記されているツアーだ。ここでは2部公演のうち、夜の第2部の模様をレポートする。
東京キネマ倶楽部のステージには、巨大なバックドロップが飾られていた。それは、大森靖子自身が描いたものだという。その絵画を背に、大森靖子が2本の脚で威風堂々とステージに立った。
大森靖子のアコースティックギター、sugarbeansのピアノによる「Rude」でライブは幕を開けた。「Rude」は、2021年に開催されたファン投票企画「大森靖子楽曲大賞2021」で1位を獲得した楽曲であり、いきなり出し惜しみがない。〈自殺なんてないのさ / 誰が君を殺した?〉という歌詞を歌った瞬間、大森靖子はギターの弦を下から上へと掻き鳴らした。
続いて、「TOBUTORI」と題された新曲へ。大森靖子はギターを置き、伴奏はsugarbeansのピアノのみ。踊るかのように歌い、楽曲には曲名通りに飛翔感があった。同じく新曲である「最後のTATTOO」には高揚感がある。
大森靖子が「腹減ったー!」と叫ぶと「さっちゃんのセクシーカレー」へ。彼女はステージ上を移動し、ファンに手を振りながら歌っていたが、よくあれほど動いて正確な音程で歌えるものだ。
ステージ上に大森靖子ひとりになると、今日が夫の誕生日であること、詳細を書くと差しさわりがありそうな息子の近況などを話し、峯田和伸との共作楽曲「Re: Re: Love」の弾き語りへ。そこへさらに「デートはやめよう」を挿入するという構造だった。そして、そこからノンストップで「音楽を捨てよ、そして音楽へ」と続いた。大森靖子の弾き語りの真骨頂だ。