BTS、世界的ポップアイコンになるまでの軌跡 アルバム『Proof』に見るサウンドの変遷

 BTSが9年間に及ぶ活動の足跡を収めたアンソロジーアルバム『Proof』をリリースした。デジタルでは全35曲、フィジカルでは3枚組・全48曲(!)に及ぶボリュームで、いまや押しも押されもせぬ世界的ポップアイコンとなったBTSの歴史を振り返る一作となっている。

 これまでの活動曲(リードシングル)を時系列に並べたディスク1は、シンプルなつくりながら彼らの歩みと飛躍が改めて感じられる。公式にはリリースのなかった初期の楽曲「Born Singer」からはじまり、世界的な人気を追い風にしつつ北米での成功を決定づけた直近の「Dynamite」~「Butter」、そして最新曲「Yet to Come (The Most Beautiful Moment)」にいたる19曲。聴いているだけで変化に満ちた濃密な軌跡がフラッシュバックする。というわけで、本稿では特にディスク1に焦点を絞って、そのサウンド面の変遷を振り返ってみる。

 ヒップホップをバックグラウンドに持つアイドルとして、アグレッシブなビートとラップを打ち出す初期の活動曲の力強いサウンドは、いまもなおわくわくするような勢いを感じさせる。J.Coleの「Born Sinner」をサンプリングした切なくもメロディアスなビートに未来への決意をにじませる「Born Singer」は、9年後のBTSの姿を重ねずにはいられない、胸をしめつけられるような感慨と高揚をもたらす。最良のオープニングトラックとしてその役割を果たしている。ウッドベースと高音のピアノのフレーズが不穏さを醸し出す「No More Dream」(『2 COOL 4 SKOOL』より)、あるいはラウドなギター&ドラムとラップラインの個性的なフロウの絡み合いが面白い「Boy In Luv」(『Skool Luv Affair』より)など、ヒップホップという軸を通したうえで多人数のボーイバンドとしての華やかさも備えたバランスが面白い。

Born Singer

 しかし、やはり「花様年華」シリーズ以降の音楽的な変化が世界への扉を本格的に開いたように思える。同時代に洗練されていったEDM(とりわけフューチャーベース)のダイナミックかつドラマチックな展開を我が物とした「I NEED YOU」(『花様年華 pt.1』より)では、サウンドのダイナミズム、そしてラップラインとボーカルラインがつくりだすドラマに思わず魅了される。連作を通じてより大きなスケールのコンセプトとストーリーを展開してゆくこれ以降のBTSにとって、こうしたサウンド面での変化はひとつの武器となったことだろう。

BTS (방탄소년단) 'I NEED U' Official MV (Original ver.)

 個人的な思い入れで言えば、やはり「DNA」(『LOVE YOURSELF 承 'Her'』より)の緩急に満ちためくるめく展開や、ラップもボーカルもふくめてビートへ溶け込んでいくようなエレクトロニックなサウンドが印象深い。聴いているだけでずぶずぶと楽曲の世界に没入していってしまう。

BTS (방탄소년단) 'DNA' Official MV

 ホールジーとのコラボ楽曲「Boy With Luv」や「ON」の収録されたアルバム『MAP OF THE SOUL : 7』は、アメリカのメディアへの露出も増え(ジミー・ファロンの『ザ・トゥナイト・ショー』でグランドセントラル駅を貸し切ったパフォーマンス映像を披露したのは今でも衝撃的に思い出される)、さらなるステップアップを予感させると共に、ひとつの区切りでもある一作だった。特に前者はメロディ志向のこのうえなくポップな楽曲だが、ポップのきらびやかさのなかにある種の成熟を封じ込めているところ(とりわけ、ボーカルのスタイルに)が興味深い。

BTS (방탄소년단) '작은 것들을 위한 시 (Boy With Luv) (feat. Halsey)' Official MV

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