カネヨリマサル、Conton Candy、リツカ……新進気鋭のガールズバンドが宿すロックの美学

 チャットモンチーが2000年代〜2010年代に残した功績は、ガールズバンドシーンに多大な影響を与えている。各メンバーの鋭い言語感覚から生まれる音楽に、えっちゃんこと橋本絵莉子のカリスマ性に惚れ込んだ少女たちは数知れない。今なおガールズバンドの代名詞的存在であり続けるSHISHAMOも、前身はチャットモンチーやGO!GO!7188らのコピーバンド。先人たちの魂を継承しながらも、自分たちの音楽性は決してブラさずに独自の進化を遂げてきた。

 チャットモンチーやSHISHAMOを源流とする血脈は、Hump Back、リーガルリリー、TETORAといった、いまやシーンを牽引するバンドたちに脈々と受け継がれている。本稿では、とりわけ注目度の高い気鋭ガールズバンドを3組紹介したい。

カネヨリマサル

 “金より勝るもの”とは一体何なのだろう。ふと考えた時、「そんなものいくらでもある」といった普遍的な回答が浮かぶと同時に、「“青春”って何ものにも変え難いよな」とも思った。青春の定義は曖昧で、始まる時期も終わる時期も人それぞれ。そんな青春に区切りをつけず「青春ロックを追い続ける」ことが、カネヨリマサルの誇るブレない音楽性なのである。

 ちとせみな(Vo/Gt)といしはらめい(Ba/Cho)が同じ高校の軽音部でチャットモンチーなどのコピーバンドをしていたことが原点の、カネヨリマサル。2018年にもりもとさな(Dr/Cho)が正式加入し、以降は現在の3ピース体制で大阪を拠点に活動を続けている。

 4月に配信リリースした「関係のない人」は、ちとせの少女感のあるピュアな歌声がよく映える。譜割りがトリッキーで、2番Aメロの〈毎日楽しそうに笑ったりしてる〉というフレーズは、間断なく言葉を繋げるように歌われる。語尾に疑問符を付けるような歌い方がされており、耳元で囁かれているようで、その“青春感"に思わずドキッとしてしまう。

カネヨリマサル【関係のない人】Lyric Video

 「ユースオブトゥエンティ」では〈東京タワー見るまで死ねないよ/メキシコ産の手元キラキラしてる〉という歌い出しが、第一フックとなっている。また随所でボソッとつぶやき想いを吐き捨てるような歌唱を挟み、情感をたっぷり伝えてくる。まず土台として記名性抜群のボーカルがあり、そこへフックとなる一捻りくわえたアレンジで飾り付けていく。こうして特異性に満ちたボーカル、バンド名から醸し出される不思議な雰囲気が好奇心を刺激し、初見のリスナーすらも惹きつけてしまうのだろう。

カネヨリマサル【ユースオブトゥエンティ】Music Video

Conton Candy

 ボーカリスト歴2年未満とは思えない才気あふれるフロントマン、実の双子からなる磐石なリズム隊。一見、綿菓子のように甘ったるそうで、よく見れば“混沌”という文字が浮かび上がるバンド名。その圧倒的な情報量で、掴みバッチリな自己紹介をスマートに行えてしまう。そうしたところが、漠然とConton Candyに感じるスター性の正体だ。

 Conton Candyは紬衣(Vo/Gt)、ふうか(Ba/Cho)、さやか(Dr/Cho)からなる3ピースバンド。「ロングスカートは靡いて」がインディーズ音源配信サイト Eggs内の楽曲ランキングで2年連続(2020年、2021年)首位に輝き、シーンを賑わせている。2020年の前ボーカル脱退を機にポジションチェンジに挑戦したのは、現フロントマンの紬衣。銀杏BOYZの峯田和伸を敬愛しており、バンドのブレない音楽性は彼の思想や個性をヒントに形作られているように感じる。

Conton Candy 「ロングスカートは靡いて」Official Music Video

 ボーカルは伸びやかで力強く、大黒柱的な頼もしさすら感じるが、時折、触れたら消えてしまいそうな繊細さも見せる。「ロングスカートは靡いて」のサビを象徴する力強いロングトーンは、ティーン世代特有の不安定な恋愛模様から生まれる焦燥や不安感を加速させている。一方、双子のリズム隊が織りなす奥行きあるコーラスワークは、一途でピュアな恋心を描く。Conton Candyの特異性ともいえる美しいコーラスワークは、巧みな比喩表現で失恋を描く楽曲テーマの対比的な役割を果たしているのである。

 ギター1本の弾き語りで始まる「milk」にも注目したい。本楽曲の構成は、いわゆるサビに当たるフレーズが終盤に1カ所だけ登場するパターン。しかし、終盤のセクションまで淡々とアンサンブルを刻むわけではない。中盤でリズムアプローチを変えてドラムのロールを聴かせてみたり、リズム隊の演奏をピタリと止めてボーカルを極限まで轟かせてみたりーー とにかく情報量が多く、終盤への期待感が高まるアレンジとなっている。サビでは、曲の始まりがギターの弾き語りであったことを忘れてしまうほどの壮大なサウンドスケープを描く。これほどのアレンジ力を見せつけられると、Conton Candyというバンドに途方もないポテンシャルを感じてしまう。

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