SPECIAL OTHERSが追求した“いい音”とは? コロナ禍がバンドにもたらしたプラスの変化

スペアザが追求した”いい音”とは?

 SPECIAL OTHERSが、前作『WAVE』からおよそ2年ぶりとなる通算8枚目のオリジナルアルバム『Anniversary』をリリースする。メジャーデビュー15周年イヤーを迎えた彼らにふさわしいタイトルを冠した本作は、これまで以上に幸福感に溢れ、しかもどこかロックにも通じるような荒々しさやダイナミズムを感じさせる楽曲が多く並んでいる。コロナ禍で時間ができたぶん、音作りやプリプロなど時間をかけてじっくり行ったというだけあって、解像度の高いサウンドに仕上がっているのも印象的だ。もちろん、明るさの中にどこか哀愁や郷愁を漂わせる“スペアザ節”も健在。本インタビューでは、そうした作風は一体どこから生まれてくるかじっくりと聞いた。(黒田隆憲)

「久しぶりにバンドを『趣味』みたいに楽しめた期間だった」(宮原)

ーー本作『Anniversary』は、前作からおよそ2年ぶりのリリースとなります。この間、言うまでもなく世界はコロナ禍にあったわけですが、バンドとしてはどのようなことを考え、どのような活動をしていましたか?

芹澤優真(以下、芹澤):コロナ禍になる前は、例えば全国ツアーをするとか、世界に向けて音源を発信するとか、そういう“マクロ”な動きをしている方が、バンドとして前に進んでいるような気がしていました。でも、コロナ禍になって自分たちの内側と向き合う時間が増えたことで、“ミクロ”にも広大な世界が広がっていることに気づけたというか。

宮原良太(以下、宮原):具体的には自分たちのスタジオでずっと遊んでいましたね。新しい機材、ケーブルやアンプ、スピーカー、他にも細々とした機材を導入して、どうやったらもっと音が良くなるかをひたすら追求する期間でした。

柳下武史(以下、柳下):コロナ禍になってライブの本数もだいぶ減ってしまったし、とにかく自分たちの足元を見直したというか。

宮原:なんか、久しぶりにバンドを「趣味」みたいに楽しめた期間だったよね。

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柳下武史

柳下:必要に応じてではなく、特に目的もなくただ楽しそうだからという理由で楽器を買ってきたりしてね(笑)。家にいる時間が長いとネットでいろんなこと調べるから、それで欲しくなる楽器や機材があって。

芹澤:「どこどこの電源ケーブル、めっちゃ音がいいよ」みたいな情報交換もしょっちゅうしていたし。

宮原:それでいいマイクをたくさん買い込んだり、個人的にはギターもベースも、ウーリッツァー(エレクトリックピアノ)まで買ったりして(笑)。

又吉優也(以下、又吉):なので、コロナ禍でライブが少なくなったのは、僕らにとってはプラスに働いたというか。ライブやレコーディングが立て続けにあると、機材の見直しとかまで気が回らなかったりするじゃないですか。

宮原:まあ、自分たちでプラスにしていったというかね。物は考えよう、みたいなところはあったのかなと。映画の『ライフ・イズ・ビューティフル』じゃないけど。

ーーどんな状況もポジティブに考えるのは大切なことですよね。スタジオの環境が整ったことで曲作りにも変化はありましたか?

柳下:音質の向上はもちろんですが、『WAVE』の時より念入りにプリプロができて、そのぶんアレンジの精度が上がったことも、これまでとは違う雰囲気のアルバムになった一因かもしれないですね。全体的に見通しの良いサウンドになったというか。

SPECIAL OTHERS - 8th Album『Anniversary』ティザー映像

宮原:例えば「DECO」という曲はスタジオで実験しているときに生まれたんですよ。Nord Electroというシンセの中にメロトロンの音色が入っているんですけど、メロトロンってオリジナルはテープ式のキーボードだから、テープ独特の訛りみたいなところが魅力なんですね。それをより忠実に再現するために、スタジオでいろんなエフェクターを試したんです。そうしたらヤギ(柳下)が購入したStrymon(ストライモン)社のDECOという、テープサチュレーション系のシミュレーターがまさにこれ、というサウンドにしてくれて。楽しくて使いまくった曲なので、曲名もそこからインスパイアされました(笑)。DECOの素晴らしさを存分に活かした楽曲です。

ーーなるほど。アルバムに収録されているのは、コロナ禍で制作された曲がほとんどですか?

柳下:「THE IDOL」以外の曲はそうですね。

宮原:僕らのデビュー曲「IDOL」(2006年リリース『IDOL』収録)のリテイクなのですが、オリジナルバージョンは自分たちでも結構気になるところがあって。「ここ、なんで合わせなかったんだろう?」とか、そういうところを手直ししてレコーディングしています。

「“UKロック”の引き出しを開けてプレイすることが多かった」(柳下)

SPECIAL OTHERS

ーーちなみに、今作を制作していたときにはどんな音楽を聴いていましたか?

宮原:前作を制作していた頃は、それこそロバート・グラスパーあたりの音楽をずっと聴いていたんですけど、ちょっと飽きちゃったんですよ(笑)。その反動でOasisとかLed Zeppelinを聴いたら、なんだかめちゃくちゃかっこいいし気持ち良くて。そういうモードをストレートに反映させたのが、表題曲「Anniversary」や「Timelapse」です。シンプルかつロックっぽいアレンジになったのは、自分自身が今そういう曲を聴きたい気分だったんでしょうね。

SPECIAL OTHERS – Anniversary(Official Video)

又吉:ギターをレコーディングするときも、スタジオでアンプを何台も試したよね。

宮原:そうそう。やっぱりOasisやLed Zeppelinといえば、イギリス製のVOXかなと思ってギターを繋げたらどんどんアイデアが出てきたりして。

芹澤:そういうビンテージ系のアンプばかりじゃなくて、例えば「Spark joy」と「Happy」は、そのへんの楽器屋でも1万3千円くらいで買えるようなアンプでローズピアノを鳴らしたんですけど、それがどのビンテージアンプよりもいい音で録れたりして。そういうのって、先入観抜きにいろいろ試してみないと分からないことだなと改めて思いました。

ーー確かに本作は「ロックっぽいな」と思う瞬間が聴いていて何度もありました。皆さんはロックってどのくらい通っていますか?

SPECIAL OTHERS
芹澤優真

芹澤:鍵盤楽器の場合、いわゆるロックっぽいアプローチを現代でやっている人は少ないし、今は上質で入り組んだ音楽がスタンダードになりつつあるけど、例えばDeep Purpleでも活躍したジョン・ロードの当時の映像を見ると、鍵盤にファズを繋いでたりして「かっこいい!」と思いますね。あるいはリアム・ギャラガーが後ろに手を組んでシャウトしている姿に無条件で反応してしまうし、カート・コバーンがボーダーシャツにモヘアのニットを羽織って髪を振り乱しながら歌っている姿にグッときてしまうとか……それって今も自分の中にずっとある感覚なんだなということを、今回再確認できました。

宮原:こうやって話していて気づいたんですけど、今作って結構「ロック」がキーワードなのかなと思いました。今、芹澤がLed Zeppelinと言いましたが、彼らのドラムサウンドってグリン・ジョンズがエンジニアリングを手掛けていて、そのサウンドは後に「グリン・ジョンズ メソッド」とも呼ばれるくらいスタンダードになっているんですよ。要は、たった3本のマイクでドラムを録音する手法なのですが、実は今回エンジニアと、「グリン・ジョンズのあれ、かっこいいよね」「じゃあやってみようぜ」みたいに盛り上がって(笑)。「Yagi & Ryota 2」や「Session 317」など、実際にマイク4本だけ立ててドラムを録音した曲も入っているんですよね。

ーーへえ!

宮原:「Yagi & Ryota 2」に関しては、前日の夜にそういうアイデアが思い浮かんで、翌朝すぐに試したから「もうちょっと練った方が良かったかな」と思う箇所もいくつかあるんですけどね(笑)。

又吉:でもまあ、そうやって思いつきで録っていったからこその良さもきっとあるんじゃない?

柳下:確かにそれはそう。前回の「Yagi & Ryota」(2006年リリース『Good morning』収録)も、録る予定がなかったのにその場で思いついて試してみた曲だから、このシリーズはずっとそうやって行き当たりばったりでできていく気がします(笑)。ちなみに「Anniversary」のギターは、リバーブなど空間系のエフェクターをほとんどかけずに超デッドな音で録音したんですけど、そうするとプレイも自然とロックっぽくなっていきましたね。個人的にロックはドハマリしたことないけど、名盤と言われている作品は一通り聴いていて、今回は自分の中にある“UKロック”の引き出しを開けてプレイすることが多かったです。今まで絶対にやらなかったようなギターカッティングもかなりやっていますし。

宮原:ジャカジャーン! みたいなね(笑)。

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又吉優也

又吉:僕はロックの中でも、もうちょっと重たいハードロック系の楽曲が好きですね。でも、今作ではそこの引き出しは特に開けていなくて、最初の話に戻ってしまうけど「いい音で録る」をテーマに音作りをしました。例えばベースの弦を変えるだけでもサウンドが全く違うものになるので、どの弦を使ったらいいのかをひたすら試行錯誤したり。キーボードやギターに比べると、繋ぐエフェクターの数もベースは少ないので、そのぶんシールドを良くしたりとか。

ーーSPECIAL OTHERSが今回追求した「いい音」とはどんなものだったのでしょう。

宮原:「クリアで解像度が高い」ということになりますかね。

芹澤:「解像度」という言葉が今回のレコーディングで1万回くらい出てきたしね(笑)。今回、ロックっぽいサウンドを目指す上でも解像度ってものすごく重要で。もちろんアティチュードの部分も大事なんですけど、例えばファズギターの歪みにとことんこだわり、機材一つ交換するだけで解像度が上がっていくことに気づけたのも良かったなと思ってます。考えてみれば、機材の変化の歴史が、音楽そのものの進化の歴史でもあったりするじゃないですか。

宮原:Big Muffがあったから生まれた音楽やジャンルだってあるわけだし。

芹澤:RATがあったからあの名曲ができた、とかね。そういうことに気づけたのは、コロナ禍でたくさんの機材を試すことができたからなのかなと思っています。

宮原:あと、今回レコーディングしていく中で暗い曲ばっかり増えてきちゃったんですよ。コロナ禍の影響なのか、自分でも無意識だったのですがだんだんイライラしてきて(笑)。「明るい曲がやりてえな!」と思って作ったのが「Happy」だったりしますね。

ーー「Happy」は、ちょっとモータウンっぽい雰囲気もあるなと思いました。

宮原:なるほど。言われてみれば、ちょうどその頃Scary Pockets(ブルーノ・マーズやQUEENをカバーするファンクバンド)をよく聴いていたんですよ。彼らもモータウンとか好きなんだろうなという雰囲気があるので、そういうところからの影響はあったかもしれない。

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