JUJU、DISH//、Hey! Say! JUMP……小倉しんこう、作家としてのモチベーションと楽曲の個性の出し方

小倉しんこう、作家としてのモチベーション

曲作りに向かう純粋さや熱量が作家活動の原動力

――ここからは小倉さんがターニングポイントとして挙げていただいた楽曲についてお話を聞かせてください。まずは2009年リリースのJUJU「やさしさで溢れるように」です。

小倉:「やさしさで溢れるように」を書いたのは2007年か2008年だったと思います。ひとりで歌モノを書き出してから1、2年で書いた曲でした。それまで歌モノを書いたことがなかったんですよね。誰かが作った曲のアレンジをしたり、トラックを作ったりするだけだったので、最初のコンペは歌詞を書けなくて「ラララ」の仮歌で提出していたくらいです。

――「やさしさで溢れるように」はJUJUの名前を全国区へと広める曲になりました。ヒットしたことをどのように受けとめていましたか?

小倉:受けとめられなかったです(笑)。自分の中で曲作りの方法論が何も構築できていない状態だったのに良縁に恵まれてヒットしたので。アレンジしてくださった亀田誠治さんのおかげでこの曲ができたんです。歌詞も元々は死別の曲だったんですが、亀田さんが出会いの曲にしようと大筋を作ってくださって。

――とはいえ、この曲がその後の作家人生を左右することになったんじゃないですか?

小倉:本当にそうです。実感がないまま、「あの曲を書いた人だよね」ということで同じクオリティを求められる機会が増えて。ヒットした嬉しさよりも、追いつかなきゃっていう焦りと苦悩の方が強かったです。プロボクサーを相手に自分が振りかぶった一発がたまたま当たって、そのまま試合続行みたいな状況になっちゃって。

――自分で自分のハードルを越えられない、という。

小倉:まさしくそれです。「どうしよう!?」みたいな。

――その壁をどのように越えたんですか? 

小倉:その苦しみは消えましたけど、まだそのときの自分を追いかけている部分があります。この曲は自宅で飼っていたワンちゃんが亡くなって、その追悼歌として書いた曲だったんです。亡くなったワンちゃんが天国でもやさしさであふれる幸せな世界にいますように、みたいな。だから、気持ち先行で書いた歌詞だったんですけど、嘘偽りのない部分があって。曲作りに向かう純粋さや熱量は今でも追い求めているし、それが作家活動の原動力にもなっています。

JUJU 『やさしさで溢れるように』

――2014年にリリースされたDISH//の「FLAME」もターニングポイントに挙げてくださいました。この曲はアニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』(テレビ東京系)のエンディングテーマでした。

小倉:これはアニメのタイアップがあるという前提で書いた曲でした。なので、漫画を読みながら、『NARUTO』のファンの方がこの歌詞をどういうふうに受けとめてくれるか、この歌詞を『NARUTO』とどう絡めてくれるかと考えながら書いたんです。

――曲を作る段階で明確にテーマと世界観があったということですね。

小倉:あと、この曲以前に、DISH//には、「晴れるYA!」や「デート@ショッピングモール」など、何曲か提供させていただける機会に恵まれていたので、彼らがこういう曲を歌っていたらカッコイイだろうなというアーティストの個性を出す部分と、タイアップ先が求めているものを俯瞰して作れたんです。プロの作家としてきちんと設計図を書いて、思い通りに作れた最初の曲という意味でターニングポイントでした。

――DISH//には、2019年まで、すべてのアルバムに楽曲を提供されています。彼らとの楽曲作りからどのようなことを得ましたか?

小倉:同じアーティストに何曲も連続で提供させていただくというのは、DISH//が初めてだったんです。なので、恋愛の曲をひとつ書くにしても切り口を変えていく必要がある。それは楽しい苦しみだったんですけど、毎回、“前回と違うことにする”という意識があって。DISH//を通じて、「こんなジャンルも書けるんだ」とか「こういう切り口もできるんだ」とか、自分の手数や引き出しが増えました。特に歌詞の書き方を特訓してもらえた期間でした。

DISH// - FLAME [Official Music Video]

――続いて、2020年9月リリースのHey! Say! JUMP「Your Song」をターニングポイントに挙げてくださいました。

小倉:この曲は作家として伝えたい言葉を詰め込めた曲だったんです。コロナ禍でアーティストのみなさんが思うように活動できず、生活様式も変わってしまって「アレ?」と思っている中で、「まだみんなとちゃんと繋がってるよ」という思いを歌詞に込めたくて。そういう言葉を具体的に書いたわけじゃないんですけど、この曲を聴いてくださった方が未来への希望を持ってくれたら、という自分の願いが書けたんです。

――作家業では、相手が求めるものを作るケースが多いと思いますが、この曲に関しては自分発信の部分が強いということですね。

小倉:そうなんです。もちろんアーティストあっての楽曲ですし、他の楽曲も自分のカラーは出してるんですけど、より積極的に詰め込めたという意味でターニングポイントに挙げました。

Hey! Say! JUMP - Your Song [Official Music Video]

――かつてはバンドやユニットを組んでいたわけですし、小倉さん自身がアーティストとして何かを発信していこうという思いはないんでしょうか?

小倉:そういう気持ちはないんです。DISH//を通していろんなジャンルを書くのが楽しくなったという部分と重なるんですけど、いろんなアーティストにいろんな楽曲を書いている方が自由度を感じるんです。そっちの方が自分を化けさせられるというか。

――自分でも知らない自分の引き出しが開くから?

小倉:子ども向けの曲を書いてみたり、異性の曲を書いてみたり、いろんな曲を書く度に新鮮な気持ちになって、その新鮮さが曲を書く原動力になるので。自分の立ち位置がコロコロ変わるのが音楽制作のモチベーションに繋がるんです。

――特にモチベーションを刺激してくれるオファーはどういうものですか? 

小倉:作家業をやってきて、途中で気付いたことなんですけど、初めてやるジャンルであればあるほど、採用される確率が高い気がしています。ちょっと新しいものとか、まだやったことのないお題とか、チャレンジが入るとやる気がすごく沸くんです。

――それはサウンドにしても、歌詞にしても?

小倉:そうです。作ったことがなくてちょっと怖いなと思うくらいの方がモチベーションが上がります。

――小倉さんは作曲だけでなく歌詞を提供することも多いですが、作詞をするときに気をつけていることを教えてください。

小倉:最近意識するのは、“言葉の年齢”です。愛の表現ひとつとっても、意識しないでいると、ちょっと言葉が古くなっているなと感じる場面が出てきて。アレンジと歌詞は時代によってコロコロ変わるので、実生活で自然と話している言葉をそのまま歌詞に流用すると、時代や求められている歌詞との誤差が生じてくるなと思うようになりました。作詞ほど自然体が通用しないものはないと思っています。

――特に若い年代のアーティストに楽曲提供する場合ですか?

小倉:そうです。かといって、流行語を連ねて真似しているだけだとバレるので。おじさんが若い子に合わせて無理やり若い子に人気の曲をカラオケで歌ってるみたいな(笑)。それだと媚びている感じになるので、作詞では、いちばん音楽を聴く10代、20代に合うよう、言葉の使い方をアップデートするよう意識しています。

――作曲面ではどのようなことを大事にされていますか?

小倉:いちばん時代に流されないのがメロディだと思っていて。キャッチーなメロディは時代によってあまり変わらない気がするので、むしろ左右されず、自分が「これがいい」というものを極力変えないようにしています。

――小倉さんの作曲はDTMから始まって、トラックを作っていた時期もありました。現在、楽曲を作るときはトラックとメロディを分離して作られているんですか?

小倉:コンペによって作り方はバラバラです。詞先で作るときもあれば、トラック先行のときもあれば、アレンジ先行のときもあります。作り方は固定していません。

――このタイプは詞先、このタイプはトラックみたいな区別はあるんですか?

小倉:あります。EDMとかリズム重視の曲はトラックから作るとメロディが乗りやすいし、ロック系の曲はディストーションをかけたギターで作るようにしています。楽器を変えると出てくるメロディがガラッと変わるので、コンペに出すジャンルに合わせて楽器を変えて自分の色の振り分けをしています。詞先は、タイアップありきだったり、「こういうテーマで歌ってください」といった企画やコンセプトがはっきりしているときです。そういうときはキャッチコピーのようなキーワードを先に作って、そこから歌詞に展開していきます。

――詞先の場合は、サビ先行が多いですか?

小倉:そのキーワードがそのままサビの頭やお尻に入ることが多いです。それがタイトルになる場合が多いんですけど、キャッチコピーのようなものをワンフレーズ作って、そのフレーズに至るまでの物語を逆算して作っていく感じです。ただ、その時々で、途中で楽器を触りたくなったら歌詞とメロディを同時進行で作っていくこともあります。あくまでも作り出すときのきっかけとして、詞先もあるという感じです。

――ところで、お寺のお仕事は現在されているんですか?

小倉:今は音楽1本に絞っています。お寺の仕事は辞めました。

――二足のわらじを履いている時期もあったわけですよね。

小倉:そうです。作家業を始めた当初は「主軸はお寺だしな」という感じで、音楽の方が副業のような感覚だったんです。適当にできるものじゃないからどの楽曲も本気で作っていたんですけど、「音楽で通用しなくなったら自分にはお寺があるから」という安心感とか甘えみたいなものがあって。でも、音楽はどれだけ時間をかけても追求しきれないものだなと感じていて。それだけ音楽は難しかったり、面白かったりする。だったら、音楽1本に絞って、もっと突き詰めてやってみたいと思ったんです。

――それはいつ頃ですか?

小倉:最近です。38歳くらいのときだから、「Your Song」を書くちょっと前ですね。

――そんな小倉さんは、今後、どんな音楽を生み出していきたいと考えていますか?

小倉:今って、DTMが広まったぶん、音楽が体験型になってきた感覚があるんです。楽曲がただ単に聴かれるだけではなく、「歌ってみた」とか「弾いてみた」とか。たとえばOfficial髭男dismとかの楽曲がそうですよね。「こんな難しいフレーズがある曲を演奏してみた」みたいな。一風変わったコードがあるとそれを解析するYouTuberがいたりとか。なので、そういうふうに構造解析されても楽しめる楽曲を作りたいという思いがあります。

――それって先祖返りしてますよね。曲の構造を分析して再現するというのは、小倉さんが少年時代にやっていたことだから。

小倉:そうなんです(笑)。あとは歌詞を分析してる人がいたりとか。

――確かに今は、いろいろと分析・解析する風潮がありますね。

小倉:お笑いもある時期からただ単に面白がるだけじゃなくなってきたように思うんです。お笑いを審査する大会が出てきたり、お笑いを判定する番組があったり。たとえばダウンタウンの松本(人志)さんがお笑いのロジックを開示すると、大喜利にせよフリップ芸にせよ、面白さと同時にその技の凄みも注目されて見方が多元的になってきた。音楽でもそれが目に見える形で起こってきている気がするんです。

――自身の楽曲を解析されるとしたら、一番こだわりたいのはどんな部分ですか?

小倉:たとえばコードに対するメロディの絡みとか。コード外の音がメロディに含まれていてメロディと合わさることでテンションコードができあがるとか、聴きやすいコードとメロディなんだけどリズムの絡ませ方で個性を出すとか。あとは選択する楽器の個性など、挙げるとキリがないんですけど、そういうものをキャッチーさを残したまま仕込めたらいいなと思います。

――ディテールの部分に楽曲の個性を出していく余地があると。

小倉:個性の出し方がより細分化されてきたと思っているんです。楽曲を素直に聴いてもらって「良い曲」と思ってもらえるのがベストなんですけど、ロジックで音楽を楽しむ人たちに深掘りしてもらったときにもちゃんと味がしてほしいんですよね。「みんな普通に聴いてるけど、これ、実は変わってるよ」っていう。そっちの楽しみ方もできる方が楽曲をより多くの人に届けられると思うし、今後はそういう部分にも注力して音楽を作っていきたいです。

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■小倉しんこう Sony Music Publishing オフィシャルサイト
https://smpj.jp/songwriters/shinquoogura/ 

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