My Hair is Bad、サブスク解禁を機に紹介する必聴の10曲 鉄壁のアンサンブルで表現されてきた繊細な感情

My Hair is Bad、サブスク解禁で必聴の10曲

 My Hair is Badが4月1日に『ミュージックステーション 春のレジェンド曲3時間スペシャル』(テレビ朝日系)に出演し、初の地上波TVパフォーマンスを行った。彼らは、“冒頭の歌詞が衝撃的”と紹介された「真赤」と、4月13日発売のニューアルバム『angels』より先行配信中の新曲「歓声をさがして」を披露。場所がどこであろうと変わらない、叩き上げのライブバンドとしての姿を堂々と見せた。そして直後のCMでは、メジャーデビュー後の全作品のストリーミング配信を開始するとアナウンス。「ブラジャーのホック外す歌より、いい曲あります」という「真赤」の歌詞に引っかけたフレーズは洒落が効いていたし、インディーズ時代から変わらない手書きのスケッチブックをめくっていく映像に思わず微笑んだファンもいたのではないだろうか。

 今やアリーナ規模の会場を埋められるほど人気のMy Hair is Badだが、逆に言うと、今までテレビに出ておらずストリーミング配信もほとんどしていなかったのに、それほど人気だったということになる。支持を集めた理由は生身でぶつかるライブの熱さ、そして楽曲の良さであろう。そこで本稿では、今回配信開始された曲の中から10曲をピックアップ。バンドの魅力を確認するとともに、その変遷を辿っていきたい。

「真赤」

 初出はインディーズ時代の作品『一目惚れ e.p.』(2015年)で、2ndアルバム『woman's』(2016年)にも収録。My Hair is Badという存在を一躍シーンに知らしめるきっかけとなった曲といっていいだろう。全曲の作詞作曲を手掛ける椎木知仁(Gt/Vo)は、聴く人の注意を引く一言目を生み出す才のあるソングライターだが、とはいえ、〈ブラジャーのホックを外す時だけ/心の中までわかった気がした〉とは随分思い切ったものだなと何年経っても驚かされる。その他にも、疾走感溢れるバンドサウンド、歌詞における押韻の多用、曲中歌われる“愛しているし愛されたい”という懇願を伴う感情など、マイヘア節といえる要素が多く詰まっているため、必聴の1曲だ。

My Hair is Bad - 真赤 (Official Music Video)

「恋人ができたんだ」

 同じく『woman's』に収録。〈恋人ができたんだ〉と元恋人に報告するバラードで、タイトルにも掲げているそのフレーズのリフレインが耳に残る。一度想いを寄せた人をそう簡単に嫌いになることはできないが、すごろくで振り出しに戻るように全部忘れてまっさらに戻れるわけでもない。別離を選んだ相手の幸せを願う気持ちは、愛からか、情からか、絆からか。恋から抜けたあとの2人は、人と人として相手を想えているのだろうか。かつての恋人に向けたバラードは、歌詞の繊細な表現にも注目しながら聴いてほしい。

My Hair is Bad – 恋人ができたんだ (Official Music Video)

「幻」

 一つの別れを二者の目線から描いたシングル『運命 / 幻』(2017年)と、3rdアルバム『mothers』(2017年)に収録。2人の間に確かにあったはずの恋の熱を、一方は絶対的な「運命」として、もう一方は刹那的な「幻」として捉えているのが残酷であり真実だ。「幻」は女性目線のバラードで、ぽつりぽつりと言葉を漏らす冒頭を経て、堰を切ったようにバンドサウンドが溢れ出す。この曲は男性目線の「運命」と併せて聴いてほしい。指輪というモチーフに着目すると、2人のすれ違いが浮き彫りになると同時に、人生とはこのような出来事の連続なのだろうと思わせられる。

「幻」

「熱狂を終え」

 3rdアルバム『mothers』に収録。瑞々しいアッパーチューンで、ダイナミックながら安定感のある山田淳(Dr)のドラミング、山田の出音と共鳴しながら重心をしっかりと作る山本大樹(Ba/Cho)のプレイはこれぞMy Hair is Badと言いたくなるものだ。また、最も勢いを出したいサビで母音を統一するなどソングライティング面での工夫も見られる。恋愛をテーマにした先の3曲に対し、「熱狂を終え」はライブバンドとしてのMy Hair is Badの姿そのもののような曲。Aメロでは等身大の言葉が並ぶ一方、サビでは〈今夜、/大正解を疑え/悟る経験に逆らえ/襲う冷静を破り去っていけ〉と歌われていて、ステージに上がった瞬間オンになるバンドマンスイッチの存在、彼らがロックバンドとして求めていることが垣間見える。

「熱狂を終え」

「永遠の夏休み」

 3rdアルバム『mothers』に収録。抒情詩のように、椎木の中にある記憶の断片がポエトリーリーディングでアウトプットされていく曲。歌詞はかなり具体的で固有名詞も多く使用されているが、描写が生々しい分、聴く人一人ひとりの記憶と強く結びつき、匂いや湿度、風景などを立ち上がらせる。椎木の言葉に併走するバンドの演奏も聴きごたえ抜群だ。どことなく不穏な空気が流れていて、アルバムの中でも異色の存在だが、ライブでのみ披露される歌詞の定まっていない曲「フロムナウオン」と同様に言葉で畳みかける構成で、メジャーデビューシングル『時代をあつめて』収録の「戦争を知らない大人たち」の系譜を継ぐこの曲は、ある意味で非常にMy Hair is Badらしい曲ともいえる。

「永遠の夏休み」

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