Tani Yuukiが挑んだ、新しい自分を提示する曲作り 「Myra」「W/X/Y」を経て次なるフィールドへ飛び出す決意
TikTok発のヒット曲が次から次へと生まれている昨今。それまで無名だったアーティストが突然脚光を浴びることも少なくない。シンガーソングライターのTani Yuukiもその一人だ。彼が2020年にリリースした1stシングル「Myra」は、TikTok上でバズを巻き起こし、瞬く間にヒットソングへと生まれ変わった。さらにもう一つ、「W/X/Y」のヒットは今現在も加速している。
そんな彼が3月9日、新曲「自分自信」を発表した。ABEMAオリジナル恋愛番組『今日、好きになりました。』メンバー出演のUQ mobile「UQ応援割」CMソングとして書き下ろされた同曲は、夢を持つ人からまだ夢を持てていない人まで、幅広い世代に向けられたパワフルな応援ソング。SNSの向こう側で支持を集める彼が放つ、まさに新境地と言える1曲だ。
二度のバズを経験した彼だが、浮かれている様子はない。むしろ地に足つけて、現在地をしっかりと捉えながら、次のステージを目指して冷静に自身を見つめている姿があった。(荻原梓)
「決別の唄」に込めた自分の道を行くという宣言
ーーまず、音楽に触れた原体験を教えていただけますか?
Tani Yuuki(以下、Tani):僕、生まれる前から音楽に触れていたらしいんです。お腹の中にいる時に、母がよくクラシック音楽を流していたそうで。あと小さい頃は家にFM yokohamaが流れていたり、音楽が常に流れている環境だったので、物心ついた頃にはすでに音楽に触れてました。音楽の道に進もうと思ったのは、中学2年生の時に祖父からアコースティックギターを貰ったのがきっかけです。そのギターを使って好きな曲をカバーしたり弾き語りをするようになって、自分の気持ちを表現できるのはこれしかないと思って。
ーーその頃好きだった音楽はどんなものだったんですか?
Tani:小学生の頃は、ゆずとかコブクロみたいなフォーク系のJ-POPが多かったですね。あとは以前YouTubeでコラボさせていただいた絢香さんも母親の影響で好きでした。中学校に上がるとバンドが好きになって、RADWIMPSに出会って自分も野田(洋次郎)さんみたいな曲が書きたいっていう憧れを抱いたり。
ーーバンドを好きになったということは、バンド活動や軽音楽部に興味を持ったりはしませんでしたか?
Tani:実は軽音楽部にめっちゃ入りたかったんですよ。でも中学生の頃、病気で学校に全然通えなくて、行ける高校がないみたいな状態でした。それで通うことのできる通信制の学校を選んだんです。そしたらいわゆる部活動みたいなものがなくて。
ーーではその頃は音楽はずっと一人でやっていた?Tani:当然メンバーもいなかったですし、周りで音楽をやってる人すらいなくて。そもそもギターを使えば一人で完結できるので、その時はそんなに必要だとも思っていなかったですね。ただ、専門学校に行くと自分よりも音楽活動をちゃんとやってる人がいたので、そういう人たちに協力してもらったことはあります。でもそうすると自分の思っていた通りには行かないことが多くて。若いからというのもあって、その人のエゴが全面に出たものが返ってきたりするんですよね。それなら自分の思い通りになるように、全部自分一人でやっちゃおうと。
ーー「決別の唄」(1stアルバム『Memories』収録)の歌詞を読むと、〈もう疲れたんだ/繰り返しの毎日に〉とか〈いらないものは捨てて僕は旅立つよ〉というような、もともといた世界から飛び出していく表現がありますよね。これはその専門学校時代のことなんでしょうか?
Tani:そうですね。専門学校時代はユニットやバンドを組んでいた時期もありました。でもやっぱり人数が増えるとどうしても意見が合わないことが増えてくる。「決別の唄」はその頃の、人との音楽活動の中で抱いた憤りを表現した作品なんです。何度もオーディションを受けていろいろ指摘されたりして、なにくそと思いながらも、為になるのかわからないような話をずっと聞き続ける〈繰り返しの毎日〉が嫌になって、「オーディションって受ける意味あるの?」みたいな気持ちになっちゃって。〈利用しよう器用なやつばっかで〉というのは、僕の曲を良いと言ってくれつつも、僕のやりたい方向ではなく、その人の好みのアレンジに無理矢理持って行かれるような経験から書いたフレーズです。
ーーなるほど。結構生々しい感情が表れているんですね。
Tani:でもその時代があったからこそ今の自分があるので、今となっては感謝しています。仲間がいることってやっぱり温かいことですし、単純にあの期間は必要なかったよねというものではなく、「もう自分は自分の道を行くよ」という宣言みたいな曲なんです。
ーーこの曲をアルバムの1曲目に持ってくるあたりにその強い覚悟を感じました。
Tani:ありがとうございます。今の自分の活動スタイルになるきっかけは、やっぱりこれ(「決別の唄」)だよなと思って最初に入れました。
「W/X/Y」のヒットで認識した“自分のスタイル”
ーーアルバムにはTikTokで大ヒットとなった「Myra」も収録されてますね。
Tani:「Myra」も実体験が元になってます。僕にとってはここまでの大恋愛が初めてで、あまりにも傷ついたので、しばらくそのわだかまりを残したまま過ごしていたんです。でもこの気持ちを昇華させないと、いつまで経っても自分は先に進めないから曲にしようと思い立って。「Myra」はその時のどうにもできないやり場のない気持ちを供養してあげた曲なんです。
ーーある意味「決別の唄」もそうでしたけど、自分が前に進むために曲を作ることが多いですか?
Tani:多いですね。曲を作って、自分の心を整理することが多くて。嫌なことがあるとすぐ歌詞にして発散するんです。それはもともと僕の音楽が、中学の時に学校に行けなくて、病気になっちゃって、親や友達との関係もうまくいかなくて、「自分の気持ちを音楽で伝えたい」みたいなところからスタートしているからというのも関係してると思います。
ーー「Myra」の盛り上がりをご自身ではどのように受け止めましたか?
Tani:正直、豆鉄砲を食らったような、呆気にとられた気分って言うんですかね。曲だけ先に行っちゃって、「あれ俺は?」みたいな……。
ーー“作品が一人歩きしている”状態ですね。Tani:本当にそういう感じです。「Myra」がヒットする前は再生回数なんて数百回レベルでした。なので、そこから飛躍させてくれた点はもちろん嬉しいんですけど、曲と自分を繋ぐ手綱が自分の手元にない感覚になって、軌道修正が難しくなってしまったんです。それに「Myra」をたくさんの人が聴いてくれたことで、その人たちが他の自分の作品を聴いてくれるのかっていうと、必ずしもそういうわけではない。そんな単純な話じゃないんだなと思ったりして。
ーーちなみに当時バズった「Myra」や、今火がついている「W/X/Y」はどんな部分がヒットに結びついたんだと思いますか?
Tani:それについてはいろいろ考えたことがあるんですけど、正直、わからないですね。繰り返しの韻を踏んでいるところが良かったのか、リズムなのか、メロディなのか、自分でもありきたりな分析しかできなくて。あるいは、もっと根っこにある、自分の気持ちをしっかり込めて作ったことが良かったのか。でも、それって本人ではないのに、なんで聴いただけの人がわかるんだろうっていう。
ーー確かにそうですね。なんとなくどちらも歌声が届きやすいシンプルな音作りではあります。
Tani:自分の歌声が強みなのは理解していますが、曲を作る時に歌声を前に押し出そうみたいなことはあまり考えていなくて。ただ「W/X/Y」を作ったのが「Myra」のヒットのちょうどすぐ後くらいだったので、自分で意識していなくても引っ張られた面はあったとは思います。「Myra」が自分の作品として世の中に先走っているから、次に作る曲も「これはTani Yuukiの曲だ」というものにしなきゃいけない。そういう気持ちがどこかにあって、無意識のうちに作風が似たのかもしれないです。僕自身が意識的に寄せようと思っていたわけではなくて、一種の自分のスタイルと言っていいのかもしれないですね。
ーー他に何か曲作りで意識したことはありますか?
Tani:メロディはひたすらピアノを弾いて感覚MAXで作ります。歌詞に関しては「W/X/Y」だったら喋り言葉を意識しました。ですます調とかではなくて、相手に語りかけるような表現に統一したかったんです。例えば生活感が出ているAメロの部分だったら、手を伸ばせば届くくらいの距離感の言葉遣いで歌えば、より一層相手に寄り添ってる感じが伝わりますよね。歌い方も耳元で囁くような表現を意識しています。
ーー歌い方で参考にしてる方はいますか?
Tani:やっぱり絢香さんの歌い方にはかなり影響されている気がしてるんです。お風呂で独り言のように歌ったりする時も、絢香さんだったらどう歌うのか、みたいなことを考えてました。なので無意識のうちに、あの囁くような歌い方に憧れているんだと思います。あとは昔からボカロがすごく好きで、天月-あまつき-さんの歌い方も好きですね。ルーツはそういったウィスパー系の方だと思います。逆に思いきり叫ぶような歌い方はあまり得意ではないんです。