羊文学「銀河鉄道の夜」、NITRODAY「人にやさしく」、長谷川白紙「光のロック」……若手アーティストが歌い継ぐ名曲

羊文学「銀河鉄道の夜」

 2020年、自身の生まれる前もしくは幼年期/思春期に親しんだであろうロックバンドの名曲をカバーする若手ミュージシャンが相次いだ。これまで培ってきたスキルとセンスを存分に奮い、ライブシーンを中心に根強く愛されてきた日本語ロックのアンセムに挑んでいる。

 羊文学はGOING STEADYの「銀河鉄道の夜」(2001年)をカバーし、10月7日に配信。作詞作曲を務めた峯田和伸はGOING STEADY解散後に結成した銀杏BOYZでも様々なアレンジでセルフリメイクしており、色褪せない名曲であり続けている。

「銀河鉄道の夜」

 分厚い轟音の中、センチメンタルなメロディが押し寄せてくる原曲を羊文学はほとんどのパートを3ピースの演奏で再構築。個々の楽器の音が際立つサウンドはさっぱりとした仕上がりだ。全編に渡って独自に施されたコーラスは楽曲に奥行きを持たせ、どこか幻想的なイメージを広げている。

「銀河鉄道の夜」

 中心にあるのは塩塚モエカ(Vo/Gt)による透明度の高い歌声。歌い上げる部分にも揺らぎや震えを残し、原曲の魅力に繊細さを与える。〈ハロー今君に素晴らしい世界が見えますか〉の囁きを経て、剥き出しの咆哮を放つ最後のサビ前はハイライトだろう。峯田が荒々しく叫ぶ純情とは少し異なる、神秘的な響きを携えている。

 「銀河鉄道の夜」は題通り宮沢賢治の童話をモチーフに、ここにはいない“あなた”への想いを綴った歌だ。この惜別への苦味は“もう戻れない日々”を描く羊文学の楽曲群とも確実に呼応する。どんな時代にも共通する別離の感傷で繋がり合ったドラマチックなカバーなのだ。

 ちなみにこのカバーはスマホゲーム『ガラパゴスの微振動』のテーマソング。ゲームをプレイすることでこのカバーの意義がさらに深まるかもしれない。

 NITRODAYはTHE BLUE HEARTS「人にやさしく」(1987年)をカバーし、7月に配信。甲本ヒロト(現ザ・クロマニヨンズ)による原曲は30年以上に渡ってCMソングやドラマ、映画に使用され続ける日本語ロックの代表曲であり、これまで多くのミュージシャンにカバーされてきた。

 NITRODAYは7月に公開された映画『君が世界のはじまり』の挿入歌としてこのカバーを制作した。原曲の熱量に迫るタイトで鋭いアレンジは、歪んだ音で激情を迸らせるバンドの持ち味が詰まっている。平熱な女性コーラスや2本のギターによるしなやかなフレーズの絡み合いなどルーツであるオルタナティブロックとも接続させることで、シンプルかつ高い完成度を誇る原曲にNITRODAYのカラーを加えている。

NITRODAY “人にやさしく” (Official Music Video)

 小室ぺい(Vo/Gt)のあどけない歌唱と絞り上げるシャウトもこのカバーの中核だ。NITRODAYの楽曲に溢れる現状への焦燥感や”ここではないどこか”を求める欲動はTHE BLUE HEARTSの名曲たちに刻まれた反骨精神にも通じるものだろう。〈叫ばなければ やりきれない思いを ああ大切に捨てないで〉とはまるで甲本ヒロトから彼らに捧げられた言葉のよう。それを受け取り、自分たちの音で紡ぎ直すことでその意志はどこかの誰かが抱えるやりきれなさにもタッチするはず。そんな美しい循環が目に浮かんでくるカバーだ。

 なお映画『君が世界のはじまり』には小室ぺいが出演しており、劇中で彼が「人にやさしく」を歌唱する場面は作品において重要な意味を持つ。この曲のラスト、〈ガンバレ!〉の祈りを可視化したそのシーンはカバーの必然性を物語っていた。

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