シングル『雪陽炎』インタビュー
丘みどりが語る、第二章で描く活動のビジョン 「永遠の挑戦者でいたい」
昨年の『みどりのケセラセラ』以降、出産のために活動を一時休止していた丘みどりが、復帰第一弾シングル『雪陽炎』をリリース。表題曲は、昨年12月に行われた復帰コンサートのコーナー「幽玄組曲」の中で初披露された楽曲で、雪女をモチーフに儚くも情熱的な恋心が歌われた、今後の丘みどりを代表するであろう楽曲が誕生した。また、カップリングには12月のコンサートのオープニングで披露された「Rebirth」を収録。昨年結婚と出産を経験し、女性としても新たなステップを踏んだ彼女の第二章は、どんなビジョンを思い描いているのか。楽曲のエピソードと共に、第二章に寄せる思いを聞いた。(榑林史章)
暑い国の人が、雪女をどういう解釈してくださるのか
ーー「雪陽炎」は、どんな風に生まれた曲ですか?
丘みどり(以下、丘):昨年12月に復帰コンサートを開催したのですが、コンサートでは毎回「幽玄組曲」という演じて魅せる演目が好評で、せっかくの復帰コンサートなので、皆さんを驚かせるような「スケールが大きくて格好いい曲を作ろう!」という趣旨で作っていただきました。その楽曲がとても評判が良く素晴らしかったので、よりたくさんの方に聴いていただきたいと思いリリースすることにしました。
ーー12月のコンサートでは、どういう反響がありましたか?
丘:やはり「待っていました!」という声が多かったですね。昨年は「明日へのメロディ」や「みどりのケセラセラ」など、今までと違った楽曲に挑戦してきたのですが、やはり丘みどりという名前を知ってくださった方の多くの方が「佐渡の夕笛」なんです。それもあって、ラジオやSNSでどんな曲がいいかファンに聞いたところに「みどりちゃんには、女の情念を歌ったスケールの大きな曲をもっと歌ってほしい」というコメントが以前からとても多くて、それで「待っていました!」「みどりちゃんっぽい曲だ!」などの反応が非常に多かったです。
ーーその気持ちはすごく分かります。ポップス調も非常に魅力的でしたが、「やっぱりこれだよな!」と思いました。
丘:ありがとうございます。
ーー「雪陽炎」というタイトルが絶妙ですね。
丘:想像力をかき立ててくれますよね。最初にタイトルを見た時は、「格好いい!」って思いました。
ーーファン待望の”女の情念”を歌っているわけですが、それが普通の女性ではなく、雪女というところが面白いです。このアイデアは、どこから出てきたのですか?
丘:コンサートの演出家の方が決めてくださったモチーフなのですが、「雪女を主人公に書くのはすごく大変だった」と、作詩の森坂とも先生はおっしゃっていて。曲はいろいろな方に書いていただいたのですが、最終的に私のコンサートでバンマスを務めてくださっている中尾唱さんの楽曲に決まりました。中尾さんは、もう何年も私のコンサートでピアノを弾いてくださっているので、今回私がやりたいことをすごく理解してくださって、こちらからのオーダー以上のものを書いてくださいました。
ーー丘さんの中で、雪女はどんなイメージですか?
丘:やはり冷たくて怖いイメージを持っていました。諸説あるので何が真実かは分からないのですが、この歌詞をいただいて、内面は決して妖怪ではなくて、人間の女性の心を持った人なんだなと。でも自分は人間ではないというところで、そこに大きな葛藤を抱えているんだなと思います。
ーー雪女はその美貌で男を惑わせ凍らせてしまう恐ろしさがあるけど、恋をした途端、恋の情熱に身を焦がして溶けてしまう儚さがある。
丘:はい。そういう儚さも、決して愛してはいけない人間の男性を愛してしまったことへの葛藤も、歌を通して表現できたらいいなと思いました。
ーーレコーディングでは、「こういう風に歌ってほしい」といったディレクションはあったのですか?
丘:レコーディングでは、歌い上げすぎず語るように歌ってほしいと言われました。前半は、「知られたくない顔があるのよ」と、「雪女が独り言を言っているような気持ちで歌ってください」と。曲の後半は、相手への届かない気持ちをぶつける感じで、それが届くようにと魂を込めて強く歌いました。
ーー〈雪 雪 雪〉と繰り返すところに情念を感じます。やはり一番の聴かせどころは、サビですか?
丘:そうですね。それと冒頭の〈不実でしょうか 愛していても 知られたくない 顔がある〉は個人的に好きなフレーズで、ここから一気に「雪陽炎」の世界にグッと入り込めます。
ーーオケの中に琵琶のような音も聴こえていて、『琵琶法師』や『平家物語』を思い出して、物語を歌うというところでぴったりだなと思いました。以前のコンサートでは、実際に琵琶奏者の方が演奏していましたね。
丘:はい。私の楽曲では琵琶が入ることが多いのですが、昨年のコンサートでは三味線奏者の方に弦を緩めて琵琶っぽい音で弾いていただきました。レコーディングでは琴を使っていて、他に篠笛と鼓も入っています。和楽器が入ると何とも言えない独特の味わいが生まれますし、物語を語り継ぐような雰囲気が出るので、それは和楽器の魅力の一つです。それに、その音によって歌の世界観にグッと入っていきやすくなります。
ーー丘さんの歌声の妖艶さはそのままに、包み込むような包容力が増した気がしました。
丘:そういう話で言うと、最近SNSのコメントで「みどりちゃんの歌は数回聴くとお腹いっぱいになっていたけど、この曲は何十回も聴ける」とファンの方から言っていただいたのは嬉しかったです。くどくないというか、声が少し優しくなったのかもしれません。
ーー丘さん自身では、何か思い当たる節が?
丘:それが、これと言ってなくて(笑)。でも、生活環境が変わって、歌に対する取り組み方が無意識的に変わったのかもしれません。
ーー家で歌の練習をするのは大変ではないですか? あまり大きな声も出せないでしょうし。
丘:割と大きな声で歌っていますよ。娘が少しグズっていても、私が歌い始めると静かになって、ジッと聴いてくれるんです。歌い終わるとまたグズりだして、歌い出すと静かになるという(笑)。だから、テレビやコンサートで初めて歌う曲を、最初に聴くのは娘なんですよ。でも歌う曲によって反応が違っていて、こういう曲は好きじゃないんだなとか、小さいなりに好みがハッキリしていて面白いです。
ーーMVでは着物のシーンをメインに、ワンピースを着て横たわっているシーンも。「明日へのメロディ」の時も横たわっていましたね。
丘:横たわりがちで、上から羽や雪が降りがちです(笑)。着物を着ている時は雪女で、ワンピースを着ている時は人間の心を持っているという演出だったので、ちょっとした表情の演じ分けがありましたけど、監督からアドバイスをいただきながら撮影しました。
ーー着物の衣装は雪女をイメージしているのですか?
丘:はい。桂由美さんデザインの打ち掛けを着させていただきました。打ち掛けはお花の模様なのですが、青と白で雪女のイメージにぴったりだなと思って選ばせていただきました。本当に素敵な衣装でコンサートでも着ているのですが、MVやジャケット写真などでは、柄の細かいところまでじっくり楽しんでいただきたいです。
ーーYouTubeで公開されているMVには、南米や東南アジアからのコメントも多く寄せられていました。
丘:海外の方で、丘みどりの歌を「歌ってみた」をやっている動画も結構たくさんあるんです。こんな時だから海外には行けないですけど、海外でコンサートをやりたいという話は以前からしているので、行けるような状況になったら海外でも「幽玄組曲」を演じてみたいです。
ーー海外に雪女のような伝説ってあるんでしょうか?
丘:雪男とかイエティとかならありますけど(笑)。それに暑い国の人が、雪女をどういう風に解釈してくださるのか、とても興味がありますね。