YOASOBI、藤井 風、WurtS……TV出演方法から考える、ネット経由のブレイクアーティストたちの狙い
Spotify、YouTubeなどを介してブレイクしたアーティストたちは、当初その全貌を明かさないことで独自の魅力を形成していき、SNSを中心に話題になり、それをメディアが取り上げていく、という流れが生まれた。結果、ここ数年でそういったアーティストらのTV出演も増え、その都度大きな反響を呼んでいる。偶発的なものからアーティストが丁寧に準備したものまで反響は様々だが、各アーティストの動きを見ていくことでわかることもありそうだ。
例えば、2年連続で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場したYOASOBIは、その見せ方によって特別感を演出してきたアーティストだ。「夜に駆ける」発表後、『とくダネ!』(フジテレビ系)や『NYLON JAPAN』といった情報番組、ファッション雑誌などを通して徐々に素性を明かし、存在を発信してきたYOASOBIだが、結果としてそれは独自のカラーを作り出すことに成功した。
昨年12月にリリースされた『THE BOOK 2』では、年末の音楽特番への出演に際して同作に収録された全曲をパフォーマンスする企画も行われた。出演番組によってほぼ披露する曲が被らないという、メディアと協力したこれまでにないエンターテインメントを完成させた。TV露出においても決して特別感を損なわないYOASOBIが、今後どのような形で音楽を届けるのか、その動向に注目していきたい。
音楽番組の皆さまの多大なるご協力をいただき、 #THEBOOK2全曲TV披露 が近づいてきました…!
「ベストアーティスト」で披露させていただいた「群青」は大晦日「紅白歌合戦」でも全力でお届けします🟦
2021年ラストまで一緒に駆け抜けましょう🔥🔥https://t.co/HC0twCDIPv pic.twitter.com/J8vZ4XwPbE— YOASOBI (@YOASOBI_staff) December 25, 2021
YOASOBIと同じく、TV露出において新たな衝撃をもたらしたのが藤井 風だ。『第72回NHK紅白歌合戦』でのパフォーマンスも未だ記録に新しいが、彼もまた従来のアーティストとは異なる歩みを見せている。
メジャーデビュー以前からYouTubeでのパフォーマンスが話題となっていた藤井は、2021年3月に初めてTVに生出演。『報道ステーション』(テレビ朝日系)で生演奏された「旅路」は、コロナ禍の中で“卒業”を迎える全ての人に向けて届けられ、瞬く間にSNS上でもトレンドに。報道番組を初めての場に選択したこと、それ自体が藤井の音楽性や活動スタイルを象徴しているようにも感じた。
昨年の『第72回NHK紅白歌合戦』で見せたパフォーマンスもセンセーショナルなものだった。当初「きらり」のみの披露がアナウンスされていたが、実際は岡山の藤井の実家から「きらり」を歌唱、その後画面が切り替わると東京国際フォーラムのステージに本人が登場し「燃えよ」を生演奏するサプライズ演出がなされた。藤井のMVも手がける山田健人が監修したこの演出は、YouTube→『紅白』というストーリーを想起させると同時に、『紅白』すらも演出の一部に利用する大胆なものであった。
藤井(と彼の制作チーム)にとってTVというメディアは、これまで数々の音楽と触れ合ってきたツールであるがゆえに、その絶大な影響力が時に諸刃の剣となることも理解しているのかもしれない。だからこそ、露出は最小限に抑えつつも、最大限自分の音楽が届けられる場所を選んでいるに違いない。