YOASOBIと同じ空間にいることの特別さ リスナーとの“はじめまして”を叶えた武道館初有観客ライブを観て

YOASOBI、武道館初有観客ライブレポ

 正直なことを言えば、ライブタイトルが『NICE TO MEET YOU』だと知った時点で、なんだかもう胸がいっぱいになってしまった。そうだ、ようやく彼らに会えるのだ、という思いによって。

 2021年12月4日、5日、YOASOBIのワンマンライブが武道館で開催された。これまで開催してきた二度のライブはどちらも配信であり、有観客は自身初だ。2日目となる5日。観客席に囲まれたステージに、カラフルなバンダナをいくつもより合わせた鮮やかな衣装に身を包み、「はじめまして!」という言葉ととともに、跳ねるようにしてコンポーザー・Ayaseとボーカル・ikuraが登場。会場が力強い手拍子に埋め尽くされる。

 開幕の「あの夢をなぞって」のikuraの伸びやかなアカペラが、すり鉢状のドームを満たしていく。過去2回のライブがカメラ越しだったせいだろうか、今、目の前にYOASOBIが実在していて、今耳にしているのが生の歌声であるということが、まだどこか不思議だ。曲を終え、改めてikuraが「NICE TO MEET YOU!YOASOBIです!」と高らかに挨拶する。

 2曲目は「大正浪漫」。今回のステージは床が正方形のパネル状のスクリーンを敷き詰めたものになっており、そこに楽曲に合わせためくるめく和風の柄が映し出される。スクリーンの隙間にびっしりと配置された回転式のライトが会場を縦横無尽に照らし出し、ステージそのものも上下に駆動するなど立体感のある演出が満載で、まるでアトラクションにライドしているような臨場感だ。観客の変則的なリズムに乗った手拍子もしっかり合っており、曲を聴き込んだリスナーが集まっていることが窺えた。

 「ハルジオン」、「三原色」と続き、MCへ。衣装がグレー調だった1日目と違っていることに触れ、端切れがたっぷりとついた袖をひらひらと振って見せて「鳥みたい」とikura。「昨日、高校1年生の時に初めて武道館に来た時に買ったライブグッズを見返して、『自分がここに立つんだ』と考えていました」。Ayaseは「16歳の時から10年近くバンドを組んでいたんだけど、1日目、2日目とも、前日の夜の夢にバンドメンバーが出てきて、これは何かのお告げかなと」と、それぞれ武道館への思いを語った。

 そこから「もう少しだけ」、「ハルカ」、「たぶん」と、ゆったりとした雰囲気の曲が続き、一度暗転。一人椅子に座ったikuraが語りだすのは、舞台『もしも命が描けたら』のあらすじだ。画家の夢を諦め、命を絶とうとしていた月人。そんな時出会った女性・虹子、そして虹子の愛する男・陽介。命の分だけ、絵を描くことを決意する月人の物語だ。ikuraの朗読が染みわたっていく。そうして、舞台の主題歌であり、同名タイトルの「もしも命が描けたら」を歌唱。床面には、月の色を思わせる金色で歌詞が浮かんでは消えていく。曲と演出が織り上げる、切なく、人間の極限に迫るような圧倒的な世界観に呑まれていくようだった。

 再びMCに入り、1日目にトレンド入りしたキーボードの禊萩ざくろから始まり、ギターのAssH、ベースのやまもとひかる、ドラムの仄雲と、いつものバンドメンバーを紹介。今回のライブは、写真撮影OK、SNSへの投稿もOKということで、Ayaseとikuraがステージ上をぐるっとゆっくり歩き、観客のカメラに応えるスクショタイムがスタート。さらに、ikuraのプライベートカメラを持ち出し、各方角の記念撮影をするなど大いに盛り上がる。

 今年2月に配信された初ライブ『KEEP OUT THEATER』、7月配信の『SING YOUR WORLD』と、過去の配信を観ている人にとっては、「YOASOBIのライブ」そのものは初めてではない。けれど、会場を全力で楽しむ2人の姿に、YOASOBIとリスナーが同じ空間にいるということが、初めてで、そして特別なことなのだと、ここで改めて思い知る。

 そこからは、駆け抜けるようなラインナップが続く。会場を一気に盛り上げる代表曲「夜に駆ける」からステージが再開。続く「怪物」は、今回のライブのハイライトだったと言っていいだろう。悲鳴の演出から始まり、リスナーの骨に直接響くような低音、客席をかき乱すようなレーザービーム、火柱、絶えず上下に駆動するステージ、そんな中でも存在感を失わない力強いikuraの歌声と、楽曲の圧倒的な迫力で、会場の熱量が最大値に高まった。

 一転して、スモークが焚かれ、幻想的で厳かな雰囲気のなか始まるのは「優しい彗星」。観客がスマホのバックライトを点灯させて演出の一つとなり、会場には無数の光が星空のように広がった。さらに、旋律の美しさとイノセントな歌声際立つ「アンコール」へ。そして極まった切なさを拭い去るように、「ツバメ」が歌われる。レーザービームで描かれたツバメが客席を飛びまわり、爽やかでカラフルな音色が会場を満たす。〈僕らは色とりどりの命と/この場所で共に生きている〉という歌詞が、会場の光景とオーバーラップするようだった。

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