“2021年のMVP"ラウ・アレハンドロ 全ポップミュージックリスナーが素通りできなくなったレゲトンの進化
『TIME』誌は年末の特集『The 10 Best Songs of 2021』(※1)の1位にFarrukoのまるで気が触れたような中盤のシンセソロが印象的なパーティーチューン「Pepas」を選出し、『Rolling Stone』誌は恒例の『The 50 Best Albums of 2021』(※2)でRauw Alejandroが音楽的躍進を遂げた2ndアルバム『Vice Versa』をOlivia Rodrigo、Adeleに次ぐ3位にランクインさせた。昨年は、2010年代後半以降凄まじい勢いで世界各国のチャートを席巻してきたレゲトンが、ようやくそのマーケット規模に見合うだけの正当な評価を獲得した年になったと言うことができるかもしれない。
象徴的だったのは、(日本でもNHK BSプレミアムで放送された)2021年11月21日にロサンゼルスで開催された『アメリカン・ミュージック・アワード 2021』だ。授賞式は最優秀ラテンアルバム賞の発表で幕を開け、同賞を2年連続で受賞したBad Bunnyは壇上のスピーチで「僕の音楽を聴く世界中のみんなに感謝する」と「世界中」(Del mundo)という言葉を強調し、「レゲトンというジャンル、それを育んできたラテンの文化と言語とコミュニティに感謝する。プエルトリコ、愛してるよ」と締めた。そのBad Bunnyは自身のお馴染みのヒット曲ではなく、レゲトンを黎明期から支えてきたプロデューサーの一人であるTainyと、メキシコのベテランシンガーソングライター、Julieta Venegasと共に最新テクノロジーを駆使した強烈なインパクトのパフォーマンスを披露。授賞式のクライマックスはプレゼンターのアンソニー・ラモス(『イン・ザ・ハイツ』主演)から最優秀女性ラテンアーティスト賞を授かったBecky Gのスピーチだった。「この賞をラテンコミュニティに捧げます。私たちのコミュニティはマイノリティかもしれませんが、あなたは一人じゃありません。私たちは200%の努力によってアメリカンドリームを叶えています。(ラテン系移民の多い)イングルウッドの出身であること、メキシコ人であることに誇りを持っています」。
レゲエとヒップホップの影響下で90年代にプエルトリコで生まれたとされるレゲトンだが、Bad BunnyやBecky Gの発言が改めて示しているのは、レゲトンは音楽的な影響と同じかそれ以上に、“コミュニティの音楽”であることと“自分たちのフッドで使われている言語による音楽”であることにおいて、ヒップホップからその“思想”を引き継いでいるということだ。レゲトンに対して「嫌いじゃないけどビートがどれも同じに聞こえる」という声を耳にすることも少なくないが、一つのアートフォームがまるで共有知的財産(もちろん聴き込むにつれてビートメイカーによる個性の違いはわかるようになるが)であるかのようにメディア化して、それによって世界中のクリエイターにとっての参入障壁が取り払われて勢力を拡大し続けてきたところもヒップホップと同じだ。また、2010年代にはそのムーブメント化の過程においてEDMのクリエイターやオーディエンスとの交配が起爆剤になったという点では、ヒップホップでもとりわけトラップミュージックとの近似性を指摘することも可能だろう。