『ハッピーエンドへの期待は』インタビュー
マカロニえんぴつ、“心の動き”を表現し尽くす音楽 イメージの共有が引き出したバンドとしての強さ
マカロニえんぴつからメジャー1stフルアルバム『ハッピーエンドへの期待は』が届けられた。
すでに“マカロニえんぴつの新たな代表曲”として認知されているリード曲「なんでもないよ、」、アルバムのタイトルトラック「ハッピーエンドへの期待は 」(映画『明け方の若者たち』主題歌)、「はしりがき」(『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』主題歌)、さらにはっとりがDISH//に提供した「僕らが強く。」のセルフカバーなどを収めた本作は、メジャーデビュー以降の彼らの軌跡、そして、ロックバンドとしての矜持とジャンルを超越した音楽性が強く刻まれている。
リアルサウンドでは、はっとり(Vo/Gt)、高野賢也(Ba/Cho)、田辺由明(Gt/Cho)、長谷川大喜(Key/Cho)にインタビュー。最新作の話題をフックに、この1年の活動、現在のバンドのモード、10周年を迎えた心境などについて語り合ってもらった。(森朋之)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
これまで培ってきたノウハウを含めて持ち球を全部投げた
ーー『ハッピーエンドへの期待は』が完成しました。みなさんの手応えはどうですか?
はっとり:息つく暇もなくずっと制作を続けてきたんですけど、アルバムとしてまとまったときに「1曲ずつこだわりを捨てず、クオリティの高いものを目指して作ってきたんだな」と実感しましたね。
田辺由明(以下、田辺):ツアーも2回やって、それが終わったらすぐに制作に入って。2020年は思うようにライブができなかったけど、2021年はずっと忙しかったし、音楽をやれる喜びもたくさん感じられて。テレビアニメ、アニメ映画のタイアップを担当させてもらえて、今まで届いていなかったかもしれない層に聴いてもらえたのも嬉しかったですね。
ーー以前から目標に掲げていた“全世代に届く音楽”に近づいたと。
田辺:そうですね。結成のときから言ってましたからね、それは。
はっとり:うん。特にホールツアーのときにそれを感じました。子連れのお客さんも多かったし。
高野賢也(以下、高野):2021年は音楽にじっくり取り組めた1年だったと思います。1曲1曲に集中して制作して、ライブをやって、気付いたら1年過ぎていたというか。いろんなスタジオでレコーディングをしたり、ライブの機材も一新したり、音楽活動の環境も新しくなって。個人的にはライブでイヤモニを使うようになったのも大きいですね。それによってライブのやり方がガラッと変わったので。
はっとり:イヤモニって、ホールツアーからだっけ?
田辺:うん。
はっとり:そうか、けっこう最近だな。
田辺:繊細なアレンジの曲が増えているから、イヤモニのほうがいいとは思いますね。
はっとり:勢いで進めたほうがいい曲もあれば、緻密にやったほうがいい曲もあって。僕は使ったことないんですけどね、イヤモニは。ライブで歌うことの楽しい部分が削られる気がして。高校時代から、ずっと“ころがし”(足元に置いたモニター)でライブをやってますから。
ーーこの先、もっとライブの会場が大きくなっていくとそのうち考えないといけないですよね。長谷川さんは、2021年をどう捉えてますか?
長谷川大喜(以下、長谷川):あっという間だったし、充実してましたね。みんなが言った通り、曲作りとライブが続いていたんですけど、今回のアルバムに関しては、コロナの環境を踏まえて作った楽曲が多い気がしていて。お客さんが声を出せない状況で、どうやって音楽で会話するかを意識していたというか。僕らはありがたいことに、配信も有観客ライブもかなりやれて。そのなかで感じたことがこの作品につながっているんだと思います。
はっとり:(コロナの影響は)曲作りには出てるんじゃないかな。1曲1曲アレンジをしっかり練っているし、かなり“部分部分”で録ってたんですよ。「ここはアレンジが決まってないけど、ラストのギターはイメージがはっきりしてるから、そっちを先に録っちゃおう」とか。そういう意味では、セッションライクではないんですよね。そのぶん展開が多かったり、流れをぶった切るようなアレンジもあって。かなり歪だったりするんだけど、それが心境の揺れみたいなものを表しているし、ドラマ性にもつながっていると思うので。
ーー気持ちの揺れ動きと楽曲の構成がリンクしている、と。
はっとり:心の動きって、説明がつかないじゃないですか。それをそのまま表現しているというのかな。今回のアルバムは内面を描いた曲が多いし、双極的なところもあると思います。ライブでノリやすいとか、お客さんを掴みやすいみたいなこともあまり考えていなかったです。それは良い、悪いの話ではなくて、そういうモードだったというだけなんですけどね。次はもしかしたら「バンドで一発撮りしよう」とか、セッションライクな制作に移行するかもしれないし。
田辺:そうだね。
はっとり:あと、この1年の制作に関しては、サブスクで勝負をかけたところもあったんですよ。ライブに来られない人を音で楽しませたいというか、1曲だけで強烈な印象を与えたくて。ライブの再現性は後で考えるとして(笑)、まずはイヤホンやヘッドホンを通して、インパクトを感じてほしいなと。
ーーなるほど。今の話もそうですけど、この1年の状況がかなり反映されているんですね。
はっとり:自分たちのうまみだったり、“らしさ”がどこにあるのかわかっていないから、やれること、得意なことをとにかく詰め込もうと思って。そうすればどこかが引っかかってくれるんじゃないかなと。生のストリングスやシタールギター、「なんでもないよ、」では電子パッドのドラムを使ったり。そのときにやりたいこと、これまで培ってきたノウハウを含めて、持ち球を全部投げたというか。いったん、このアルバムですべて出し切った感じもありますね。
バンドの中で進んだ楽曲制作に対する“共通認識”
ーーアレンジの面白さということでは、「TONTTU」はすごいですよね。はっとりさん、田辺さんの共作曲ですが、ハードロックのテイストが全面に出ていて。プログレッシブな構成だったり、“セリフ”を取り入れていたり、マカロニえんぴつにしか作れない楽曲だなと。
はっとり:こういう面白さは先人たちに教えてもらったんですけど、今のバンドはなぜかやらないですよね(笑)。
田辺:もともとハードロックが大好きで、今でも自分のことをハードロックギタリストだと思っているんですけど、「TONTTU」みたいな曲をやれたのは嬉しかったですね。「ポップ寄りの曲のなかでハードロックライクなギターを弾く」というのはあるんだけど、完全にそっちに寄った曲は初めてだったので。
はっとり:そうかもね。
田辺:他の曲でもハードロック的なアプローチをしていて。ハードロックギタリストとしてのテイストを提示した1枚でもありますね、個人的には。
はっとり:具体的には?
田辺:そうだな……。ギターソロでいえば、「メレンゲ」はすごく気に入ってますね。
はっとり:あのギターソロは、UFO時代のマイケル・シェンカーですね。好きな人なら絶対わかる(笑)。
ーーマイケル・シェンカーの名前がインタビューで出てくること、最近はほとんどないです(笑)。
はっとり:目黒のTHE LIVE STATIONに行けば、みんなそういう話をしてると思いますけど(笑)。邦ロック界隈で活動をしているバンドだと、あまりいないかもしれないですね。
田辺:うん(笑)。はっとりとは最初、ハードロックの話でつながったところもあるし、10年近くバンドをやってきて、「TONTTU」みたいな曲をやれたのは感慨深いです。
ーーしかもマカロニえんぴつらしいユーモアもたっぷりあって。ポップミュージックとして成立しているのが素晴らしいなと。
はっとり:そう、目的ではなくて手段なんですよ。あくまでもポップソングを作るのが目的であって、ハードロックをやりたいわけではないので。この人(田辺)はやりたいだけかもしれないけど(笑)。
田辺:ハハハ(笑)。
はっとり:そうやってパワーポップも生まれたと思うんですよ。ギターは歪ませたい、でも、あくまでもポップスをやりたいという折り合いのなかで、Weezerみたいなバンドも出てきたというか。Sum 41のメンバーももともとはメタルキッズですからね。
ーーなるほど。高野さんも「音楽的にやりたいことをやれた」という実感はありますか?
高野:すごくありますね。今話に出ていた「TONTTU」で言えば、アフレコもやって。
はっとり:「小芝居」とも言われてたけど(笑)。
高野:(笑)。アニメが好きなので、キャラになりきってセリフを言えたのはよかったなって。以前から「マカロニえんぴつはいつか、セリフを取り入れた曲をやるんだろうな」と思っていたので。
はっとり:(笑)。君もマカロニえんぴつだよね? 「こいつら、いつかやるんだろうな」って、なぜ蚊帳の外からの発言なんだよ。
ーー(笑)。曲調が多岐に渡っているので、ベーシストとして求められることの幅も広いですよね。
高野:そうですね。メンバーからも「こういうベースラインでやってみて」とか、音色や歪みのことについて意見をもらうこともあって。たとえば「裸の旅人」のベースラインも、自分一人では出てこなかったと思うし。
ーーネオソウル、ファンク系のベースですよね。確かに「裸の旅人」は、ベースがキモになっているかも。
はっとり:高野は足元(エフェクター)ではなくて、ベースに付いているトーンを使って音を作るのが上手くて。
高野:弾き方もいろいろ試してますね。ブリッジ寄りで弾いたり、親指を使ったり。
ーープレイヤーとしての個性やセンスもすごく出ているし、それもバンドらしさにつながっているんだと思います。
はっとり:そうですね。人が見えるというか、音からメンバーの姿が見えれば勝ちかなと。ロックバンドは佇まいだと思うし、それぞれの姿を想起してもらいやすい音作りにしているので。さっき言ったように“部分部分”で録っているし、ファンの人がレコーディングを見たら、「ぜんぜんバンドらしくないじゃん」と思うかもしれないけど(笑)、楽曲の着地点というか、「最終的にこうなる」というイメージを共有できているのも大きいですね。3、4年くらい前までは、僕だけイメージしていて、それをメンバーに伝えてもポカンとされることがあったんですよ。でも、「だまされたと思ってやってみて」と言っているうちに、「なるほど、はっとりがやりたかったのは、これだったのか」とわかってくれるようになって。そこがつながると、次の制作でも「今やっている作業は、最後にこうなる」という方程式が使えるじゃないですか。それが少しずつ増えてきて、今はツーカーでわかるようになって。最近はメンバーが新しいエッセンスを提示してくれるようになったし、イメージの共有をしつこくやってきてよかったなと。今までやってきたことは楽にできるし、新しいことは楽しんでやれる。レコーディングを楽しむコツがわかってきましたね。
長谷川:最初ははっとりくんが言っていることが、ぜんぜんわからなかったんですよ(笑)。僕はもともとエレクトーンをやってたんですけど、エレクトーンって、一人で完結できる楽器で。一台でメロディ、ベース、ドラムまでやれるので、人の意見を取り入れながら、みんなで音楽を作り上げる経験がなかったんです。たとえば「おしゃれな感じ」と言われても、みんながイメージしている“おしゃれ”が違うこともあったし、それを理解するまでにかなり時間がかかって。そもそもロックもあまり知らなかったんですよね、僕は。
はっとり:そうだな。
長谷川:でも、はっとりくんが諦めずに言い続けてくれたことで、だんだん共通認識ができて。「こういう曲を作りたい」と同じベクトル、同じ強さで制作できるようになってきたんですよね。