MAISONdes管理人に聞く、既存の枠組みにとらわれない音楽の届け方 立ち上げ意図から「ヨワネハキ」以降の構想まで

MAISONdes管理人インタビュー

 どこかのアパート、六畳半。あなたの歌。ーーそんなコンセプトを掲げるMAISONdes。アパートの一室にアーティストが入居し、コラボレーションする形で曲を作るMAISONdesは、今年2月から毎月1曲ずつ新曲を発表し続け、5月に公開された「ヨワネハキ feat.和ぬか, asmi」がTikTokを中心に爆発的な人気を獲得。2021年のTikTok流行語大賞のミュージック部門賞を受賞、さらにはBTSやYOASOBIなどを抑えて「楽曲別」でも「アーティスト別」でも2021年の投稿数1位を記録し、歴代の楽曲使用投稿数を更新するなど、名実ともにSNSで一番“使われる”音楽アーティストとなり、スタートから1年足らずで一大ムーブメントを起こすこととなった。だが、MAISONdesそのものの全容はまだまだ謎が多い。そんな「どこかのアパート」について、MAISONdesの“管理人”に話を聞いた。(満島エリオ)

架空のアパートにある「私のための部屋」

ーーMAISONdesはどのような企画意図から生まれたのでしょうか?

管理人:インターネットを主戦場として自主制作物をDIYで発表する人が増えていく中で、そういう人たちが1カ所に集まる場所が作れるといいな、と思ったのが始まりです。それに賛同してくれたアーティストと自然な流れで一緒に始めることになりました。コロナ禍で分断されて1人の時間が増えている状況だったので、聴いてくれる人/観てくれる人の心の隙間にはまる部屋が1人ひとつでもあるといいなということで、MAISONdesというアパートの「部屋の歌」という形になっています。

ーー全曲に共通するテーマとして「六畳半の部屋」が掲げられています。

管理人:「四畳半フォーク」というものがありましたが、基本的にはその延長です。四畳半の部屋を探す方が今は難しいのと、フォークソングは今あまり聴かれないだろうと思って「六畳半ポップス」と言っています。でも、「四畳半フォーク」の時代も今も、どんな状況であれ、20歳前後で都市部に1人で出てきた人の孤独感というものは変わらずある。そういう人たちにとって、「この歌って私のための歌だな」って思ってもらえればいいと思っています。

ーーMAISONdesは曲の作り手と歌い手が様々にコラボして曲を作っていくという点が特徴ですが、アーティストの組み合わせや曲の方向性はどのように決めているのでしょうか?

管理人:原則としては「六畳半の部屋に住んでいる人の歌」というルールしか伝えていません。あとは、そのアーティストの普段見ることができない新しい側面を見せたいと考えているので、組み合わせもそれを重視して決めています。「ヨワネハキ」のasmiさんも、普段は自身で作詞作曲した楽曲を歌う活動をメインにされてますし、このようなタイプの曲は歌っていない。他の皆さんも、それまで歌ってきた歌とは違うタイプの歌を作るようにしていました。

ーー具体的な楽曲で言うと、どんな化学反応がありましたか?

管理人:例えばyamaさんは、1曲目にリリースした「Hello/Hello feat. yama, 泣き虫」のようなギターロック的な音楽をこれまでやっていなかったので、純粋に新しい側面を見られるのは楽しかったです。あとはEMA(DUSTCELL)さんとたなか(元ぼくのりりっくのぼうよみ)さんが作ってくれた「ダンス・ダンス・ダダ feat. EMA, たなか」も、ファンの方が聴いたことないだろう曲に仕上がったと思います。EMAさんはもともと、ぼくりりの大ファンでもあったようです。

【103】[feat. EMA, たなか] ダンス・ダンス・ダダ / MAISONdes

「ネット系アーティスト」という言葉はナンセンス

ーーMAISONdes楽曲のトップバッターとなったyamaさんは、「春を告げる」によってネットシーンで一躍有名になりましたし、注目度も高かったのではないでしょうか。

管理人:確かにyamaさんのような存在は「ネット系の音楽」と括られがちですが、MAISONdesを始めたひとつの理由が「ネット系という言葉をなくしたい」ということだったんです。今はインターネットを使ってないアーティストなんてほぼいないから、もはや意味のない括りだなと思って。そういう人達に、ライブハウスやストリートを主戦場として活躍してきた人と組んでもらうことで、「ネット系」の外にも出られるようにしてあげたかったんです。

ーー「ネット系」と呼ばれる音楽は、今やメインストリームにもなりつつあると思うのですが、管理人さんの中ではそれをどのように捉えていますか?

管理人:「ネット系」の発端にあるボカロ文化というのは、顔を出さないボカロPがいて、初音ミクが歌っていたり、歌い手がいっぱいいるという、日本独特のインターネットミュージックだと思います。かつてはそれが特定の嗜好性を持った人たちが好んで触れる“ジャンル”だったけど、10年くらい前からいろんな形でメインストリームに食い込んでくるようになりました。今では「バンド」と同じくらいの創作・発表活動のひとつのフォーマットとして、本当の意味で一般化してきたことを感じています。

ーーフォーマットですか。

管理人:例えば、かつてバンドブームだった時は「俺がギターやるから、君はベースやってよ」とか、「ドラムやりたいからバンド組もう」というふうに音楽を始めていました。けど同じバンドでも、X JAPANとTHE BLUE HEARTSは全然タイプが違いますよね。バンドはあくまでフォーマットで、それぞれに違う個性があるんです。

 今、ボカロ文化のフォーマットがそれに近いものになってきたなと感じています。「私、ペンタブレット持ってるから絵描けるよ」とか「私が歌うから曲書ける人を探そう」というように、「バンドやろう」と思った時と同じ気持ちで選ばれるようになった。その中でパンクをやるのかメタルをやるのかは趣味嗜好の話であって、その全部を「ネット発」とひと括りにするようなものじゃないなと。

 そして、MAISONdesの「歌う人と作る人が別々で、顔出しをせずに制作する」という形態は、ボカロ文化のフォーマットをそのまま拝借しているんです。このフォーマットを使ってもっといろいろな楽しみ方ができるという提案でもあるし、それくらい「もう一般的なものだよね」と証明したかったのが、MAISONdesのコンセプトの中のひとつです。

ーーお話を聞いていると、MAISONdesは「枠組みを作る」というよりも、枠組みを「外していく」取り組みなのかなと感じました。

管理人:そう言われてみれば、そうなのかもしれません。

【101】[feat. yama, 泣き虫☔️] Hello/Hello / MAISONdes

「ヨワネハキ」が作ったムーブメント

ーー5曲目にリリースされた「ヨワネハキ」は一大ムーブメントとなりました。世の中のリアクションを見て、コンセプトが伝わった感覚はありますか?

管理人:半々ですね。そもそも「ヨワネハキ」を作ったのは、どちらもいわゆるインターネットカルチャーの中にいた人ではないんです。曲を作った和ぬかさんは、ボカロPじゃなくて自分で歌っていたし、歌い手のasmiさんはストリートライブもしながら活動している人。そんな人たちが、このフォーマットで結果を出したことを見ると「間違っていなかったな」と思います。もう一方で、MAISONdesを「新しいもの」と感じているのは概ね28歳以上の人だと思うんですよ。大人にはメッセージが届いた気がしますし、逆に若い世代の人はそこまでMAISONdesを特殊なものだと意識していない。それでいいんだと思います。

ーーそんな「ヨワネハキ」を最初に聴いた時の感想はいかがでしたか?

管理人:強烈に覚えているのは、asmiさんの仮歌が入ったものを聴いた時に、「これはすごいかもしれない」と思ったことですね。asmiさんとは全部遠隔で制作を行う予定だったのですが、これは歌を録る場にどうしても同席したいと思って、お願いしました。

ーー収録現場ではasmiさんとどのような話をしたのでしょうか?

管理人:キーの高さも曲調もasmiさんが普段歌っていないような歌だったので、「こういう勘所を押さえてください」という話をしました。あとは、歌詞がすごくキャッチーなので、日本語一つひとつをちゃんと聴かせて、何を言っているかわからない瞬間がないようにしましょうと。

【102】[feat. 和ぬか, asmi] ヨワネハキ / MAISONdes

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