平井 大、いかなる時も変わらないシンプルな考え方 『紅白』を前に語る2021年の歩み
今年、『第72回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に初出場を果たす平井 大。昨年に引き続き「Buddy」や「MIRROR MIRROR」など3週間に1度のペースで配信リリースを行い、TikTokやYouTubeなどの関連動画を含めた累計総再生回数は43億回を超える(2021年12月時点)。彼にとって2021年はどういう年だったのか? 活動を振り返りながら、この1年を総括してもらった。そこから見えてきたのは、ボーダーレスな考え方を持った実に人間味溢れる自然体の姿だった。『紅白歌合戦』でのパフォーマンスに期待が高まる中、このインタビューで平井 大という人間の魅力にぜひ触れてみて欲しい。(榑林史章)
知名度に関係なく、いい曲を作ればみんな聴いてくれる時代
ーー昨年からコロナ禍であることに変わりはないのですが、ライブも開催できるようになって来たり、徐々に戻って来ている感じはありますが、平井さんの中ではどんな変化がありましたか?
平井 大(以下、平井):今年はツアーを組めたことが、まず一つ大きかったです。あと、夏は週一で新曲をどんどん出していたので、気分が良かったですね(笑)。
ーー昨年からすごく早いペースで配信リリースを続けていますが、もともとはどういうきっかけだったのですか?
平井:コロナ禍になる以前から、作った順に曲を出していくスタイルをやってみたいと思っていたんですよ。コロナ禍になったことで社会の常識が覆ったタイミングでもあったので、いい機会だからやりたかったことをやってみようと思って始めました。
ーー曲ができてすぐリリースするスタイルは、どうしてやってみたかったのですか?
平井:アルバムとして作るのって、何か疲れちゃうんです。たくさん曲を作っても、アルバムのテーマに合わないから入れるのをやめようという精査をしてしまう。なのでもっとラフなスタイルで、Instagramに写真をあげる感覚で曲を出していきたいと思ったんです。自分が発信したいものをタイムリーにお客さんに届けられるわけだから、音楽を聴いてもらうという意味ではすごく理にかなったスタイルじゃないかと思います。
ーーもともと曲を作るのは早いほうですか?
平井:1曲に対して時間をかけてもいいことはあまりない、というのが僕の考え方です。もちろん時間をかけていいものができることもあるので、そういう時はリリースの時期を延ばせばいいだけですから。でも、直感的に作ったほうが、より届きやすくなるとは思っています。
ーー平井さんの楽曲は、常にシンプルで人間の根源に根ざしたものがテーマになっていて、それがブレないことも人気の一因じゃないかと思うのですが。
平井:そういう人間なんです(笑)。特にそうしようと意識しているわけではなくて、その時に作りたいものを作って、お客さんに聴いていただくという形です。だから自分の中で「こうじゃなきゃ!」みたいなものはないです。
ーーこういう曲を届けたいとか、ユーザーに対して意識することはありますか?
平井:ユーザーに対して全く意識していないと言うと語弊があるかもしれないけど、それよりも自分が「今こういう曲があったらいいな」というものを具現化している感覚です。それがたまたまソーシャルメディアでたくさん聴いていただけたということは、作った側としてはとても嬉しいことです。だけど最初からそこを意識しているかと言うと、そういうことではないですね。
ーーブレずに作っていれば、自然と見つけてくれる人が見つけてくれる。
平井:そういう意味ではすごくシンプルだと思います。いい曲を作れば聴いてくれるし、よくない曲を作れば誰も聴かない。ミュージシャンや曲の知名度に関係なく、いい曲を作ればみんな聴いてくれるという時代なんじゃないかなと思います。
ーー若いファンを中心に楽曲が親しまれていますね。
平井:そうですね。必然的にインターネットを使わないとお客さんとコミュニケーションが取れない時代で、コロナ禍でそれがより一層顕著になった。そうした中でインターネットに敏感な世代が僕の音楽を見つけて聴いてくれているという印象です。10代や20歳前後の若い世代が聴いてくれているということは、これから僕の曲と一緒に歳を重ねて、人生のストーリーを紡いでいくということなので、それはミュージシャンとしてすごく嬉しいですよね。
ーー平井さん自身は若い頃、どういった音楽を聴いていたのですか?
平井:いろいろ聴いていました。カントリーとかアメリカの音楽は日常にありましたし、それに加えてミクスチャーやヒップホップなども身近にあったし、その時々で好きだなと思うものを聴いてきた感じです。
ーー普段はどんな音楽を聴いているのですか? 例えばSpotifyなどでよく聴くプレイリストがあれば教えてください。
平井:「Country Classics from Country Legends」をいつも聴いています。今日は1940年代のカントリーソングを聴いてきましたし。最近は古い曲を聴くことが多いですね。自分が表現するものとかけ離れてはいますけど、そこには自分のルーツがあって。例えば「Vintage Jazz And Blues」で1930年代のジャズやブルースもよく聴きますし、あとは「Country Workout」を筋トレしながら聴きます。
ーーカントリーで筋トレ(笑)。流行の曲は、あまり意識して聴いたりはしないですか?
平井:あまり関係ないですよね。古い曲だろうが昨日できた曲だろうが、自分がいいなと思う曲を聴いて、そこから何かしら影響を受けている。直感的にいいなと思うものを聴くだけなので、何かを意識して音楽を聴くことはないかもしれないです。バックグラウンドとかどれだけの数の人に聴かれているとか、そういうものはあまり重要ではないと思っています。何でもそうで、音楽に限らず映画に触れる時でも写真でも、この人が撮ってるとかこの人が歌ってるとかの情報は全く必要なくて。全然知らない人だけどすごくいい曲を作ってリリースしていることもあるし、直感的に受け取ることが大事だと思っています。
ーー平井さんの中で“いい曲”だと判断する物差しは何ですか?
平井:単純に僕がいいと思うか思わないかじゃないかな(笑)。あとは、その曲を聴いたら気分がよくなるとか。そもそも“いい曲”とは何なのかを答えるのは難しくて、音楽ってすごく直感的なものだから、いいなと思えばいいし、そこに理由はあまり必要ない気がします。
ーー聴く人によってもその時の状況によっても、“いい曲”は変わるということですね。
平井:そうですね。僕自身もその時の気持ちでできる曲が変わるので、それは聴いてくれる側もそうだと思います。実際にスタジオに行って作って聴いた時の自分の気分が、大きく左右してくるんじゃないかと思います。
ーーその時の気持ちで作るから色々な曲が生まれ、聴いてくれる人の多様性にフィットするものになっていく。
平井:晴れているからこういう気分とか、雨だからこういう気分だとか、そういう自分の感覚にいつも触れていることもすごく大事で、そうじゃないと日常が単調になってしまう。生活の中から生まれる曲だからこそ、聴いてくれるみんなの生活に寄り添えるんじゃないかと思います。それが音楽の根本にある姿で、日常の中で流していると気分がいいと思ってくれるとか、そういう風に感じてもらえるかどうかは結構大事にしていますね。
ーーコロナ禍でみんなの心がナーバスになっていることもあってか、音楽をキャッチする感度が高まっているのかなという感じもあって。
平井:それもあるだろうし、外に出られないとか人と会えないという状況で、自分の心に対してどういう風に彩りを付けていくのか。そういう中で、芸術作品が見直された期間でもあったと思います。例えば家で映画を見たりとか、それだけで気持ちはだいぶ変わりますよね。感動したり悲しくなったり、ホラーを見れば怖い思いができたり。そういう作品に対するニーズが増えた期間で、音楽もその中の一つとしてすごく求められたんじゃないかと思います。
ーー平井さんのMVも、非常に芸術性の高いものが多いなと思いました。シンプルで胸にグッと刺さったり、想像力をかきたてたり。映像に対しては、どんな意識で作られていたのですか?
平井:単純に、MVに自分が出るのがあまり好きではなくて。(撮るのに)1日がかりだし朝も早いし(笑)。だからMVは、歌詞と自分の好きな風景を組み合わせたもので、皆さんに伝わればいいなという感じで作っています。
ーージャケットのデザインも、平井さん自身がイラストを描いたものもあって。
平井:去年の作品は全部自分で描いたんですけど、今年は僕のパートナーが撮った写真のアーカイブからピックアップして使っていました。最近は旅行にもあまり行けていないから、写真を選ぶのも大変になって。10月以降の連続配信曲は色だけのジャケットになりました(笑)。ただ写真は、自分の生活により近いパーソナルなものが出ると思うので、パートナーが撮っていることもあって、僕の個人的な部分をさらけ出すことによって、少しでも共感してもらえたらいいなと思いました。