諏訪部順一、梶裕貴、内田彩、伊東健人の歌声を徹底解説 現役ボイストレーナーが紐解く、声優特有の歌唱力の秘密

ボイストレーナーが紐解く、声優の歌唱力

 自ら選曲したJ-POPの名曲を、声優がカバーする『woven songs』シリーズがスタート。第一弾として、諏訪部順一、梶裕貴、内田彩、伊東健人という人気声優による4つのミニアルバムがリリースされた。

 4作品はそれぞれコンセプトが分かれており、UA「情熱」やウルフルズ「バンザイ」などの恋愛曲をセレクトした諏訪部順一『COVER~LOVE~』、Mr.Children「Sign」やRADWIMPS「スパークル」などの自身の人生に影響を与えた曲をセレクトした梶裕貴『COVER~STORIES~』、華原朋美「I’m Proud」や宇多田ヒカル「First Love」などの自身のルーツ曲をセレクトした内田彩『COVER~ROOTS~』、YEN TOWN BAND「Swallowtail Butterfly ~あいのうた~」やブラック・ビスケッツ「TIMING」などの若い頃に流行っていた曲をセレクトした伊東健人『COVER~YOUTH~』と、それぞれの人となりが見える選曲も魅力的な作品群となっている。

 リアルサウンドでは、現役ボイストレーナーとして活躍するMinnie P.氏に、本シリーズの聴きどころや、ボーカリストとしての魅力をボイストレーニングのプロ視点からの分析・解説をしてもらった。いわゆる歌手の歌と声優の歌では、表現や技術においてどのような違いがあるのだろうか。細かいテクニカルな部分のみならず、日本の歌謡曲の歴史や文化にまで話は及び、今回のアルバムを何倍にも楽しめるポイントをいくつも聞くことができた。(草野英絵)

声優の歌声における豊かな表現は“語尾の表情”にある

諏訪部順一「COVER~LOVE~」ダイジェスト試聴

ーー『woven songs』シリーズは、声優の方々が自ら選曲し、アレンジの方向性まで関わっている作品になります。歌にも定評のある方々が参加されていますが、まずは同シリーズ全体の印象について教えてください。

Minnie P.:みなさん、楽曲をすごく丁寧に歌われているな、という印象を受けました。それぞれオリジナルは有名な楽曲ですが、一人ひとりがちゃんと楽曲を自分のものにして歌っている。「この曲には、こんな歌い方があるんだ!」という、新鮮な気持ちで聴けました。

ーー“声優の歌唱“としての特徴を感じられたところはありますか?

Minnie P.:まず、声優さんということもあって滑舌が良く、歌詞がスッと入ってくるのですごく聴きやすいです。一般的にシンガーの方は、割と口を大きく縦に開けて歌うのですが、声優さん、特に女性声優の方は横に口を広げながら歌うのが特徴ですね。あとは語尾にも注目してほしくて、声優さんは一般的な歌手と比べて語尾に表情をつけるんです。その辺が一番大きなポイントなのかなと思います。

 ボイストレーニング的な話ですが、日本の歌謡曲の歴史には小唄などからくる日本人に合った発声法がありました。口をあまり縦に開けず横に広げて鼻腔に響かせて歌う歌唱法があるんです。女性声優さんは、その歌唱法に近いものがある。口の中や舌をたくさん使っているので、必然的に滑舌が良くなるんです。ただ高い声を出すには細く長く口を開けなければ出ずらいのですが、女性声優さんが横に口を開いてのびのびと高い声を出しているのはすごいことで、普通はなかなかできないです。

ーーそれができるというは、声優ならではのトレーニングによって培われた技術や表現力ということでしょうか?

Minnie P.:声優さんは話し方を極めているから、口の中の発音のキレがすごい。そこがアーティストとは少し違うのかなと。もちろんアーティストも発音はいいんですが、(R&Bなどに見られる深いサウンドを作る)口を大きく縦に開けて唇を出す歌唱法が多いんですね。口を縦に開けると舌根が下がるので、高音の中に中音や低音の周波数が混ざるんです。でも女性声優さんの歌い方は中音や低音域があまり入らず、高音の周波数が多くなる。高音というのは、聴いた時に“若い”印象を与えます。若い・かわいい・女性、という要素を強調できる。そういう歌い方をするのはほぼ日本だけで、世界的に見ても珍しいんですね。日本のアニソンや声優さんの歌の魅力が世界に広がっている理由の一つは、その聴き心地の新鮮さにも要因があると思います。

“楽譜にできない音”を表現できる声優特有の強み

内田彩「COVER~ROOTS~」ダイジェスト試聴

ーー声の出し方だけでも、文化にまで話が広がるんですね。一方で、男性声優の歌い方はどのように感じられましたか?

Minnie P.:諏訪部さんは語尾がすごく特徴的で、一番声優らしい歌われ方をしていた印象があります。語尾にアクセントをつける歌い方は、ベテランで言うと郷ひろみさんや西城秀樹さんなどがやっていましたが、今の歌手は少ないんです。でも、昔から日本にはこういう歌い方に対して、かっこいいと感じる感覚があると思うんですよね。

 これは男女問わずですが、歌には1番・2番・3番とあり、全て同じに歌ってはいけないんです。例えば、音量を変えたり、表情を変える、最近はメロディが全然違うというのもあります。もちろん音程やピッチの正確さなどもありますが、歌の流れの中で何かを変えていくことによって、リスナーは「面白い」「歌が上手い」という認識になっていくんです。歌が上手い方は、そうやって変化をつけるのが上手です。声優さんは、そういう変化をつけることが非常に上手いと思います。

ーー声優の方は、なぜ歌の中で変化をつけることが得意なのでしょうか?

Minnie P.:俳優さんは体があっての演技ですが、声優さんは声だけの演技ですから少し大袈裟にしなくてはいけなくて、語尾の微妙なニュアンスを日常的に工夫されています。そこが声優さんの特徴であり、歌における強みだと思います。でも、梶さんや伊東さんはアーティスト寄りの歌い方をされているので、“声優”というだけで一括りにはできないんだな、とは思いますね。

 あと面白いのは、“楽譜にできない音”がたくさん入っていること。例えば、クラシック音楽は楽譜に対して正確に歌うので、それ以外の音は出てきません。そしてR&Bで言えば下から上がる音、いわゆるしゃくる音など、楽譜にない音を歌うことでフックを作りますし、最近のポップスにもそういう歌がすごく多いんです。声優さんたちの歌には、それにプラスして、さらに楽譜に書けない音がたくさん入っているんです。鼻声っぽい音が入ったり、跳ね上げる語尾などが入ることによって、変化があるので飽きることがない。小さい子の歌唱は一本調子ですが、大人になって勉強するうちに色々な声を使って歌えるようになっていくように、声優さんは普段から色々な声を使っていることで、さらに変化を入れることができる。ずっと楽しく聴けるという点は、みなさん共通してあると思います。

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