内田彩が挑んだ、声優アーティストとして異例の無観客配信ライブ どんな場面でも笑顔でいることの尊さを刻む

 2019年11月に声優アーティストとしてデビュー5周年を迎えた内田彩。彼女が3月15日、埼玉・大宮ソニックシティ 大ホールより、『AYA UCHIDA「Reverb」リリース記念無観客配信ライブ~decorate your live!~』をLINE LIVEにて生配信した。

 内田は当初、3月14日と15日に同会場にて5周年記念ライブ『AYA UCHIDA 5th ANNIVERSARY LIVE~live is ephemeral!~』を開催予定だったものの、同ライブは昨今の新型コロナウイルスの影響により今年8月まで延期に。その折に、内田たっての願いでライブコンセプトを新たに練りなおし、無観客ながらも生配信が決定した次第だ。そんな逆境といえる状況下でのステージは、彼女の“内田彩”として生き方をありありと示すものだった。

内田彩『Reverb』(初回限定盤)

 同ライブの主軸となったのは、内田が今年3月に発売したばかりの4thシングル『Reverb』と、昨年11月に発表した4thアルバム『Ephemera』。なかでも『Ephemera』は、これまでの内田の作品とは一変して、自分自身との鬱屈とした葛藤に向き合い、心の奥底にある暗い感情にもがく様子を切り取った作品だ。

 そんな方向転換の背景にあるのは、2019年春に起きた所属レーベルの事業撤退。内田もその影響を大きく受け、制作チームが一新されたとのこと。同チームより提案されたのも、自身の嗜好するポップな音楽性とは一線を画したもので、リリース当時のインタビューでも「私の趣味とは少し違って」「「大丈夫かな?」みたいな思いは正直あるんです」と語っていたほどだ(参考:音楽ナタリー)。誤解を恐れずに言えば、本人の“望まぬ音楽”だと明かすようなもので、もはやマイナスプロモーションではないかと不安に感じるほどだった。

 そんな『Ephemera』の放つ雰囲気は、奇しくも今回のライブを取り巻く状況と重なる形に。しかしながら、ステージで内田が覗かせる表情など、視覚的な情報が音楽に加わったことで、『Ephemera』で描かれた心の葛藤が強調されると同時に、その物語の先にある優しい光を見つけ出す過程も、よりわかりやすくビジュアライズされていた印象だ。当日のセットリストの大枠は、あくまでアルバムと同じ曲順を辿っていたにも関わらずである。

 また、今作で彼女はこれまでとは異なり、ぼそぼそと呟くような低いトーンでの歌い方にも挑戦したという。当日のステージでは、そんな『Ephemera』に特化した歌唱法も十分に発揮されており、当初のライブ開催の延期を余儀なくされたことに少しばかり救われない表情を見せながらも、アーティストとしての優れた技術に基づく自信も感じられた。勝手な想像だが、思わず心配せざるを得なかったリリース当初の内田はもういないのかもしれない。

 ライブ中盤の「Our Wind」を皮切りに、ステージ全体はアルバム同様、ポジティブな雰囲気へと徐々に導かれていく。同曲では、カメラ一台で内田の姿を追いかけ、内田の後ろに広がるカーテンにぱっと花柄のスポットが灯されたり、彼女がバンドメンバーらの前に立って、一人ひとりを自己紹介するようにフォーカスを当てたりと、無観客ライブだからこそできる映像を駆使した試みも見られた。

 ライブ終盤には、この日を通して唯一の過去曲「SUMILE SMILE」を披露。同曲の〈SMILE FOR YOU〉という歌詞は、今年3月に配信された別のLINE LIVEにて今回の無観客ライブ開催が知らされた際、その告知映像にも登場していた。いわば、ファンに笑顔を届けるというライブの“裏テーマ”ともいえる。離れていても、決して一人でいるのではない。そんな内田からのメッセージや、彼女やファンとの繋がりを再認識する瞬間だった。

 この日の最後に届けられたのは、「声」。『Reverb』収録曲で、内田とは切っても切れない縁にあるhisakuniが手掛けた楽曲だ。同曲のレコーディング時、hisakuniはこんなディレクションをしたという。「かわいらしい、いつもの内田さんでお願いします」。内田の飾らない人柄を芯から捉えたアドバイスであり、『Reverb』を通して自身の葛藤を経た彼女にとって、まさにありのままの自分を肯定してくれるような一言だ。この日のステージでも、音源通りの等身大な内田の歌声が会場に響き渡った。

 総括するに、今回のライブや「声」を通して、『Ephemera』が作品としてまた新たな完成形を迎え、内田自身も以前の苦悩を一段と乗り越えられたのではないか。今回の無観客ライブをすべて美談に昇華する気はないが、内田が音楽を通して、どんな場面でも笑顔でいることの尊さを体現しうる存在であることが、その軌跡に改めて刻まれた一夜になった。

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