『Flowers bloom, Birds tweet, Wind blows & Moon shining』インタビュー
Original Love 田島貴男、変わってゆく時代に考え続ける大切さ グルーヴと向き合い深化してきた30年間を振り返る
「若い世代のミュージシャンと音楽の話をするのは楽しい」
ーー2011年からは“田島貴男”名義のソロライブ『ひとりソウルショウ』がスタートしました。バンドのスタイルと並行して、ひとりでステージに立つようになったのは、どういう理由だったんでしょうか?
田島:いろんな理由があるんですよ。デビューしてからずっとバンド形式で活動していて、弾き語りは自分が老人になってからやろうと思っていたんです。ところが2000年あたりから日本各地でフェスが行われるようになってきて、バンド形式のほかに、ソロとして出演するのが一般的になった。あとは音楽市場の変化ですね。1990年代まではCDがめちゃくちゃ売れていて、ある程度売れればそれだけで生活することができた。でも、2000年代以降は急速にCDが売れなくなり、それまで200万枚セールスがあった人も4万枚くらいしか売れなくなったんです。僕は2000年以降も「年に1枚アルバムを出し、ツアーを1回やる」というペースを続けていたんですが、それじゃいかんだろうと。よほど売れているアーティストは別ですが、僕くらいの規模だと、それだけでは続けていけなくなったんです。音楽を続けるためには、インディペンデントな形にして、ライブに重点を置く必要があった。そのなかで始めたのが、『ひとりソウルショウ』なんです。それを形にするまでに10年くらいかかった、ということですね。
ーー『ひとりソウルショウ』をやることで当然、音楽の表現も深化しますよね。
田島:もちろん。若いうちは自分の音楽が偶然を伴ってウケることもあるだろうけど、ある程度年齢を重ねてきて、「これからはひとりでステージに立って、目の前のお客さんたちに楽しんでもらえる実力をつけないと」と思うようになって。いわば落語みたいな芸ですが、それをやる実力が自分にあるのかと。自分を鍛える場を持つためにも、2時間ひとりでステージに立つ必要があったんですよね。いろいろ模索してきて、ようやく板についてきたのは3〜4年くらい前かな。
ーーギターと歌の表現を追求する過程で、ブルースやカントリー、ジャズなどにも改めて向き合うことになった?
田島:そうですね。その前は「バンドのアンサンブルのなかのギター」という捉え方だったんですけど、ひとりでやる場合はそうじゃないし、単にポロンと弾き語りをしても個性がないし、面白くもないなと思って。そのうちに昔のブルースマンが気になってきたんです。ブルースは堅苦しい音楽ではなくて、当時のダンスミュージックなんです。客は酒を飲みながら、踊ったり、歌ったり、文句言ったりしてて、ブルースマンはそれを想定して演奏していた。そのことにすごく影響を受けたんですよね。ギターにはチューニングもいろいろあるし、ピッキングによっても違う。ボトルネック奏法などあるし、ステージでエンターテインメントする上で、すごく理に適ってる楽器なんですよ。まずギターをリペアして、ブルースを勉強して、サニー・ボーイ・ウィリアムソンを聴いて、ハーモニカも吹くようになりましたね。
ーー20世紀のブルースマンのスタイルを現代的なエンターテインメントに結びつけるというか。
田島:『ひとりソウルショウ』を始めて2〜3年はそのスタイルを模索していましたね。その後「接吻」みたいな曲はジャズギターの方が合うなと思い始めて。ジャズギターの要素を取り入れたかったんだけど、自分で調べてみてもよくわからないので、ジャズギタリストの岡安芳明さんに習い始めて。少しずつ鳴らし方がわかってきたという感じです。
ーーギターの表現の広がりは、作曲にも反映されているのでは?
田島:アルバムでいうと『ラヴァーマン』(2015年)あたりからは、そういう曲が増えてきましたね。例えば「今夜はおやすみ」もそうですけど、ケニー・バレルのようなテンションコードを使うようになって。ジャズギターを習ったことで、かつてのジャズミュージシャンの素晴らしさをさらに知るようになったし、音楽の理解が深まったところはあると思います。
ーーここ数年は長岡亮介さん、Ovall、TENDREなど、若い世代のアーティストとの交流も活性化しています。
田島:今の20代後半〜30代前半くらいのミュージシャンは、ジャズに対する理解もあるし、演奏力もすごくあって。昔、テクノなどの機械的な音楽が出てきたときに、「演奏力が問われる音楽はなくなっていく」と言われていたんですよ。僕はそう思わなかったけど、「この先、ミュージシャンは劣化していく」と言う人もいた。実際は逆で、今のミュージシャンはめちゃくちゃ上手い。特にアメリカには優秀な人がたくさんいるし、日本の若い人たちもその刺激を受けて、自分たちの音楽を作り上げようとしている。すごいと思いますよ。
ーーOriginal Love & Ovallによる「接吻」新録バージョンも話題を集めました。
田島:さっき言っていたディアンジェロ以降のグルーヴは、日本ではOvallのmabanuaくんが上手いですよね。レコーディングにはShingo(Suzuki)くんが来てくれたんだけど、「どう歌えばいいかディレクションしてほしい。その通りにやるから」と言ったんですよ。どういうタイミングで歌えばいいのかわからなかったので、Shingoくんとやり取りしながら、やっていくうちに少しずつ掴めてきて。その日はいいテイクが録れなかったんだけど、自分のスタジオでやり直して、この形になったんですけどね。
ーー日本の音楽シーンにとっても、意義深いコラボーレーションだと思います。
田島:若い世代のミュージシャンと音楽の話をするのは楽しいですね。与えられた情報だけではなく、しっかり自分の意識を持って、センスを磨きながら自分なりの音楽を作り上げるのは大変な作業だけど、それをやれる人が飛び抜けていくんだろうなと。それはどの時代も一緒だし、そういうフィーリングを持った人だけがいい曲を作れるんだと思います。
ーー歌詞についても聞かせてください。「bless You!」「Dreams」など、最近の楽曲は人間賛歌的な歌詞が増えている印象がありますが、歌いたいことも変化しているんでしょうか?
田島:“人間賛歌”になっているというのは、ディレクターがそうした方がいいと言ったからなんですけどね(笑)。彼が言うには、僕が作るものは本質的にそういう曲が多いと。最初は「そうかな?」と思ったんだけど、考えているうちに「なるほど」と思うようになって。「フィエスタ」「朝日のあたる道」もそういうふうに解釈できるなと。ただ、そのことを意識したからと言って、そういう曲を書けるわけではないんですよ。例えばコロナ禍になったら、そのなかにいる自分のことを書くしかないわけで。
ーー意図して人間賛歌を書けるわけではないと。
田島:そう、サイコロの目と同じで予測できないですから。意識していること、無意識下にあるものがごっちゃになっているし、最初から「こういう曲を書く」と地図を用意しているわけではないんです。ただ、パンデミックになって「元気よくなれる曲を書きたい」という気持ちになったのも確かで。「bless You!」は2019年に出した曲なので、コロナとは関係ないんですけどね。
ーーライブも積極的に続けてますからね、田島さんは。
田島:『ひとりソウルツアー』はコロナ禍でもやれる時はやりましたから。『KEEP DISTANCE, KEEP MUSIC GOING』を掲げて、なんとかやれる方法を探して……今も大変ですけど、やってよかったと思っています。会場に来てくれるお客さんに、少しでも「楽しかった」「元気出たな」と思ってもらえるライブにしたいという気持ちはありますね。
ーー30周年のアニバーサリーの後も音楽探求の旅は続くと思いますが、次のアクションはどうなりそうですか?
田島:昔からずっと同じ質問をされているんですけど、いつも「全くわかりません」と言い続けてます(笑)。震災もパンデミックも予想できなかったわけだし、何が起きるかはわからないというのが実感です。一つ言えるとしたら、自分を更新し続けていくことは大事だなと改めて思います。
ーー変化することが大事だと。
田島:今まで通りではない、ということです。30年間音楽を続けてきて、一番感じるのはそのことかもしれないですね。2000年以降にCDが売れなくなってきて、それまでのビジネスの形を変えられなかったミュージシャンのなかには、音楽をやめてしまった人もいる。状況は同じではないし、それに対してどう頭を切り替えるか、どう変化していくかが大事だろうなと。時代は変わり続ける、ということなのではないかと思います。
■リリース情報1
『Flowers bloom, Birds tweet, Wind blows & Moon shining』
2021年12月29日(水)発売
通常盤:¥4,950(税込)
完全生産限定盤(4CD+Blu-ray+booklet/special package):¥16,500(税込)
<収録内容>
CD1:通常盤/限定盤共通
Orange Mechanic Suicide (1988)
Deep French Kiss
月の裏で会いましょう
サンシャイン ロマンス
朝日のあたる道
夢を見る人
接吻
ヴィーナス
プライマル
Words of Love
恋の彗星
ラヴァーマン
GOOD MORNING GOOD MORNING
STARS
カミングスーン feat. スチャダラパー
四季と歌
CD2:通常盤/限定盤共通
ムーンストーン
微笑みについて Look At Me, Look At You
The Best Day Of My Life
WALL FLOWER
ブロンコ
Hum a Tune
Dreams
It’s A Wonderful World
守護天使
Your Song
フィエスタ
I WISH
時差を駆ける想い
青い鳥
Bird
CD3:通常盤/限定盤共通
Talkin’ Planet Sandwich (1988)
夜行性
HAPPY BIRTHDAY SONG
いつか見上げた空に
ゼロセット
R&R
ショウマン
LET’S GO!
グッディガール feat. PUNPEE
JUMPIN’ JACK JIVE
沈黙の薔薇
bless You!
LOVE SONG
砂の花~Desert Rose
The Rover
CD4:限定盤のみに収録 / スペシャル音源集
Blu-ray:限定盤のみに収録/ MUSIC VIDEOS
サンシャインロマンス
LET’S GO!
接吻
朝日のあたる道
The Rover
It’s a Wonderful World
DANCE
プライマル
Words Of Love
GOOD MORNING GOOD MORNING
Hum A Tune
アンブレラズ
ディア・ベイビー
宝島
Crazy Love
白い嵐
STARS
冒険王
R&R
夜行性
恋の彗星
Tender Love
美貌の罠
銀ジャケットの街男
沈黙の薔薇
2度目のトリック
明日の神話
カミングスーン feat. スチャダラパー
ファッションアピール
ラヴァーマン
ゴールデンタイム
アクロバットたちよ
ゼロセット
bless You!
Dreams
ソングライン (Short Version)
接吻 / Original Love & Ovall
■リリース情報2
オフィシャルカバーアルバム
『What a Wonderful World with Original Love?』
9月29日(水)発売
<収録曲>
01. 原田知世「朝日のあたる道」
02. 長岡亮介「ディア・ベイビー」
03. 椎名林檎「LET'S GO!」
04. SOIL&"PIMP"SESSIONS & KENTO NAGATSUKA (WONK)「MILLION SECRETS OF JAZZ」
05. 斉藤和義 & Rei「JUMPIN' JACK JIVE」
06. TENDRE「IT'S A WONDERFUL WORLD」
07. 小西康陽「夜をぶっとばせ」
08. Yogee New Waves「月の裏で会いましょう」
09. 東京事変「プライマル」
10. YONCE (Suchmos)「ショウマン」
11. Original Love & Ovall 「接吻」
12. PSG (PUNPEE, 5lack, GAPPER) & Original Love 「I WISH / 愛してます」
Original Love オフィシャルサイト
Original Love 30th Anniversary special site